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令和7年(行ケ)第10069号「ロール製品パッケージ」事件

名称:「ロール製品パッケージ」事件
審決(無効・成立)取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和7年(行ケ)第10069号 判決日:令和8年4月23日
判決:請求棄却
特許法第29条第2項
キーワード:進歩性
判決文:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-95922.pdf

[概要]
相違点に係る構成ついて設計事項として判断された結果、進歩性なしの無効審決が維持された事例。

[事件の経緯]
(1)被告は、令和5年6月15日、本件特許(異議事件で認められた訂正後の請求項1ないし5)を無効とすることを求める無効審判請求をした(無効2023-800037号事件)。
(2)特許庁は、「請求項1、3~4、6~7に係る発明についての特許を無効とする。特許第6590596号の請求項2及び5に係る発明についての本件審判の請求を却下する。」との審決をした。
(3)原告は、令和7年7月11日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。

[特許請求の範囲]
【請求項1】
フィルムからなる包装袋に、衛生薄葉紙の2plyのエンボス処理されたシートを巻いたロール製品を複数個収納してなるロール製品パッケージであって、
前記ロール製品が軸方向を上下にして一列に2個並べた段を2段重ねて前記包装袋に包装してなり、
前記包装袋は筒状のガゼット袋から構成され、前記ロール製品を囲む略直方体状の本体部と、前記本体部の上辺のうち、互いに対向する長辺から上方に向かってそれぞれ切妻屋根型に延びて接合された把持部と、を有し、
前記把持部には、ほぼ中央に上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴、又は上向きに非切抜部を有して横方向に沿って並ぶ二個のスリット状の指掛け穴が形成されており、
前記ロール製品の巻長が63~103m、コアを含む1個の前記ロール製品の質量が200~370gであり、
(前記包装袋内の4個の前記ロール製品の質量)/(前記フィルムの坪量)が25~80(g/(g/m2))であり、
前記長辺から前記把持部までの前記包装袋の傾斜角θが25~45度であり、
前記長辺同士の間隔Wが105~134mmであり、
前記ロール製品の巻き硬さが1.0~3.0mmであり、
前記把持部の前記長辺方向に沿う長さが(前記ロール製品の巻直径×2)の72%以上であり、前記把持部の前記長辺方向に沿う長さの上限は(前記ロール製品の巻直径×2)である
ロール製品パッケージ。

[主な争点]
取消事由1(本件審決の本件出願日時点における技術常識の認定の誤り)
取消事由2(相違点1に関する判断の誤り)
取消事由3(相違点2に関する判断の誤り)
取消事由4(相違点3に関する判断の誤り)
取消事由5(相違点4に関する判断の誤り)

[本件請求項1に係る発明と甲1発明との相違点]
<相違点1>
「衛生薄葉紙のシートを巻いたロール製品」について、本件発明1では「衛生薄葉紙の2plyのエンボス処理されたシートを巻いた」ものであり、「軸方向を上下にして一列に2個並べた段を2段重ねて前記包装袋に包装してな」り、また、「巻長が63~103m、コアを含む1個のロール製品の質量が200~370gであり、(前記包装袋内の4個の前記ロール製品の質量)/(前記フィルムの坪量)が25~80(g/(g/㎡))であ」るのに対して、甲1発明では「衛生薄葉紙のシートを巻いた」ものであり、「上下方向に軸を揃えて2個重ねたロール製品50を縦横2列(合計で8個)収納してな」り、また、「巻長」、「コアを含む1個のロール製品の質量」及び「(前記包装袋内の4個の前記ロール製品の質量)/(前記フィルムの坪量)」について特定していない点。
<相違点2>
本件発明1では、「ロール製品パッケージ」が「長辺から把持部までの包装袋の傾斜角θが25~45度であり、長辺同士の間隔Wが105~134mmである」のに対して、甲1発明では、「上下方向に軸を揃えて2個重ねたロール製品50を縦横2列(合計で8個)収納してな」るものとして、「パネル部山折り稜線45,55から持手部4までの包装袋100のパネル部の傾斜角θが20~50度であ」り、また、「パネル部山折り稜線45,55同士の間隔」については明らかでない点。
<相違点3>
本件発明1では、「前記ロール製品の巻き硬さが1.0~3.0mmであ」るのに対して、甲1発明では、巻き硬さについて特定していない点。
<相違点4>
本件発明1では、「前記把持部の前記長辺方向に沿う長さが(前記ロール製品の巻直径×2)の72%以上であり、前記把持部の前記長辺方向に沿う長さの上限は(前記ロール製品の巻直径×2)である」のに対して、甲1発明では、本件発明1のような構成について規定しない点。

