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令和5年(ワ)第9068号「ロック付摘みオープナー」事件

名称:「ロック付摘みオープナー」事件
大阪地方裁判所:令和5年(ワ)第9068号 判決日:令和8年3月24日
判決:特許権侵害行為差止等請求事件
特許法70条、100条、102条2項
キーワード:充足性、推定覆滅
判決文:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-96023.pdf

[概要]
請求項の「略コ字形状のフレーム部」、「フレーム部の内部を挿通」及び「中央部分がその長手方向に伸縮自在」との文言について、部材数、断面形状及び伸縮時期を実施形態に限定せず、被告製品1・2が本件発明の技術的範囲に属すると認め、販売による損害については、ファイバースコープとの併用を容易にする独自の機能及び同一用途の競合品の存在を考慮して、50%の推定覆滅を認めると判断した事例。

[特許請求の範囲]
【請求項1】
A 略コ字形状のフレーム部と、
B このフレーム部の内部を挿通する可撓性を有する線条材と、
C この線条材の基端側に設けられた操作部と、
D この線条材及びフレーム部の先端側に設けられたサムターン挟持部とから成り、
E 前記フレーム部の中央部分がその長手方向に伸縮自在に形成され、
F 前記操作部を線条材を中心として回動すると、先端部のサムターン挟持部も線条材を中心として回動し、
G これにより、フレーム部の先端の前記サムターン挟持部を扉のドアスコープの穴部から扉内側に挿入して、先端部のサムターン挟持部によってサムターンの両側に設けられたプッシュボタンを押下しつつ挟持することができること
H を特徴とするロック付摘みオープナー

[被告の行為]
解錠器具の製造・販売及び業としての使用。対象となった被告製品1ないし3は、ドアスコープ用オープナー(DS)を共通の本体とし、先端に着脱するアタッチメントが異なる。被告製品1・2はプッシュボタン付き錠前に対応するもの、被告製品3はプッシュボタンのない錠前に対応するものとして販売されていた。異なる構成の製品が同一商品名で販売され、製品番号等による区別も行われていなかった。

[主な争点]
(1)本件発明の技術的範囲への属否(争点1)
具体的には、構成要件A、B、E及びGの充足性
(5)損害の有無及び額(争点5)

