IP case studies判例研究

令和3年(ワ)第10171号「折り畳み式テーブル」事件

名称:「折り畳み式テーブル」事件
損害賠償請求事件
東京地方裁判所:令和3年(ワ)第10171号 判決日:令和5年6月9日
判決:請求認容
関連条文:特許法70条
キーワード:構成要件充足性
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/520/092520_hanrei.pdf

[概要]
特許請求の範囲に記載された文言について、明細書の記載を参照して判断された事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第6141698号の特許(本件特許)に係る特許権の特許権者である。
東京地裁は、被告製品が本件特許の特許請求の範囲の請求項4などに係る発明の構成要件を充足すると判断し、原告が主張する損害金の支払を認めた。

[本件発明]
[請求項1]
A 互いの一縁を軸線として回動可能に連結し、下面側を対面させて折り畳み自在とした2枚の天板部材と、
B 該2枚の天板部材を左右に展開して形成される天板の下面に、該天板を支えるために配置される複数の脚部材と、を備えた折り畳み式テーブルであって、
C 天板部材が回動する軸線を挟んで対向する位置にある天板下面の2つの脚部材を相互に離間するための離間付勢手段と、
D 回動の軸線となる天板部材の一縁側から反対縁側へ移動可能に脚部材を天板部材に連結するための移動連結手段と、を備えることにより、
E 天板部材を回動して天板を展開すると、天板部材の回動にともない脚部材が天板の下面に沿って左右に展開する
F ことを特徴とする折り畳み式テーブル。
[請求項3]
H 離間付勢手段は、弾性体で形成する2つの脚部材の一部を互いに連結し、該弾性体の弾性力で2つの脚部材を相互に離間することを特徴とする請求項1記載の折り畳み式テーブル。
[請求項4](本件発明4)
I 離間付勢手段は、2つの脚部材を形成する棒状弾性体の両端を屈曲し、一方の脚部材の下端から延び出る下端延出部の先端と他方の脚部材の上端又は下端から延び出る上端延出部又は下端延出部の先端とを水平回動可能に連結した第1回動連結部と、
J 一方の脚部材の上端から延び出る上端延出部の先端と他方の脚部材の下端又は上端から延び出る下端延出部又は上端延出部の先端とを水平回動可能に連結した第2回動連結部とを、
K 天板部材が回動する軸線に沿って離れて配置することにより、
L 2つの脚部材が近づくと棒状弾性体に弾性力が発生し、該弾性力で2つの脚部材を相互に離間することを特徴とする請求項3記載の折り畳み式テーブル。

[主な争点]
被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するか(争点1)
・構成要件Aの充足性(争点1-1)
・構成要件Cの充足性(争点1-2)
・構成要件Dの充足性(争点1-3)
・構成要件Eの充足性(争点1-4)
・構成要件I及び J の充足性(争点1-5)

[被告の主張](筆者にて適宜抜粋)
『・・・(略)・・・構成要件Aの「折り畳み自在」とは、天板部材を回動して天板を折り畳むだけで、2枚の天板部材の間に脚部材が収容できることと解釈できる。・・・(略)・・・被告製品の天板部材を折り畳むためには、飛び出した脚部材の一部と下端延出部の一部を手で押し込む操作が必要である。このように、被告製品における2枚の天板部材は、「支障なく折り畳める」ものではないから「折り畳み自在」ではない。』
『構成要件Cは、いわゆる機能的クレームであるから、その技術的範囲は、本件明細書に開示されているものと同一構造のもの又はその均等物に限られる。・・・(略)・・・円筒形状のパイプに2つの略コの字状の金属棒の先端(上端延出部の先端と下端延出部の先端)を挿入しているものだけである・・・(略)』
『構成要件Dに明記されている部品名は「脚部材」、「天板部材」及び「移動連結手段」のみであるから、「移動可能に脚部材を天板部材に連結する」ということは、文言上、「脚部材が天板部材に移動可能に直接連結されている」としか解することができない。・・・(略)・・・被告製品の「移動連結具」に設けられた貫通孔に連結されているのは「上端延出部」である。』
『被告製品においては、天板部材を回動して天板を展開すると、天板部材の回動に伴って「脚部材」が立ち上がって天板の下面から離れ、当該立ち上がった「脚部材」は天板の下面に沿って左右に展開しない。天板の下面に沿って左右に展開するのは貫通孔を通過している「上端延出部」である。』
『構成要件I及びJは、第1回動連結部及び第2回動連結部において、「上端延出部又は下端延出部の先端」同士は「水平回動可能に連結」されると規定している。・・・(略)・・・このように、被告製品における略コの字状線材の先端同士は、ともに水平回動しない。』