[裁判所の判断]
『2 取消事由1(本件審決の本件出願日時点における技術常識の認定の誤り)について
・・・(略)・・・
(1)技術常識aについて
引用文献1は、本件出願日よりも前にインターネット上に掲載された記事の一部であり、その記載は別紙2「甲7及び引用文献1ないし4の記載」の2のとおりである。
・・・(略)・・・
そうすると、平成9年には、トイレットペーパーの長巻化・ロール数削減に対する消費者の需要(ニーズ)が存在し、本件出願日である平成27年8月31日当時には、このような商品の販売が継続していたことにより、長巻化・ロール数削減に対する消費者の需要(ニーズ)は広く一般に知られていたものと推認することができる。
以上によれば、本件審決が、「1ロールの巻き長を長くしつつ、1パッケージ当たりのロール数を減じて省スペースを図るニーズが古くからあり、本件出願当時にあっては、技術常識として知られていたものと認められる。」と判断したことに誤りがあるとはいえない。
(2)技術常識bについて
・・・(略)・・・
上記記載によれば、1970年(昭和45年)の時点で、1パッケージ当たりのロール数が4ロールである商品が販売されていたことが認められる。また、4ロール入りの商品として、本件の証拠に現われるものは、ロール製品を軸方向を上下にして一列に2個並べた段を2段重ねて収納する形態(1列2段形態)であり、4ロール入りの商品の多くはこのように1列2段形態で包装袋に収納されて包装されていたものと推認される。
以上によれば、本件審決が、「『軸方向を上下にして一列に2個並べた段を2段重ねて前記包装袋に包装』することは古くから行われており、そのニーズがあったことは当該技術分野における技術常識であると認められる。」と判断したことに誤りがあるとはいえない。
(3)技術常識cについて
甲7は、本件出願日よりも前にインターネット上に掲載された記事(引用文献1を含む記事と同一である。)の一部であり、その記載は別紙2「甲7及び引用文献1ないし4の記載」の1のとおりである。
・・・(略)・・・
上記記載によれば、一般的に販売されているトイレットペーパーとして、シングル(1ply)のもの及びダブル(2ply)のものが存在することが認められる。また、消費者が、トイレットペーパーとして再生紙を用いた商品を選択した結果、再生紙のトイレットペーパーにはダブルのものが多いため、ダブルのトイレットペーパーを選択する結果となることがあることも認められ、このことからすれば、消費者がその嗜好によりトイレットペーパーのシングル(1ply)とダブル(2ply)のいずれかを選択していると認めることができる。
以上によれば、本件審決が、「『衛生薄葉紙』には『1plyのシートを巻いた』もの、及び『2plyのシートを巻いた』ものが存在し、消費者の嗜好に合わせて適宜選択するものであることは、本件発明の技術分野における当業者が広く認識していた技術常識といえる。」と判断したことに誤りがあるとはいえない。
(4)技術常識dについて
本件審決は、前記第2の4(3)イ(ア)dのとおり、トイレットペーパーの芯の重さが4ないし6g程度であるとの技術常識を認定しているところ、上記箇所に挙げられた引用文献3、4の記載(別紙2「甲7及び引用文献1ないし4の記載」の3、4のとおり。)から上記内容が技術常識であると認定したことに誤りがあるとは認められない。
・・・(略)・・・
3 取消事由2(相違点1に関する判断の誤り)について
・・・(略)・・・
(3)相違点1の容易想到性について
・・・(略)・・・
そうすると、ガゼット包装を採用する甲1発明において、技術常識aないしc、特に技術常識aの内容を踏まえ、当業者において、2plyのシートの巻長を長くし、1パッケージ当たりのロール数を減らす方向となる甲2記載事項を甲1発明に適用する動機付けがあったと認められる。
また、甲1発明において、甲2記載事項のロール製品を収納する際、甲2記載事項のロール製品の重量等に応じて、甲2記載事項の包装袋の厚さ、すなわち坪量を選択することは、当業者の通常の創作能力の発揮であって、適宜選択し得た設計的事項というべきである。
そして、甲1発明に甲2記載事項を適用すれば、相違点1に係る本件発明1の構成を得ることができること、甲2記載事項は、相違点1に係る本件発明1の数値範囲の全てを開示するものではないが、本件発明1において、甲2記載事項に具体的に開示されていない数値範囲は、甲2記載事項を甲1発明に適用するに際して当業者が適宜なし得た設計事項にすぎないと解されることは、本件審決の判断(前記第2の4(3)イ(ウ))のとおりである。
