IP case studies判例研究

令和5年(受)第14号、第15号「表示装置、コメント表示方法、及びプログラム」事件

名称:「表示装置、コメント表示方法、及びプログラム」事件
特許権侵害差止等請求事件
最高裁判所:令和5年(受)第14号、第15号 判決日:令和7年3月3日
判決:上告棄却
関連条文:特許法2条3項1号
キーワード:実施、電気通信回線を通じた提供、ネットワーク関連発明、属地主義、域外適用
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/838/093838_hanrei.pdf

[概要]
プログラム等が電気通信回線を通じて我が国の領域外から送信される場合であっても、問題となる行為を全体としてみて、実質的に我が国の領域内における「電気通信回線を通じた提供」に当たると評価されるときは、当該行為に我が国の特許権の効力が及ぶと解されるとして、控訴審の判断が維持された事例。

[特許請求の範囲]
【請求項1】
1-1A 動画を再生するとともに、前記動画上にコメントを表示する表示装置であって、
1-1B 前記コメントと、当該コメントが付与された時点における、動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間とを含むコメント情報を記憶するコメント情報記憶部と、
1-1C 前記動画を表示する領域である第1の表示欄に当該動画を再生して表示する動画再生部と、
1-1D 前記再生される動画の動画再生時間に基づいて、前記コメント情報記憶部に記憶されたコメント情報のうち、前記動画の動画再生時間に対応するコメント付与時間に対応するコメントを前記コメント情報記憶部から読み出し、当該読み出されたコメントを、前記コメントを表示する領域である第2の表示欄に表示するコメント表示部と、を有し、
1-1E 前記第2の表示欄のうち、一部の領域が前記第1の表示欄の少なくとも一部と重なっており、他の領域が前記第1の表示欄の外側にあり、
1-1F 前記コメント表示部は、前記読み出したコメントの少なくとも一部を、前記第2の表示欄のうち、前記第1の表示欄の外側であって前記第2の表示欄の内側に表示する
1-1G ことを特徴とする表示装置。
【請求項9】
1-9A 動画を再生するとともに、前記動画上にコメントを表示する表示装置のコンピュータを、
1-9B 前記動画を表示する領域である第1の表示欄に当該動画を再生して表示する動画再生手段、
1-9C コメントと、当該コメントが付与された時点における、動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間とを含むコメント情報を記憶するコメント情報記憶部に記憶された情報を参照し、
1-9D 前記再生される動画の動画再生時間に基づいて、前記コメント情報記憶部に記憶されたコメント情報のうち、前記動画の動画再生時間に対応するコメント付与時間に対応するコメントをコメント情報記憶部から読み出し、
1-9E 当該読み出されたコメントの一部を、前記コメントを表示する領域であって一部の領域が前記第1の表示欄の少なくとも一部と重なっており他の領域が前記第1の表示欄の外側にある第2の表示欄のうち、前記第1の表示欄の外側であって前記第2の表示欄の内側に表示するコメント表示手段、
1-9F として機能させるプログラム。

[争点]
我が国の領域外から領域内にインターネットを通じてプログラムを配信する上告人らの行為が、特許法2条3項1号にいう「電気通信回線を通じた提供」及び同法101条1号にいう「譲渡等」に当たるか。

[控訴審(原審)]
知財高裁は、特許発明の実施行為が、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される、とし、問題となる提供行為が、日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか、当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか、当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか、当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているかなどの諸事情を考慮し、当該提供が実質的かつ全体的にみて、日本国の領域内で行われたものと評価し得るときは、日本国特許法にいう「提供」に該当すると解するのが相当である、と説示した。
そして、知財高裁は、本件配信は、実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当である、と判断した。また、知財高裁は、被控訴人らによる本件配信、及びユーザによる各プログラムのインストールにより、被控訴人ら各装置が生産されるものと認められ、また、各プログラムは、被控訴人ら各装置の生産にのみ用いられる物であると認めるのが相当であり、被控訴人らが業として本件配信を行っていることは明らかであるから、被控訴人らによる本件配信は、特許法101条1号により本件特許権1を侵害するものとみなされる、と判断した。

