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平成24年(行ケ)10061号 「スルファメート」事件

名称:「スルファメート」事件
審判請求書却下決定取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成24年(行ケ)10061号 判決日:平成24年6月6日
判決:請求棄却
特許法第133条第1項及び第3項
キーワード:審判請求書の却下、上申書
[概要]
請求の理由の補充を要求する手続補正指令書に対し、指定期間内の提出の猶予を求めた上
申書を提出していたが、そのまま審判請求書が決定により却下されたその決定の取り消しを
求めた事案。
[裁判所の判断]
1.本件決定の違法性について
(1) 特許法133条3項に基づく請求書の却下決定に関する裁量について
審判長は,特許法131条1項に違反する請求書について,同法133条1項に基づく補
正命令により指定した相当の期間内に補正がされなかった場合,いかなる時期に同条3項に
基づく当該請求書を却下する決定をするかについての裁量権を有しており,当該決定は,具
体的事情に照らしてその裁量権の逸脱又は濫用があった場合に限り,違法と評価されるとい
うべきである。
(2) 本件決定の時期と裁量権の逸脱又は濫用の有無について
本件審判の担当審判書記官が,原告又は本件事務所に対し,手続補正書が提出されていな
い旨の通知(却下処分前通知)を郵送し,あるいは電話で手続続行の意思の有無を確認する
などしなかったことは,それ自体,拙速の感を免れず,上記「審判事務機械処理便覧」とい
う文書の記載及び特許庁内部におけるその余の上記運用との関係では相当性を欠くことが明
らかであったというほかない。しかしながら,本件決定に先立ってこれらの運用を経ていな
いとしても,特許庁のそのような対応とは別に,原告は,補正に必要な実験データを入手し
得る時期等及びその時点において更に期間の猶予を求める必要があるのであればその理由を,
いずれも進んで説明すべきであったというべきであって,特許庁から確認などを求められる
ことがなかったからといって,その確認などを求められるまで補正を命じられた期間を徒過
し得るわけではなく,そのことは,本件決定がその時期についての裁量権を逸脱又は濫用し
たとするに足りるものではない。
2.原告の主張について
(1) 取消事由1(信義誠実の原則違反)について
特許庁による拒絶査定不服審判の請求書の取扱いに関する運用は,いずれも特許法の委任
を受けて請求人との関係を規律する文書や同法に根拠を有する手続に基づくものではないか
ら,仮にそのような運用の積み重ねによって原告が本件請求書の取扱いについて何らかの期
待を抱いたとしても,そのような期待は,特許法の規定を離れて特許庁による事実上の便益
の供与の上に安住するものであって,法律上保護に値するものではない。
(2) 取消事由2(平等原則違反)について
特許庁による拒絶査定不服審判の請求書の取扱いに関する運用は,いずれも特許法の委任
を受けて請求人との関係を規律する文書や同法に根拠を有する手続に基づくものではないか
ら,このような運用に従わない取扱いがされたからといって,そのことは,原則として当不
当の問題を生ずるにとどまり,直ちに請求書の却下決定に関する時期についての裁量権の逸
脱又は濫用となるものではない。そして,本件決定に先立ってこれらの運用を経ていないと
しても,そのことは,本件決定がその時期についての裁量権を逸脱又は濫用したとするに足
りるものではないから,本件決定について平等原則違反が問題となる余地はない。
(3) 取消事由3(手続上の違法)について
却下処分前通知について記載した「審判事務機械処理便覧」という文書は,あくまでも事
務担当者の便益のために特許庁内部における事務処理の運用を書面化したものであるにすぎ
ず,特許法の委任を受けて請求人との関係を規律するものではないし,請求人に対する電話
による意思確認も,特許法に根拠を有する手続ではない。したがって,審判長は,請求書の
却下決定をするに先立って,請求人に対して却下処分前通知又は意思確認の手続をする義務
を負うものではない。
(4) 取消事由4(本件決定に至る判断過程の違法)について
請求人は,拒絶査定不服審判を請求し,さらに特許法133条1項に基づく補正命令によ
って,それに先立つ拒絶査定の判断を争う機会を与えられているのであって,事案によって
は具体的事情により当該補正命令により指定された期間内の補正が困難な場合があり得るこ
とは否定できないものの,このような場合,請求人は,当該具体的事情を説明するなどの手
段を容易にとることができ,それによって請求書の却下決定がその決定時期についての裁量
権を逸脱又は濫用したものと評価されるに至る場合もあり得るのであるから,同項所定の「相
当の期間」が実務上,30日と指定される運用がされているからといって,そのことから直
ちに,審判長が請求人に対して意思確認等をすべき義務を負うとは到底解することができな
い。

平成24年(行ケ)10061号 「スルファメート」事件

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