IP case studies判例研究
侵害訴訟等
令和5年(ワ)第70445号「γ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法」事件
名称:「γ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法」事件
特許権に基づく差止等請求事件
東京地方裁判所:令和5年(ワ)第70445号 判決日:令和8年3月18日
判決:請求棄却
条文:特許法70条、100条1項、2項、民法709条
キーワード:構成要件充足性
判決文:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-95787.pdf
[概要]
被告のGABA抹茶の製造方法が、「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後」との構成要件を充足せず、本件特許権の侵害に当たらないとされて、原告の請求がいずれも棄却された事例。
[特許請求の範囲]
【請求項1】
A 茶の木の新芽の育成期間に日光を遮って育成した一番茶の茶葉を
B 嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後、
C 嫌気処理を行った前記茶葉を原料として碾茶又は抹茶又は玉露に製造することを特徴とする
D ギャバ臭味のないγ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法。
[主な争点]
争点1-1 構成要件Bの「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後」の充足性
[裁判所の判断]
『1 争点1(構成要件Bの充足性)について
・・・(略)・・・
(2)構成要件Bにおける「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後、」の意味
ア 「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返」すことの意味
(ア)構成要件Bは、「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後、」との文言であるところ、「交互」とは、その字義に照らし、種類の違うものが互いに入れ替わることを意味するものであり、構成要件Bにおいて入れ替え可能なものは、「嫌気処理」と「好気処理」しかないことからすると、ここでの「交互」とは、上記二種の処理が互いに入れ替わることを意味するものと解すべきことになる。また、ここでの「操作」とは、「嫌気処理した後、好気処理する」という一連の操作を意味するものであり、「交互に繰り返」すことの対象が当該「操作」であることは、その文言上明らかといえるから、これを「繰り返」すということは、嫌気処理後に好気処理を行うという操作を繰り返す、すなわち、嫌気処理及び好気処理をした後、更に引き続いて嫌気処理及び好気処理(必要に応じて当該操作を繰り返す)を行うことを意味するものといえる。
・・・(略)・・・
そうすると、構成要件Bにおける「嫌気処理した後、好気処理をする操作を交互に繰り返」すことというのは、嫌気処理した後、好気処理をするだけ(嫌気処理と好気処理を各1回すること)では足りず、少なくとも、これに加えて、引き続き嫌気処理及び好気処理という一連の操作を行うことを要請するものと解するのが相当といえる。
・・・(略)・・・
以上を総合すれば、構成要件Bは、少なくとも、「嫌気処理の後に、好気処理を」行った上で、更に嫌気処理及び好気処理という一連の操作を行うことを意味するものと解するのが相当であり、構成要件Bを充足するというためには、嫌気処理及び好気処理を、最低2回以上行う場合でなければならないというべきである。』
『イ 好気処理の意味
次に、構成要件Bの好気処理については、その文言からは具体的にどのような処理を意味するか必ずしも明らかではないところ、本件明細書の【0014】及び【0017】には、好気処理について、「好気的な環境下(酸素が存在する状態にする。)」に置くこと及び1時間程度静置することが記載されているほか、実施例に「好気(回復)1時間」との記載があることからすると、本件発明における好気処理は、茶葉を酸素が存在する状態で1時間静置する作業が含まれるものであるということができる。
・・・(略)・・・
そうすると、好気処理とは、一般に、嫌気処理下の茶葉に空気を送り込んで好気的条件に切り替えることや、密封されていた容器を開放し、茶葉を外気に触れるようにするなどして、茶葉を好気的状態に置くことを意味し、その処理の時間が10分未満であると、GABAの十分な量の生成が期待できず、3時間を超える長時間の処理を行うと、嫌気処理で生成したGABAの減少量が増す上に、長時間の処理に見合う効果が得られず好ましくないことが技術常識であると認めることができ、本件発明における好気処理、すなわち、酸素が存在する状態での茶葉の静置時間についても、10分から3時間の幅の中で行うことを意味するものと解するのが相当である。』
『(3)構成要件Bの充足性の有無
・・・(略)・・・
イ ところで、特許請求の範囲における「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後、嫌気処理を行った前記茶葉を原料として碾茶又は抹茶又は玉露に製造することを特徴とする」との文言からすれば、構成要件Bにおける嫌気処理及び好気処理は、構成要件Cの「碾茶又は抹茶又は玉露に製造する」工程、すなわち碾茶等製造工程の前に行われる工程であると認められる。
・・・(略)・・・
以上によれば、構成要件Bにおける嫌気処理及び好気処理については、碾茶等の製造工程における茶葉を蒸す作業以前の段階において行われるものを指すものと解するのが相当である。
そこで、これを被告方法についてみると、被告方法においては、嫌気処理を行い8時間静置した後、蒸熱、散茶、碾茶炉での乾燥の工程を経て、仕上げ加工の工程が行われており、原告が嫌気処理であると主張する窒素ガス充填は、茶葉を蒸す作業に相当する「蒸熱」の工程よりも後に行われていることが認められる。
そうすると、上記窒素ガス充填の処理は構成要件Bの嫌気処理に該当するものとはいえず、被告方法において、構成要件Bの嫌気処理に相当するものは、工場搬入後に、茶葉を袋詰し、窒素ガスで充填し、約8時間静置する工程の1回のみであるから、被告方法が構成要件Bを充足すると認めることはできない。
ウ また、被告方法において、嫌気処理を施され8時間静置された茶葉は、その後開封され大気に晒されるものの、開封後、特段静置されることなく次の作業が開始され、最も早いもので、開封から5分以内に蒸熱の工程が行われていることが認められるから、被告方法には、構成要件Bの好気処理に該当する工程があると認めることもできない。
(4)以上のとおり、被告方法においては、構成要件Bにつき、1回の嫌気処理しか行われていないから、被告方法は構成要件Bを充足しない。』
『2 小括
以上のとおり、被告方法は本件発明の構成要件Bを充足せず、被告方法の使用及び被告方法により製造される被告製品の譲渡等は本件特許権を侵害しないから、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。』
[コメント]
本判決は、茶の製造方法発明における工程要件の充足性について、クレーム文言、明細書の記載、技術常識及び実際の製造工程を踏まえ、各工程の技術的意味を丁寧に検討した事例である。
本件で争われた「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後」との文言について、裁判所は、嫌気処理及び好気処理という一連の操作を、少なくとも2セット行う必要があると判断した。また、窒素ガス充填や大気への接触という外形だけで判断するのではなく、当該工程が茶葉を蒸す前の生葉段階で行われる処理であるか、好気処理として意味のある静置時間が設けられているか等を、技術的に踏み込んで検討している。
実務上は、製造方法発明において、工程名が同じ又は類似していても、その工程がクレーム上想定された段階、目的及び技術的意義を有するかが問題となり得る。また、被疑侵害方法の内部工程を外部から把握することは難しい場合が少なくないため、製品表示、公開資料、成分分析、製造条件に関する資料等から工程内容を推認しつつ、必要に応じて証拠収集手段の活用も検討することが有用である。本判決は、食品・飲料分野に限らず、化学・医薬・材料分野のプロセス発明においても参考となる。
以上
(担当弁理士:東田 進弘)
令和5年(ワ)第70445号「γ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法」事件
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