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令和4年(行ケ)第10009号「ガス系消火設備」事件

名称:「ガス系消火設備」事件
特許取消決定取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和4年(行ケ)第10009号 判決日:令和5年3月27日
判決:決定取消
特許法29条2項
キーワード:進歩性、相違点の判断
判決文:https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/973/091973_hanrei.pdf

[概要]
甲2にはバルブの開閉によりガスシリンダから配管へのガス流を制御することの記載はあるものの、ラプチャーディスクを使用することを前提とした記載であるから、甲2技術的事項から、ラプチャーディスクを用いることなく、複数のシリンダーからのガス供給を開始する時点をずらすという技術思想を読み取ることはできないとして、本件発明の進歩性を肯定した事例。

[特許請求の範囲]
【請求項1】
建物内でのダクトおよび配管を細くすることで施工コストを低下させ、かつ、設計の自由度を高めたガス系消火設備であって、
消火剤ガスが貯蔵された複数の容器と、
複数の前記容器内の消火剤ガスを、電子機器が設けられており消火のために水を用いることができない、前記建物に設けられる部屋である防護区画へ導入する前記配管により構成される導入手段と、
消火剤ガスが導入される前記防護区画の側面を貫通するように前記側面に接続されて前記防護区画から消火剤ガスを排出するための、前記建物内で縦および/または横方向に延びるダクトと、
前記防護区画の避圧口で前記ダクトの端部に設けられたダンパとを備え、
前記ダンパが開閉することで前記ダクトと前記防護区画とが連通および遮断され、
複数の前記容器のうちの一つの容器と別の容器との容器弁の開弁時期をずらして、前記一つの容器と前記別の容器とから放出される消火剤ガスのピーク圧力が重なることを防止して前記防護区画へ消火剤ガスが導入され、
前記一つの容器の容器弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミングであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が重なることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し、前記各容器弁に接続される制御部をさらに備える、ガス系消火設備。

[決定の理由]
本件発明は、甲1発明、甲2技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

[争点]
甲1を主引用例とする本件発明の進歩性の判断の誤り

[裁判所の判断]
1 取消事由について
裁判所は、甲1発明及び甲2技術的事項を認定した上で、以下のように判断した。
『以上のとおり、甲1記載の「容器弁」付き窒素ガス貯蔵容器の「容器弁」と甲2技術的事項の「ラプチャーディスク」は、動作及び機能が異なること、甲1及び2のいずれにおいても貯蔵容器の容器弁又はガスシリンダーのバルブの開閉時期をずらして複数のガスシリンダーからそれぞれ順次ガスを放出することによって保護区域又は保護された部屋の加圧を防止することについての記載や示唆はないことに照らすと、甲1及び2に接した当業者は、甲1発明において、保護区域又は保護された部屋の加圧を防止するために甲2記載のラプチャーディスクを適用することに思い至ることがあり得るとしても、ラプチャーディスクを用いることなく、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらして複数のガスシリンダーからそれぞれ順次ガスを放出することよって加圧を防止することが実現できると容易に想到することができたものと認めることはできない。
・・・(略)・・・
(4) 被告の主張について
・・・(略)・・・甲1に接した当業者であれば、甲1発明において過剰圧力を防止するという課題が存在すると理解し、その課題を解決するために、甲2技術的事項における「複数のシリンダーからのガス供給を開始する時点をずらすという技術思想」を適用すること、その適用の際に、複数の消火ガス容器の開弁時期を制御部によりずらして防護区画へ消火ガスを導入するという周知の手段を採用することによって、甲1発明の各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらすことは、当業者が容易に想到し得たことであり、また、甲2技術的事項において、「ラプチャーディスク」は、複数のシリンダーからのガス供給を開始する時点をずらすための手段にすぎないのであり、原告が主張する、ラプチャーディスクを用いる技術と容器弁を用いる技術とに作用効果上の相違があることは、甲1発明に、甲2技術的事項における「複数のシリンダーからのガス供給を開始する時点をずらすという技術思想」を適用することの妨げとはなり得ないから、当業者は、甲1、甲2技術的事項及び本件出願前の周知技術に基づいて、甲1発明において、相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到することができた旨主張する。
しかしながら、①及び④については、前記(3)ア(イ)のとおり、甲2には、バルブ(図2記載の第1のバルブ30、第2のバルブ34、第3のバルブ38)の開閉によりガスシリンダから配管へのガス流を制御することの記載はあるものの、ラプチャーディスクを使用することを前提とした記載であって、ラプチャーディスクを使用せずに、各バルブの開弁時期をずらして複数のガスシリンダーからそれぞれ順次ガスを放出することよって保護区域又は保護された部屋の加圧を防止することについて記載や示唆はないことに照らすと、甲2技術的事項から、ラプチャーディスクを用いることなく、「複数のシリンダーからのガス供給を開始する時点をずらすという技術思想」を読み取ることはできないというべきである。
したがって、被告の上記主張①及び④は、その前提を欠くものであり、採用することができない。
また、②については、前記(3)ウのとおり、複数の消火ガス容器の開弁時期を制御部によりずらして防護区画へ消火ガスを導入する手段が、本件出願前、ガス系消火設備の技術分野において周知であったとしても、当業者が、甲1発明において、上記周知技術を適用することについての動機付けがあることを認めるに足りる証拠や論理付けがない。』

2 結論
『本件決定における相違点1の容易想到性の判断には誤りがあるから、その余の点について判断するまでもなく、当業者は、甲1及び2並びに周知の事項に基づいて、本件発明を容易に想到することができたものと認めることはできない。』として、取消決定が取り消された。

[コメント]
裁判所は、甲2には、バルブの開閉によりガスシリンダから配管へのガス流を制御することの記載はあるものの、ラプチャーディスクを使用することを前提とした記載であって、ラプチャーディスクを使用せずに、各バルブの開弁時期をずらして複数のガスシリンダからそれぞれ順次ガスを放出することよって保護区域又は保護された部屋の加圧を防止することについて記載や示唆はないことに照らすと、甲2技術的事項から、ラプチャーディスクを用いることなく、「複数のシリンダーからのガス供給を開始する時点をずらすという技術思想」を読み取ることはできないと判示した。
甲2には、「pressure responsive valve (such as a rupturable disc)」と記載されており、一見、差圧応答バルブの一例としてラプチャーディスクが記載されているように読み取れるが、ラプチャーディスク以外のバルブを用いた構成が記載されておらず、また、各ガスシリンダ用のバルブを開閉することによってガス流を制御する記載はあるものの、ラプチャーディスクを使用することを前提とした記載になっているため、そのような判断がされたと考える。
また、複数の消火ガス容器の開弁時期を制御部によりずらして防護区画へ消火ガスを導入する手段が、本件出願前、ガス系消火設備の技術分野において周知であったとしても、当業者が、甲1発明において、上記周知技術を適用することについての動機付けがあることを認めるに足りる証拠や論理付けがないと判示している。
これより、主引用発明に証拠や論理付けがなく周知技術を適用した進歩性違反については、裁判所において反論の余地があると考える。
以上
(担当弁理士:冨士川 雄)

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