・・・(略)・・・
4 取消事由3(相違点2に関する判断の誤り)について
(1)相違点2の容易想到性について
ア パネル部の傾斜角θについて
・・・(略)・・・
甲1の【0024】は、上下方向に軸を揃えて2個重ねたロール製品を縦横2列(合計8個)収納した形態を前提としたものであるが、傾斜角θが小さくなりすぎた場合、あるいは大きくなりすぎた場合に、それぞれどのような問題が生じるかについて記載がされており、傾斜角θを規定する上でどのような技術的事項を考慮する必要があるのかについて、当業者であれば容易に理解することができる内容であるといえる。
そして、甲1発明のガゼット包装において、甲2記載事項を適用し、軸方向を上下にして一列に2個並べた段を2段重ねて包装袋に包装するようにすることは、前記3(3)のとおり容易想到であるところ、その際、収納する甲2記載事項のロール製品及びその収納形態に合わせて、甲1の【0024】に記載された20~50度という角度も参考に、包装袋の山折り稜線を掴みやすいものとし、かつ、縦方向に長くなりすぎないような傾斜角θを決めることは、当業者であれば容易に想到する事項である。
また、本件発明1において、傾斜角θの下限を25度、上限を45度とすることについて、格別の技術的意義があるとは認められず、傾斜角θを25~45度にすることによって格別顕著な効果が奏されるとも認められない。
そうすると、甲1発明に甲2記載事項を適用する場合に、傾斜角θを25~45度とすることは、当業者が必要に応じて適宜選択し得た設計的事項であると認められる。
イ 相違点2の長辺同士の間隔Wの容易想到性について
甲1発明に甲2記載事項を適用して、軸方向を上下にして一列に2個並べた段を2段重ねて包装袋に包装する構成にした場合、収納する甲2記載事項のロール製品及びその収納形態に合わせて収納袋の短辺と長辺が設定されることとなり、長辺同士の間隔、すなわち短辺の長さは、ロール製品の直径とほぼ同様になる。甲2記載事項のロール製品(実施例1ないし6)の直径は120mm又は133mmであるから、長辺同士の間隔もほぼこの値となるところ、この数値は相違点2に係る本件発明1の長辺同士の間隔Wの構成に相当する。
また、本件発明1において、長辺同士の間隔Wの下限値を105mm、上限値を134mmとすることについて、格別の技術的意義があるとは認められず、長辺同士の間隔Wを105~134mmにすることによって格別顕著な効果が奏されるとも認められない。
そうすると、甲1発明に甲2記載事項を適用する場合に、長辺同士の間隔Wを105~134mmとすることは、当業者が必要に応じて適宜選択し得た設計的事項であると認められる。
・・・(略)・・・
5 取消事由4(相違点3に関する判断の誤り)について
(1)相違点3の容易想到性について
・・・(略)・・・。そうすると、甲2の【0012】の記載内容を前提として、甲1発明に甲2記載事項を適用する際に、ロール製品の巻き硬さについて、本件発明1の範囲とすることは、当業者であれば適宜決定し得たことである。
・・・(略)・・・
6 取消事由5(相違点4に関する判断の誤り)について
(1)相違点4の容易想到性について
・・・(略)・・・
甲1発明に甲2記載事項のロール製品及びその収納形態を適用した場合、甲1の持手部4のパネル部山折り稜線45、55に沿う長さの方向にロール製品が2個収納されることになるから、包装袋とロール製品の間に余分な隙間が生じないよう、持手部4のパネル部山折り稜線45、55に沿う長さを、ロール製品の巻直径のほぼ2倍とすることは、当業者が必要に応じて適宜決定し得た設計的事項であるということができる。
また、本件発明1では、把持部4と切妻屋根型の屋根に当たる部分とがどのように接続されているのか、具体的には、屋根に当たる部分と把持部4の長さに違いがあるのか、屋根の長辺に当たる部分が上方に行くに従って幅が短くなっているのか、さらには、包装袋の長辺方向の長さとガゼット部の長さとの関係について何ら特定されていないから、本件発明1の把持部4の長さの上限と下限の範囲に特段の技術的意義が存在するとは認められず、この長さの数値範囲をとることによって格別顕著な効果が奏されるとも認められない。
以上によれば、甲1の持手部4の長さについて、その上限をロール製品の巻直径の2倍とし、その下限を、巻直径の2倍以下であるが、これを著しく下回るものでない72%とすることは、当業者が通常の創作能力の範囲で適宜なし得た設計的事項であるというべきである。』