[裁判所の判断]
・構成要件Aの充足性(争点1-1)について
『(1) 構成要件Aの「折り畳み自在」の意義
ア 構成要件Aの記載によれば、構成要件Aの「2枚の天板部材」は、「互いの一縁を軸線として回動可能に連結」され、かつ、「下面側を対面させて折り畳み」ができるものであると理解できる。
また、本件明細書の「互いの一縁を軸線として回動可能に連結し、下面側を対面させて折り畳み自在とした2枚の天板部材…と」(【0020】)、「回動する2枚の天板部材…に軸線…を挟んで設けた2つのガイド部材…の近接する対向部分を回動可能に連結することにより、2枚の天板部材の下面側を対面させて天板を折り畳み自在とすることもできる。」(【0030】)の記載からも、2枚の天板部材を、連結部材を用いて回動可能に連結することで、当該天板部材の下面側を対面させて折り畳み可能とするものであることが理解できる。
したがって、構成要件Aの「折り畳み自在」とは、2枚の天板部材の下面側を対面させて「折り畳みできること」を意味するものと解するのが相当である。』
(被告の主張に対して)
『イ この点に関し、被告は、「折り畳み自在」とは「支障なく折り畳めること」であって、「天板部材を回動して天板を折り畳むだけで、2枚の天板部材間に脚部材が収容できる」ことを意味すると主張する。
しかし、本件明細書には、・・・(略)・・・と、天板部材を回動して天板を折り畳むと、2枚の天板部材間に脚部材等を収容できることが記載されているものの、天板部材を回動して天板を折り畳むだけで、2枚の天板部材間に脚部材が収容できる旨の明示の記載はないし、これを示唆する記載もない。』
(被告製品に対して)
『(3) 構成要件充足性
前記(1)のとおり、構成要件Aの「折り畳み自在」とは、2枚の天板部材の下面側を対面させて「折り畳みできること」を意味する。そして、前記(2)のとおり、被告製品は、2枚の天板部材の下面側を対面させて折り畳むことができる。』

・構成要件Cの充足性(争点1-2)について
『(1) 「離間付勢手段」の意義
ア 構成要件Cの記載によれば、「離間付勢手段」は「2つの脚部材を相互に離間する」ための付勢手段であり、その「2つの脚部材」は、「天板下面」に配置され、「天板部材が回動する軸線を挟んで対向する位置にある」とすることが理解できる。
そうすると、「離間付勢手段」は、上記の構成要件Cの記載から、「天板下面」に配置され、「天板部材が回動する軸線を挟んで対向する位置にある」「2つの脚部材」を「相互に離間する」方向に付勢できる手段を意味すると認められる。』
(被告の主張に対して)
『イ この点に関し、被告は、構成要件Cは、いわゆる機能的クレームであるから、その技術的範囲は、本件明細書に開示されているものと同一構造のもの又はその均等物に限られると主張する。しかし、「離間付勢手段」について、特許請求の範囲において被告が主張するような限定はされていないし、構成要件Cに対応すると解される本件明細書の記載部分においても、「2つの脚部材を相互に離間するための」付勢手段であるとされている(【0009】)以上に何らの限定もされていない。』
(被告製品に対して)
『(3) 構成要件充足性
被告製品においては、天板部材が回動する軸線を挟んで対向する位置にある2つの略コの字状線材で前記脚部が構成されている(構成c2)から、当該2つの略コの字状線材は、「2つの脚部材」に当たり、「天板部材が回動する軸線を挟んで対向する位置にある」。また、当該当該2つの略コの字状線材は、「天板部材の下面」に設けられている(構成c1)。そして、被告製品は、構成c1ないしc5により特定される構造により、天板部材を回動させる力が働き、脚部が開くというのであるから(構成c6)、これは「2つの脚部材」を「相互に離間する」方向に付勢できる構造、すなわち「離間付勢手段」を有するといえる。』

