IP case studies判例研究

令和7年(受)第356号「TRIPP TRAPP」事件

名称:「TRIPP TRAPP」事件
不正競争行為差止等請求事件
最高裁判所:令和7年(受)第356号 判決日:令和8年4月24日
判決:上告棄却
関連条文:著作権法2条1項1号、同条2項、同法10条1項4号
キーワード:量産実用品の著作物性、意匠法との棲み分け
判決文:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-95904.pdf

[概要]
量産されて日常生活の中で実用に供されることが予定されている物品(量産実用品)の著作物性の要件が示された事例。

[本件椅子の形状]

[争点]
本件椅子のように、量産されて日常生活の中で実用に供されることが予定されている物品(量産実用品)であっても、その形状等(形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合をいう。以下同じ。)が創作的な表現であれば、美術の範囲に属するものとして著作物に当たるか否か。

[控訴審(原審)]
知財高裁は、実用品の形状等の創作的表現について著作物性が認められるのは、それが実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合又は当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られると解するのが相当である、と示した。
そして、知財高裁は、本件顕著な特徴は、2本脚の間に座面板及び足置板がある点(特徴①)、側木と脚木とが略L字型の形状を構成する点(特徴②)、側木の内側に形成された溝に沿って座面板等をはめ込み固定する点(特徴③)からなるものであって、そのいずれにおいても高さの調整が可能な子供用椅子としての実用的な機能そのものを実現するために可能な複数の選択肢の中から選択された特徴であり、これらの特徴により全体として実現されているのは椅子としての機能である。したがって、本件顕著な特徴は、原告製品の椅子としての機能から分離することが困難であり、本件顕著な特徴を備えた原告製品は、椅子の創作的表現として美感を起こさせるものではあっても、椅子としての実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象とすることができるような部分を有するということはできない、と判断した。

[裁判所の判断]
『4(1) 著作権法2条1項1号は、「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義している。もっとも、量産実用品については、その形状等が思想又は感情を創作的に表現したものであるということができれば、直ちに美術の範囲に属するものとして著作物に当たるとの解釈を採ることは相当ではない。
すなわち、我が国には、産業の発達に寄与することを目的として、視覚を通じて美感を起こさせる量産実用品の形状等を保護する意匠法があり、量産実用品の形状等について、意匠登録出願をして所定の審査を経て設定の登録がされることで意匠権が発生する。意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有し、意匠権の存続期間は原則として意匠登録出願の日から25年とするなどとされている(1条から3条まで、6条、16条、20条、21条、23条等)。これに対し、著作権法では、登録等の手続を経ることなく著作権が発生し、業として行われる行為以外にもその効力が及び、その存続期間は原則として著作物の創作の時から著作者の死後70年を経過するまでの間とし、著作者は著作権に加えて著作者人格権も享有するなどとされている(第2章第3節第1款から第3款まで、第4節等)。以上のような我が国の意匠法及び著作権法における権利の発生要件、内容及び存続期間等に鑑みれば、上記解釈を採り、量産実用品の形状等について、意匠法に加えて著作権法により保護されることを広く認めた場合には、あえて費用等を投じて意匠登録を受けなくとも、同法によって、より長期間、広範に保護が受けられることとなる可能性があり、意匠法の存在意義を損なうおそれがある。また、量産実用品の形状等について広く著作権法の保護が及ぶとすると、著作者人格権により権利関係が複雑化して量産実用品の利用が妨げられたり、意匠権の存続期間満了後も長期間にわたって量産実用品の形状等を自由に利用することができなくなったりすることにもなりかねず、産業の発達に寄与するという意匠法の上記目的が阻害されるおそれもある。
(2) もっとも、量産実用品の形状等は、通常、実用目的に必要な機能(以下、単に「機能」という。)との関係で一定の制約を受けて決定されるものであり、機能に由来する構成と別個にこれを把握することができないものであるけれども、その中には、例えば、表面に単なる模様や表面加工の域を超える装飾が付加されているもののように、当該付加部分の形状等が、機能と関連せず、観念上、機能に由来する構成とは別個の絵画や彫刻として把握できるものがある。このようなものは、量産実用品に「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)が単純に付加されたものということができ、当該付加部分に同法の保護が及ぶことは当然である。
また、量産実用品の中には、例えば、全体として彫刻等とも看取できるもののように、その全体又は部分における形状等が、当該実用品としての機能と関連してはいるものの、観念上、機能に由来する構成とは別個の彫刻等として把握できるものがある。このような形状等は、機能に由来する構成とは別個に思想又は感情の創作的な表現を把握できるという点において、「美術の著作物」が単純に付加された上述の場合と同様であるということができるから、著作権法の保護を及ぼすのが相当である。上記のような形状等は、機能との関係で一定の制約を受けるのが通常である量産実用品の形状等としては例外的なものであるということができるのであって、これに著作権法の保護を及ぼしても、上記でみたような弊害が生ずるおそれは小さい。
以上によれば、量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合には、当該量産実用品の全体又は部分は、著作権法2条1項1号にいう著作物のうち、美術の範囲に属するものに当たるというべきである。
(3) これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本件椅子は、量産実用品であって、上告人らは、大要、約66度の略L字型を成して床面から立ち上がっている2本の脚を有し、当該2本の脚の間に座面板及び足置板が床面と平行に固定されるようになっている点において創作性が認められるから、本件椅子が著作物に当たると主張する。しかしながら、上記の点は、子供用の椅子としての機能に由来する構成である脚、座面板及び足置板の配置による形状が美感を起こさせるものであることを基礎付ける事情にすぎない。そして、本件椅子の全体又は部分における形状等は、子供用の椅子としての機能に由来する構成としてしかこれを把握することができず、当該構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものではない。よって、本件椅子は、著作物に当たるとはいえない。』

[コメント]
本判決は、「量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合には、当該量産実用品の全体又は部分は、著作権法2条1項1号にいう著作物のうち、美術の範囲に属するものに当たる」という要件が示された点で、重要な判決である。
控訴審には、「独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合又は当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られる」という要件が示されていた。本判決の補足意見では、本判決が示した要件において「美的鑑賞」という語を用いておらず、その趣旨としては、そもそも美的な美術としての鑑賞に値するか否かを裁判所が判断するのは不適当と思われるという理由が述べられている。また、補足意見には、本判決の要件は抽象度が高いものであるが、本件椅子についてその当てはめの判断を行っているように、その要件の具体的適用について今後様々な事例の積み重ねに期待すると述べられており、本判決の当てはめに沿って判断することが重要であることが理解できる。
個人的な考えであるが、本判決の当てはめを見るに、機能に由来する構成とは別個に思想又は感情の創作的な表現として把握することができる一例として、キャラクタなどの彫刻等を施した場合、機能に由来する構成(形状)を輪郭線として用いてキャラクタなどの彫刻等を施した場合などの非常に限定された場合が想起された。機能に由来する構成を著作権で保護することは事実上できず、量産実用品については意匠出願を確実に実施するのが良策であろう。
以上
(担当弁理士:坪内 哲也)

令和7年(受)第356号「TRIPP TRAPP」事件

PDFは
こちら

Contactお問合せ

メールでのお問合せ

お電話でのお問合せ