[コメント]
審査段階および異議申立において、主引例が甲2で副引例が甲1であったところ、無効審判において主引例と副引例を入れ替えて請求した。
異議申立では、傾斜角度θについて、本件特許明細書の【0020】の「図4において、ロール製品パッケージ200を把持部4で持ち上げるのに必要な力を2Fとする。この力2Fは、長辺45,55にそれぞれ接するロール製品50の端部では、その半分の力Fとなって作用する。力Fは、パネル部41、51方向にはそれぞれ(F/sinθ)の分力として作用するから、θが大きくなるほど(F/sinθ)が小さくなり、長辺45,55に接するロール製品50の端部にかかる負荷が小さくなる。そこで、θを25度以上に規定する。
このようなことからは、θが大きいほど好ましいが、θが大きくなり過ぎると、パネル部41、51が立ち上がり過ぎ、パネル部41、51とロール製品50の上端との隙間Gが大きくなる。その結果、包装袋100内でロール製品50が動いて安定性が劣ったり、θを過剰に大きくするために包装袋100のサイズが大きくなってコストが高くなるので好ましくない。そこで、θを45度以下に規定する。」という記載から、本件発明1は、ロール製品の重量及び安定性並びにコストとの関係において、傾斜角θを25~45度としたものであると理解される。
ここで、申立人は、甲第2号証の【0024】には、「パネル部の傾斜角θが20度未満の場合、各パネル部山折り稜線43、53が側面23の上辺に近くなり、同様に山折り稜線43、53の一方を掴み難くなる傾向にある。一方、パネル部の傾斜角θが50度を越えると、ロール製品パッケージ200が縦方向に長くなり過ぎ、包装がルーズになり、運搬がし難くなる傾向にある。」という記載から、甲1発明において、上記相違点3に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである旨主張する。
しかし、甲第2号証には、ロール製品の重量による端部にかかる負荷を小さくするために、傾斜角を25度以上とすることは、記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、傾斜角θを25~45度とすることを、当業者が容易に想到し得たということはできない。」と特許庁は判断した。
この点につき、本判決では、取消事由3(相違点2 パネル部の傾斜角θ)に相当し、上述の通り『本件発明1において、傾斜角θの下限を25度、上限を45度とすることについて、格別の技術的意義があるとは認められず、傾斜角θを25~45度にすることによって格別顕著な効果が奏されるとも認められない。そうすると、甲1発明に甲2記載事項を適用する場合に、傾斜角θを25~45度とすることは、当業者が必要に応じて適宜選択し得た設計的事項であると認められる』と判断された点で異なっていた。
異議申立では、この傾斜角の相違点でのみ進歩性が認められていることから、無効審判では、被告はこの相違点の進歩性判断のハードルを下げることを意図して、主引例と副引例を入れ替えたものと推察される。一方で、入れ替えたことにより、異議申立とは異なる新たな相違点も認定されたが、すべて設計事項として判断された。
以上
(担当弁理士:丹野 寿典)

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