・構成要件Dの充足性(争点1-3)について
『(2) 構成要件充足性
請求項3及び4の記載によれば、本件各発明における「上端延出部」とは、「脚部材」の上端から延び出た部分、すなわち「脚部材」の一部を構成する部分と解するのが相当である。
そして、前記(1)のとおり、被告製品は、回動の軸線となる天板部材の一縁側から反対縁側へ移動可能に「脚部材」を連結するために、天板下面の長手方向の端部付近に取り付けられた貫通孔を含む移動連結具を備え、当該貫通孔と「脚部材」の上端から延び出る「上端延出部」とが連結されていると認められるから、当該移動連結具において、「脚部材」と天板部材とが連結されているといえる。』

・構成要件Eの充足性(争点1-4)について
『(2) 構成要件充足性
前記4において説示したとおり、本件各発明における「上端延出部」とは、脚部材の上端から延び出た部分、すなわち「脚部材」の一部であると解するのが相当である。そして、本件各発明に係る特許請求の範囲にも本件明細書にも、構成要件Eの規定する「脚部材」について、それを構成する全ての部分が天板の下面に沿って移動することは記載されていない。
そうすると、構成要件Eは、天板部材を回動して天板を展開すると、天板部材の回動に伴い「脚部材」を構成する部分が天板の下面に沿って左右に展開する構成を含むものといえる。
前記(1)のとおり、被告製品は、天板部材を回動して天板を展開すると、天板部材の回動に伴い、天板の下面に沿って2つの「脚部材」の一部である「上端延出部」が貫通孔内をすべって左右に移動するとの構成を有するのであるから、構成要件Eを充足する。』

