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令和3年(ワ)第26276号「地盤安定化薬液用硬化剤および地盤安定化薬液」事件

名称:「地盤安定化薬液用硬化剤および地盤安定化薬液」事件
特許料請求事件
東京地方裁判所:令和3年(ワ)第26276号 判決日:令和5年3月7日
判決:請求棄却
特許法79条
キーワード:先使用権
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/102/092102_hanrei.pdf

[概要]
本件硬化剤発明は、構成要件B2、D、G、H及びIにおいて、本件特許発明に包含される関係にあり、本件特許発明の一部を構成するものであるとして、被告に先使用権による通常実施権が認められた事例。

[特許請求の範囲]
【請求項1】
珪酸アルカリ水溶液からなるA液と、フッ酸副生石膏((a)成分)とフッ酸副生石膏100質量部に対して、該フッ酸副生石膏に含有する遊離の硫酸を中和する量以上~500質量部以下のアルカリ性物質((b)成分)を1種または2種以上を添加して、混合、粉砕・分級処理して得たブレーン法に依る比表面積で4500~15000cm2/gの無水石膏組成物と、該無水石膏組成物と硬化促進増強剤の合計100質量部に対して、界面活性剤((c)成分)の含有量を0.35以上1.25質量部以下と(c)成分100質量部に対して消泡剤((d)成分)の含有量を0.51以上200質量部以下を含有し、必要に応じて硬化促進増強剤((e)成分)を水に分散してなる水性スラリーのB液を地盤中に注入し、地盤中で硬化させて地盤を安定化させることを特徴とする地盤安定化薬液用硬化剤。
【請求項2】
アルカリ性物質がカルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム等の酸化物、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等からなる化合物、これら該化合物からなる複塩またはセメントである請求項1に記載の地盤安定化薬液用硬化剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の地盤安定化薬液用硬化剤と、珪酸アルカリ水溶液とを含有する地盤安定化薬液。

[原告の行為]
日東化学は、遅くとも平成5年には、エヌタイトGSという名称の製品を、平成7年頃には、エヌタイトGSⅡという名称の製品をそれぞれ製造販売し、その後、三菱レイヨン及び菱晃が、エヌタイトGS(Ⅰ・Ⅱ)、エヌタイトGS-Ⅰ及びエヌタイトGS-Ⅱという名称の製品を製造販売していた。

[主な争点]
1.被告インフラテックは本件特許権について先使用による通常実施権を有するか(争点3)

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
争点3.被告インフラテックは本件特許権について先使用による通常実施権を有するか
『(1)GS硬化剤と本件硬化剤発明に係る硬化剤とは、主たる物質として消石灰、炭酸カルシウム及び無水石膏を含有し、主剤として珪酸ナトリウム水溶液を用いる組成となっている点や、消石灰、炭酸カルシウム及び無水石膏を予め混合した形となっているとの点で同一であること(前提事実(3)、(4)イ、前記4(1)イ、乙1、2、12)、日東化学は、平成3年10月度月報による報告がされた直後の同年11月からGS硬化剤を製造販売していたところ(前提事実(4)ア、乙12)、他にGS硬化剤の直接の基礎となった発明の存在をうかがわせる事情がないことからすると、GS硬化剤は、本件硬化剤発明の実施に係るものと認めるのが相当である。そして、本件硬化剤発明は、遅くとも、GS硬化剤という具体的な製品が現実に製造された時点である平成3年11月までに完成していたものと認められる。
また、前提事実(4)アのとおり、菱晃及び被告インフラテックは、平成13年3月以降、日東化学及び三菱レイヨンからGS硬化剤を含む土質安定剤の製造販売に係る事業を譲り受け、それぞれGS硬化剤を製造販売していたというのであるから、菱晃は、本件特許の出願日である平成26年7月2日当時、日本国内において本件硬化剤発明の実施の事業をしていた者に当たる。
そして、GS硬化剤を含む土質安定剤の製造販売に係る事業を譲り受け、これを製造販売していたとの事実からうかがわれる菱晃の目的及び被告インフラテックの目的(前提事実(1)ウ)に照らせば、本件硬化剤発明の実施が同社らの事業の目的の範囲内のものであることは明らかである。
(2)さらに、前記4(1)において説示した本件硬化剤発明がされた経緯に照らせば、日東化学は、職務発明である本件硬化剤発明を、発明者であるBⅰ及びCⅰから知得したと認められる。
これに対し、原告が本件特許を出願したのは、三菱レイヨンを退職した14年以上後であって、前記4(3)イのとおり、原告が日東化学及び三菱ケミカルを退職した後に本件特許発明を完成させた可能性が否定できないことからすると、被告らにおいて本件特許発明の内容を認識していなかったものと認めるのが相当である。
(3)もっとも、前記4(1)及び(2)において説示したとおり、本件特許発明と本件硬化剤発明とは、その目的や各含有成分の種類及び量の点において技術的思想を共通にするものの、本件硬化剤発明は、構成要件B2、D、G、H及びIにおいて、本件特許発明に包含される関係にあり、本件特許発明の一部を構成するものである。
そして、前提事実(4)アのとおり、GS硬化剤を含む土質安定剤の製造販売に関する事業は、日東化学から、三菱レイヨン、菱晃及び被告インフラテックに順次承継され、本件特許が設定登録された平成30年6月15日以降は、菱晃及び被告インフラテックがGS硬化剤を製造販売している。
そうすると、菱晃及び被告インフラテックは、本件特許発明のうち本件硬化剤発明の範囲について先使用による通常実施権(特許法79条)を有するものと認められる。
(4)したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告インフラテックに対する請求はいずれも理由がない。』

[コメント]
本判決では、研究部長であった原告が、退職後に当該分野に関連する特許権を取得し、元の勤務先の当該事業を吸収合併等により順次承継した企業に対して損害賠償請求を行った事案である。基本的なことではあるが、自社の事業内容に関して特許権を確保しない(ノウハウ秘匿等も)場合や、特許権取得が困難な場合には、少なくとも主要な事業内容に関しては先使用権立証のための証拠確保を行っておくことが望ましい。
以上
(担当弁理士:東田 進弘)

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