IP case studies判例研究
侵害訴訟等
令和7年(ネ)第10032号「棒状ライト」事件
名称:「棒状ライト」事件
特許権侵害行為差止等請求控訴事件
知的財産高等裁判所:令和7年(ネ)第10032号 判決日:令和7年10月20日
判決:控訴棄却
特許法70条1項、2項
キーワード:構成要件の充足性、用語の解釈
判決文:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-94890.pdf
[概要]
特許請求の範囲に記載された用語の解釈に当たっては、用語は、その有する普通の意味で使用し、かつ、明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用するという特許法施行規則24条に照らして解釈すべきであって、請求項中の、前段の構成要件における「前記第1所定入力」と、その後段の構成要件における「前記第1所定入力」とが異なる入力方法であると解する余地がないとして、控訴が棄却された事例。
[本件発明]
A 発光部と、
B 前記発光部を発光させる複数の色のデフォルトの発光順序を定めるデフォルトパターンを記憶する記憶部と、
C 前記複数の色の中から1つの色を推薦色として設定する設定部と、
D 前記発光部を発光させる複数の色を、前記デフォルトパターンで示される発光順序で切り替える第1ボタンと、
E 前記推薦色で前記発光部を発光させるための入力を受け付ける第2ボタンと、
F 前記発光部を発光させる複数の色を、前記デフォルトパターンで示される発光順序とは逆順に切り替える第3ボタンと、
G 前記第1ボタン、前記第2ボタン、および前記第3ボタンが設けられ、内部に電源を有する把持部と、
H 前記デフォルトパターンで示される発光順序を選択する選択部を備え、
I 前記第1ボタンに対するユーザからの第1所定入力に応じて、前記選択部において選択されている前記デフォルトパターンで示される発光順序に従い、前記複数の色のうちいずれか1つの色で前記発光部を発光させる発光制御部と、を備え、
J1 前記第1ボタンは、所定時間以上継続しない押下である短押しと、前記短押しよりも長い所定時間以上継続した押下である長押しを検出可能なボタンであり、第1所定入力は前記短押しまたは前記長押しであり、
J2 前記第2ボタンは、所定時間以上継続しない押下である短押しと、前記短押しよりも長い所定時間以上継続した押下である長押しを検出可能なボタンであり、第1所定入力は前記短押しまたは前記長押しであり、
J3 前記設定部は、前記発光部が発光しているときに、前記第2ボタンの前記第1所定入力を検出した場合、そのとき前記発光部が発光している発光色を前記推薦色として、前記記憶部に記憶し、
J4 前記発光制御部は、前記第2ボタンの前記第1所定入力を検出した場合、前記設定部により前記記憶部に記憶された前記推薦色で前記発光部を発光させる
K ことを特徴とする棒状ライト。
[主な争点]
構成要件J3及びJ4の充足性(争点1-3)
[裁判所の判断]
『1 当審も、原審と同様の理由により、被告製品1及び2が本件発明の技術的範囲に属せず、控訴人の請求は理由がないと判断する。その理由は、後記2のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の第4の1及び2(1)(23頁21行目~31頁22行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1) 控訴人は、構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」は「前記短押しまたは前記長押し」と解し、構成要件J3の「前記第1所定入力」の入力方法と構成要件J4の「前記第1所定入力」の入力方法とは異なるものと解すべきであると主張する。
そこで検討するに、特許請求の範囲に記載された用語の解釈に当たっては、用語は、その有する普通の意味で使用し、かつ、明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用すること(特許法施行規則24条、様式第29備考8)に照らして解釈すべきである。「または」は、二つ以上の事柄のどれかが選ばれる関係にあることを表す語であるから、構成要件J2の「第1所定入力」は、「第1所定入力」として特定された「短押し」か「長押し」のいずれか一方の入力方法を指すものであり、そして、構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」は、構成要件J2の「第1所定入力」と同一の入力方法を意味するものと解される。そうすると、本件発明における特許請求の範囲の文言の語義として、構成要件J3の「前記第1所定入力」の入力方法と構成要件J4の「前記第1所定入力」の入力方法とが異なるものと解する余地はなく、このような解釈によって、控訴人が主張するように、発光部が発光しているときに第2ボタンの「第1所定入力」を行ったときに、推薦色による記憶(構成要件J3)が行われるのか、推薦色による発光(構成要件J4)が行われるのかが定かではないことになったとしても、それは、本件特許の出願人による特許請求の範囲の記載の結果というほかない。
控訴人は、上記主張の根拠として、本件明細書の【図5】、【0052】、【0055】の記載を指摘する。しかし、これらの記載は、発光制御処理の詳細を示すサブフローチャートとして、第2ボタンが長押し又は短押しされた場合の処理を記載しているにとどまり(【0050】~【0057】)、そこには推薦色を記憶させる際の「第1所定入力」を長押し、推薦色で発光させる際の「第1所定入力」を短押しとする旨の記載はなく、「第1所定入力」が異なる入力方法を示すことを意味する記載もない。むしろ、【0074】には、「第1所定入力を短押し、第2所定入力を長押しとしてもよいし、第1所定入力を長押し、第2所定入力を短押しとしてもよい」と記載されており、「第1所定入力」と「第2所定入力」とが入力方法に応じて使い分けられている。そうすると、控訴人が指摘する本件明細書の記載が、「第1所定入力」という同じ用語であるのに、それらがそれぞれ異なる入力方法であるとの主張の根拠になるとはいえない。
また、控訴人は、本件発明の実施品(乙10発明)の構成から、本件特許の出願人の客観的意思が、構成要件J3及びJ4の「第1所定入力」は、乙10発明のように異なる入力であると解していると主張する。しかし、乙10発明が本件発明の実施品であるか否か自体が、本件発明の特許請求の範囲に記載された構成を備えているか否かによって定まるのであるから、乙10発明が本件発明の実施品であることを前提として、この構成が本件特許の出願人の客観的意思であるということも、同発明の有する構成に整合するように本件発明の構成要件J3及びJ4を解釈すべきということもできない。
したがって、控訴人の主張はいずれも採用することはできない。
(2) そして、これまで説示したところからすると、被告製品1及び2は、本件発明の構成要件J4を充足しないから、控訴人のその余の主張については判断の必要がない。』
[コメント]
裁判所は、『特許請求の範囲に記載された用語の解釈に当たっては、用語は、その有する普通の意味で使用し、かつ、明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用すること(特許法施行規則24条、様式第29備考8)に照らして解釈すべきである。』と規範を示したうえで、『構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」は、構成要件J2の「第1所定入力」と同一の入力方法を意味するものと解される。そうすると、本件発明における特許請求の範囲の文言の語義として、構成要件J3の「前記第1所定入力」の入力方法と構成要件J4の「前記第1所定入力」の入力方法とが異なるものと解する余地はなく』と判断した。そのうえで、『このような解釈によって、控訴人が主張するように、発光部が発光しているときに第2ボタンの「第1所定入力」を行ったときに、推薦色による記憶(構成要件J3)が行われるのか、推薦色による発光(構成要件J4)が行われるのかが定かではないことになったとしても、それは、本件特許の出願人による特許請求の範囲の記載の結果というほかない。』と、控訴人の主張を一蹴し、特許請求の範囲の不明確さを出願人の自己責任に帰している。
特許出願書類の作成又は確認に携わる者の戒めとなる判決である。
以上
(担当弁理士:赤尾 隼人)
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