・構成要件I及びJの充足性(争点1-5)について
『(1) 「一方の」「下端延出部の先端」と「他方の」「上端延出部又は下端延出部の先端とを水平回動可能に連結」及び「一方の」「上端延出部の先端」と「他方の」「下端延出部又は上端延出部の先端とを水平回動可能に連結」の意義について
ア 構成要件I及びJの記載によれば、これらの構成要件は、いずれも「離間付勢手段」の具体的構成を特定するものであり、本件各発明における「離間付勢手段」は、「2つの脚部材を相互に離間するため」(構成要件C)のものであって、この「2つの脚部材」は、「回動の軸線となる天板部材の一縁側から反対側へ移動可能」(構成要件D)なものであると理解することができる。
イ そして、構成要件Iには、一方の「下端延出部」と他方の「上端延出部又は下端延出部」が「2つの脚部材を形成する棒状弾性体の両端を屈曲」して形成されるものであることが記載されている。この記載から、「脚部材」と「下端延出部」及び「上端延出部又は下端延出部」とは一体となって「回動の軸線となる天板部材の一縁側から反対縁側へ移動可能」なものであると理解することができる。
また、「下端延出部」の「先端」は、「棒状弾性体」の「屈曲」された部位からみて、「脚部材」の反対側を意味すると理解することができる。
これらの記載に照らせば、構成要件I及びJが規定する「回動」とは、「2つの脚部材」が「相互に離間する」のに伴って、「一方の脚部材の下端から延び出る下端延出部の先端」と「他方の脚部材の上端又は下端から延び出る上端延出部又は下端延出部の先端」とが連結されている部位において、「一方の脚部材の下端から延び出る下端延出部の先端」と他方の脚部材の上端又は下端から延び出る上端延出部又は下端延出部の先端」とが、それぞれ連結構造の軸の周方向に回転する動作をすることを意味すると解するのが相当である。
また、構成要件Iにおける「水平」については、本件各発明がいずれも「折り畳み式テーブル」に係る発明(構成要件F、H、LないしN)であることからからすると、天板部材を展開して形成した天板面が水平面となる通常の使用状態を基準として、天板部材を展開した天板面に平行な面をもって「水平」と解するのが相当である。』
(被告製品の充足性)
『(3) 構成要件充足性
前記3(2)のとおり、被告製品の2つの略コの字状線材は、「2つの脚部材を形成する棒状弾性体」(構成要件I)に当たり、下端延出部の先端は、天板の下面に向かって上方に屈曲し、更に伸びた螺旋バネ部を、上端延出部の先端は、天板の下面から見て下方に屈曲し、更にU字状に屈曲したU字状連結部をそれぞれ含むから、当該棒状弾性体の「両端を屈曲」(同)したものといえる。
そして、前記(2)ア及びウのとおり、一方の脚部材の下端延出部の先端に設けられた螺旋バネ部の内部に、他方の上端延出部の先端に設けられたU字状連結部を挿入し、また、他方の脚部材の下端から延び出る下端延出部の先端に形成された螺旋バネ部の内部に、一方の脚部材の上端から延び出る上端延出部の先端に形成されたU字状連結部をそれぞれ挿入し、いずれの連結部位においても、2つの脚部材が開くのに伴い、当該螺旋バネ部と当該U字状連結部とが、それぞれ連結構造の軸の周方向(当該周方向がなす面は展開した天板部材の面に平行な面)に回転する動作、すなわち「水平回動」するように連結されていることが認められる。
これらの被告製品の構成は、前記3(2)のとおり、略コの字状線材の弾性力を利用して、天板部材を回動させる力が働き、脚部が開く構成としたものであるから、「離間付勢手段」に当たる。』
(被告の主張に対して)
『(4) 被告の主張について
ア 被告は、被告製品の構成c4のうち、螺旋バネ部の先端はU字状連結部の先端に対して垂直方向を向いた状態でU字状連結部の周りを円周に沿って移動するとの点を指摘して、第1回動連結部及び第2回動連結部において、上端延出部又は下端延出部の先端同士は水平回動可能に連結されるとの構成を有していないと主張する。
しかし、前記(1)において説示したとおり、構成要件I及びJが規定する「水平回動」とは、上端延出部又は下端延出部の先端同士が連結されている部位において、当該各先端が連結構造の軸の周方向に回転する動作をいうと解される。
これに対し、被告の指摘する、螺旋バネ部の先端はU字状連結部の先端に対して垂直方向を向いた状態でU字状連結部の周りを円周に沿って移動するという動作は、上端延出部又は下端延出部の先端とが連結されている部位における螺旋バネ部とU字状連結部の挙動ではなく、螺旋バネ部を構成する線材の先端の挙動を問題とするものであるから、このような挙動を根拠に被告製品が構成要件I及びJを直ちに充足しないということはできない。』

[コメント]
本件発明の請求項の文言として争いが生じる可能性が高い表現は少なく、構造発明の請求項として分かりやすい適切な表現がなされている、と考える。筆者が得た情報だけでは被告製品の構造の全ては不明であるが、本判決に記載の被告製品の脚部の本件発明の実施例に対する相違点が相対的に大きく、脚部以外の構成は本件発明の実施例と相違点が少なかったと推測される。そのために、被告の主張には、非常に認められにくいと考えられる主張が散見される。そのような被告の主張に対して、本判決では、請求項だけで解釈可能と思われる文言を、更に明細書の記載も参照して、丁寧に技術的範囲が判断されている事例と考える。
以上
(担当弁理士:坪内 哲也)

令和3年(ワ)第10171号「折り畳み式テーブル」事件

PDFは
こちら

Contactお問合せ

メールでのお問合せ

お電話でのお問合せ