[裁判所の判断]
『1 争点1(本件発明の技術的範囲への属否)について
(1)構成要件Aの充足性について
ア 意義
特許請求の範囲の記載によれば、構成要件Aは「フレーム部」が「略コ字形状」であるとの構成であると解されるが、フレーム部の部材の素材や個数について何ら特定する記載はない。また、本件明細書には、実施形態としてフレーム部が3つの構成要素から成る構成が複数記載されているが(【図1】ないし【図4】)、「上記実施形態では、いずれのタイプのフレーム部のものも3つの構成要素から形成したが、これを2つの構成要素から形成することも可能である」(【0036】)と記載されている。そうすると、構成要件Aの「フレーム部」は、2つの構成要素から構成されるフレームも含まれると解されるもので、「フレーム部」が3つの構成要素から成るものに限定されるとの被告の主張は採用できない。
また、「略コ字形状」とは、特許請求の範囲及び本件明細書において字義以上に限定解釈する記載は見当たらないことからすれば、字義どおり「概ねコの字の形状」であることを意味すると解される。
イ 構成要件充足性
被告各製品のフレーム部は、2つのフレームから成り、うち1つは略L字形状であり、うち1つも略L字形状であるところ、これらを組み合わせると全体として略コ字形状を形成することが認められる(別紙「被告製品説明書(原告ら主張)」の図7参照)。
以上から、被告各製品は、構成要件Aを充足する。
(2)構成要件Bの充足性について
ア 意義
特許請求の範囲には、「可撓性を有する線条材」が「フレーム部の内部を挿通する」との記載があるが、フレーム部の構成や素材を限定する記載はない。また、本件明細書には、実施形態として、フレーム部が管体又は金属製管体から成る構成(【0022】【0027】【0034】)が示されているが、あくまで実施形態の一例であり、「フレーム部のサイズ、材質等は、適宜自由に設定することができる。」(【0037】)、「更には、フレーム部は、必ずしも管体でなくとも実施することは可能である。」(【0039】)との記載もある。そして、「挿通」とは「孔に通すこと。刺し通すこと。」(特許技術用語集第3版)を意味し、「孔」とは「くぼんだ所。または、向こうまで突き抜けた所。」(広辞苑第7版)を意味することからすれば、上記フレーム部は筒状であることや切断面が閉じた状態であることを要するものとはいえない。
以上から、フレーム部を細長い筒状のものであって切断面が閉じた形状である管体に限定すべきであるとする被告の主張は採用できない。
イ 構成要件充足性
被告各製品は、可撓性を有する線条材が、2つのフレーム部の内部を突き抜けて通っていることから、構成要件Bを充足する。
(3)構成要件Eの充足性について
ア 意義
(ア)「中央部分」
特許請求の範囲には、「フレーム部」に「中央部分」が存在し、当該「中央部分」が「その長手方向に伸縮自在に形成されている」との記載があるが、具体的な「中央部分」の位置や範囲、伸縮の時期や方法を特定する具体的な記載はない。また、本件明細書には、実施形態において上記中央部分が伸縮する具体的な伸縮の時期や方法を限定する記載もない。加えて、本件明細書の実施形態(【図1】【図2】)においても、「中央部分」に相当する「12中央フレーム部」が上記各フレームの端部を除いた広い範囲を指すことが示されており、「例えば、基端側フレームと先端側フレーム部の中央部分側の直線状の長さを長く形成して、一方端部を他方端部に嵌入させる構成を採用すればよい」(【0036】)との記載があることに照らせば、「フレーム部の中央部分」とは、フレーム部の基端側と先端側の端部の間にある伸縮自在な部分であることを意味すると解すべきである。よって、「中央部分」をフレーム全体の物理的な長さの中間地点に限定されるとの被告の主張は採用することができない。
(イ)「伸縮自在」
特許請求の範囲には、単にフレーム部の中央部分が「伸縮自在」の構成であるとの記載があるにとどまり、具体的な伸縮の時期や手段に関する記載はない。また、本件明細書には、実施形態において、操作部を操作しながら伸縮させる構成が示されているが(【0024】【0026】)、「フレーム中央部の伸縮構造も全く自由である」(【0039】)との記載もあることからすれば、フレーム部の中央部分が「伸縮自在」となる時期は特段限定されていないと解される。
この点、被告は、本件発明の課題(【0007】)との関係も指摘した上で、フレーム部の中央部分が「伸縮自在」となるのは、解錠器具をドアスコープの穴部から室内に挿入した後に限定される旨主張するが、本件発明の課題の記載(【0007】)には、被告の指摘するような操作手段に限定する記載はないから、被告の主張は採用できない。
イ 構成要件充足性
被告各製品は、2つのフレーム部を組み合わせて構成されたフレーム部全体の両基端部の間部分が伸縮する構成であるから、構成要件Eを充足する(上記のとおり、伸縮の時期、すなわち「伸縮自在」となる時期や手段は限定されない以上、被告各製品の上記フレーム部がドアスコープに挿入する前に伸縮幅を調整して固定されることは、上記充足性に何ら影響するものではない。)。
(4)構成要件Gの「先端部のサムターン挟持部によってサムターンの両側に設けられたプッシュボタンを押下しつつ挟持することができる」の充足性(被告製品3関係)及び「これにより」の充足性
ア 被告各製品のうち被告製品1・2は、プッシュボタン付き錠前に対応する本件アタッチメント1及び同2を先端部に備える解錠器具であり、本件アタッチメント1は挟持部たるバネ板間の幅が比較的狭く、プッシュボタンが平板上のサムターンの上下両平面に付いている錠前に対応し、本件アタッチメント2は挟持部たるバネ板間の幅が比較的広く、プッシュボタンが、サムターンの広い幅側両端に付いている錠前に対応するものとして販売されている(乙75、90)が、いずれについても、当該プッシュボタンを各アタッチメントの先端で押下しながら挟持し、これを回転して解錠させる構成を有するといえるから、構成要件Gの「先端部のサムターン挟持部によってサムターンの両側に設けられたプッシュボタンを押下しつつ挟持することができる」を充足する(被告もこの点を争うものではない。)。