[裁判所の判断]
『4(1) 我が国の特許権の効力は、我が国の領域内においてのみ認められるが(最高裁平成12年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁参照)、電気通信回線を通じた国境を越える情報の流通等が極めて容易となった現代において、プログラム等が、電気通信回線を通じて我が国の領域外から送信されることにより、我が国の領域内に提供されている場合に、我が国の領域外からの送信であることの一事をもって、常に我が国の特許権の効力が及ばず、上記の提供が「電気通信回線を通じた提供」(特許法2条3項1号)に当たらないとすれば、特許権者に業として特許発明の実施をする権利を専有させるなどし、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に沿わない。そうすると、そのような場合であっても、問題となる行為を全体としてみて、実質的に我が国の領域内における「電気通信回線を通じた提供」に当たると評価されるときは、当該行為に我が国の特許権の効力が及ぶと解することを妨げる理由はないというべきである。そして、この理は、特許法101条1号にいう「譲渡等」に関しても異なるところはないと解される。
(2) 本件配信は、本件各プログラムに係るファイルを我が国の領域外のサーバから送信し、我が国の領域内の端末で受信させるものであって、外形的には、その行為の一部が我が国の領域外にあるといえる。しかし、これを全体としてみると、本件配信は、我が国所在の端末を使用するユーザが本件各サービスの提供を受けるため本件各ページにアクセスすると当然に行われるものであり、本件各サービスは、本件配信により当該端末にインストールされた本件各プログラムを利用することにより、ユーザに、我が国所在の端末上で動画の表示範囲とコメントの表示範囲の調整等がされた動画を視聴させるものである。これらのことからすると、本件配信は、我が国で本件各サービスを提供する際の情報処理の過程として行われ、我が国所在の端末において、本件各プログラム発明の効果を当然に奏させるようにするものであり、当該効果が奏されることとの関係において、前記サーバの所在地が我が国の領域外にあることに特段の意味はないといえる。そして、被上告人が本件特許権を有することとの関係で、上記の態様によりされるものである本件配信が、被上告人に経済的な影響を及ぼさないというべき事情もうかがわれない。そうすると、上告人らは、本件配信によって、実質的に我が国の領域内において、本件各プログラムの電気通信回線を通じた提供をしていると評価するのが相当である。
以上によれば、本件配信は、特許法2条3項1号にいう「電気通信回線を通じた提供」に当たるというべきである。
(3) また、本件各サービスは、本件配信及びそれに引き続く本件各プログラムのインストールによって、本件各装置発明の技術的範囲に属する装置が我が国の領域内で生産され、当該装置が使用されるようにするものであるところ、本件配信は、我が国所在の端末において、本件各装置発明の効果を当然に奏させるようにするものといえ、サーバの所在地や経済的な影響に係る事情も前記(2)と同様である。そうすると、上告人らは、本件配信によって、実質的に我が国の領域内において、前記装置の生産にのみ用いる物である本件各プログラムの電気通信回線を通じた提供としての譲渡等をしていると評価するのが相当である。
以上によれば、本件配信は、特許法101条1号にいう「譲渡等」に当たるというべきである。』

[コメント]
本判決は、プログラムのようにネットワークを通じて送信され得る特許発明につき、サーバ等の一部の設備が国外にあったとしても、プログラムの提供が特許法2条3項1号にいう「電気通信回線を通じた提供」に該当し得ることを示した点で、重要な判決である。
知財高裁(控訴審)は、プログラムの配信を、実質的かつ全体的に考察する際の諸事情として、(1)当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか、(2)当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか、(3)当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか、(4)当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているか、の四点を指摘した。
最高裁は、判決において、本件配信は、国内ユーザによる各ページへのアクセスによって行われ、ユーザに対し、国内の端末上で動画及びコメントの各表示範囲の調整等がされた動画を視聴させるサービスが提供される点を指摘した。これらは、知財高裁が指摘した内容の(2)~(4)に対応する。一方で、最高裁では、知財高裁が示した上記(1)の“明確かつ容易に区別できるか”に対する言及は認められなかった。
上記(1)の事情が、規範として機能し得るかは今後の判例の蓄積が待たれるが、本件の当事者による事件(最高裁令和5年(受)第2028号特許権侵害差止等請求事件同7年3月3日第二小法廷判決)でも同様の指摘がされていることに鑑みると、今後、問題となる配信行為を実質的かつ全体的に考察する際は、上記(2)~(4)の事情に基づいた考察がなされると考えられる。
また、本判決において、知財高裁で指摘されなかった、特許権者に対する経済的な影響を及ぼさないというべき事情の有無が考慮された点にも留意すべきである。特許権者に経済的な影響を及ぼさないという事情が認められた場合には、プログラム等の配信が特許法2条3項1号にいう「電気通信回線を通じた提供」に該当しないと判断される可能性がある。
以上
(担当弁理士:廣田 武士)

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