また、構成要件Eに係る上記(3)の説示も踏まえれば、「これにより」(構成要件G)も充足するものといえる。・・・略・・・
(5)小括
以上によれば、被告製品1・2は、本件発明の技術的範囲に属すると認められるが、被告製品3は本件発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。・・・略・・・
6 争点5(損害の有無及び額)について
・・・略・・・
ウ 推定覆滅について
特許法102条2項は損害額の推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が得た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠けることを主張・立証した場合には、その限度で上記の推定は覆滅されるので、被告の主張する推定覆滅事由を検討する。
(ア)本件発明の寄与
被告は、本件発明が、扉によって覗き穴と錠との間隔距離に相違があるために器具の長さを容易に変更できるようにするとの課題を解決し、線条材を挿通させたコの字型のフレーム部を用いてドアスコープからの解錠を可能とするだけでなく、フレーム部の中央部分を伸縮自在とすることで器具の長さを容易に変更できるという作用効果を奏するところ、被告製品1・2では、ドアスコープへの挿入後にフレーム部を伸縮することができないから、本件発明の作用効果の大部分を発揮できておらず、この点が推定覆滅事由となると主張する。
しかし、上記1で検討したとおり、本件発明においてフレーム部の中央部分が伸縮する時期や手段は特定されておらず、ドアスコープへの挿入前にフレーム部を伸縮させるという被告製品1・2の構成も本件発明の技術的範囲に含まれ、フレーム部の中央部分が伸縮しない構成とは異なり、器具の長さを容易に変更できるとの効果を奏するといえる。したがって、被告製品1・2においても、本件発明の上記作用効果の発揮に欠けるところはなく、推定が覆滅されることはない。
(イ)被告製品1・2の性能
・・・略・・・①について、本件発明には、フレーム部の中央部分を伸縮自在とすることによってドアスコープの穴部とサムターンの間隔距離が異なっていても容易に対応でき、サムターン挟持部があることによって、サムターン両側に設けられたプッシュボタンを適切に挟み付けて押下して、ロックを解除し回転させることができるとの作用効果(本件明細書【0013】【0014】)を奏するが、本件明細書には、それ以上に、ドアスコープへの挿入から上記挟み付けに至る過程における作業の容易性に関する具体的な記載はない。これに対し、被告製品1・2は、フレーム部に溝やスリットが設けられ、ドアスコープからの挿入時にファイバースコープのケーブルに添わせて挿入できる形状を採っているもので、これにより、ファイバースコープとの併用がしやすく、ドアスコープへの挿入を経てアタッチメントによってプッシュボタンを押下するとの作業を容易にしている(弁論の全趣旨)といえるところ、この点は、本件発明に開示されていない構成である上、被告製品1・2の用途に照らして、その有用性も認められ、被告製品1・2独自の差別化要因となる機能ということができる。
・・・略・・・
以上のとおり、上記①の点に限っては、被告製品1・2が本件発明の技術的思想を利用しつつも、これとは別に差別化要因となる機能を有するものといえるから、この点は推定覆滅事由として相当程度考慮する。
(ウ)市場の競合品
業界大手との認識で双方当事者が一致する株式会社フキの販売する解錠器具(乙39)はカメラが予め付属している等の差異があるものの、ドアスコープを経由してプッシュボタン付きのサムターンの解錠を可能とする製品であり、被告製品1・2と同一用途の製品として、その競合品といえるもので、市場規模は証拠上明らかでないものの、推定覆滅事由として一定の考慮をすることが相当である。
なお、被告は、ポスト用オープナーも競合品となると主張するが、同製品はドアスコープから挿入するオープナー、解錠器具とは異なる用途、構成であることは被告自身も認めているところであり、これを競合品として推定覆滅事由とすることは相当ではない。
(エ)特許法102条2項の推定規定の趣旨を踏まえつつ、以上の諸事情を考慮し、本件においては50%の限度で損害額の推定が覆滅されると認めるのが相当である。』

[コメント]
本判決は、請求項の文言と明細書の記載を踏まえ、フレーム部の部材数、断面形状及び伸縮時期を実施形態に限定して解釈すること、中央部分をフレーム全体の物理的な中間地点に限定すること等を否定した。実施形態だけでなく、代替構成や変更可能な事項を明細書に具体的に記載しておくことの重要性を示す判断といえる。
損害論では、ドアスコープへの挿入後にフレーム部を伸縮できなくても、挿入前に長さを調整することで本件発明の作用効果を奏するため、この操作方法の相違は推定覆滅事由と認められなかった。他方、フレーム部の溝やスリットによりファイバースコープのケーブルに添わせて挿入できる構成は、解錠作業を容易にする独自の機能として評価された。さらに、同じくドアスコープ経由でプッシュボタン付きサムターンを解錠する競合品の存在も考慮され、これらの事情を総合して50%の推定覆滅が認められた。単に実施形態と構成が異なることではなく、その相違によって本件発明の効果とは別の利便性が得られることや、同一用途の製品が市場で競合していることが、損害額を減額する理由として評価された点が注目される。
以上
(担当弁理士:冨士川 雄)

令和5年(ワ)第9068号「ロック付摘みオープナー」事件

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