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平成24年(行ケ)第10016号「ポリウレタン硬質フォームを製造する方法」事件

名称:「ポリウレタン硬質フォームを製造する方法」事件
平成24年(行ケ)第10016号 審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第3部
判決日:平成24年10月11日
判決:審決取消
関連条文:特許法第36条第6項第1号
キーワード:サポート要件
[概要]
サポート要件違反とした特許庁の審決の取消を求めた事案。
[本件発明]
【請求項1】
発泡剤による発泡によってポリウレタン硬質フォームを製造する方法において,
発泡剤として,
a)5~50質量%未満の1,1,1,3,3-ペンタフルオルブタン(HFC-365mfc)
および
b)50質量%超の1,1,1,3,3-ペンタフルオルプロパン(HFC-245fa)
を含有するかまたは該a)およびb)から成る組成物を使用することを特徴とする,
ポリウレタン硬質フォームを製造する方法。
[争点]
サポート要件違反の判断の誤り
[裁判所の判断]
(1)本願明細書において,本願発明の課題は,選ばれた新規種類の好ましい発泡剤を用いてポ
リウレタン硬質発泡材料を製造するための方法を記載すること等であり(【0004】),その
課題解決手段として,発泡剤成分a)HFC-365mfcと組み合わせる発泡剤成分b)につ
いて,低沸点の脂肪族炭化水素等のうちでも,HFC-32,HFC-152a,HFC-13
4,HFC-134a,HFC-245fa,HFC―236ea,HFC-236fa,又は
HFC―227eaがひとまとまりの一定の発泡剤として記載されていること(【0006】),
本願発明の実施態様として,成分a)HFC-365mfc,及び成分b)HFC-134a,
HFC-245fa,HFC-236fa,又はHFC-227eaを使用すること,特に,C
O 2 を全く含有しない場合には,成分a)HFC-365mfcを50質量%未満,及び成分b)
HFC-134a,HFC-245fa,HFC-236fa,又はHFC-227eaを50
質量%超からなるものを使用すること(【0017】),本発明方法により得られるポリウレタ
ン硬質発泡材料の特殊な利点は,低温,多くの場合に約15度を下回る温度において,熱伝導率
が低く,熱遮断能を有すること,有利にHFC-365mfc及び上記の発泡剤の少なくとも1
つの他のものを使用して得ることができるポリウレタン硬質発泡材料は,約15度を下回る温度
範囲内での冷気に対して遮断するのに特に好適であること(【0027】),発泡剤として,H
FC-365mfcとHFC-152a,HFC-365mfcとHFC-32,HFC-36
5mfc,HFC-152a及びCO 2 を用いてポリウレタン硬質発泡材料を製造した実施例(【0
040】~【0046】)が記載されていると認められる。
(2)すなわち,本願明細書には,本願発明の課題は,選ばれた新規種類の好ましい発泡剤を用
いてポリウレタン硬質発泡材料を製造するための方法を記載すること等であり,特定の発泡剤,
すなわち,HFC-365mfcと一定の他の発泡剤との混合物を用いてポリウレタン硬質フォ
ームを製造するための方法により製造されたポリウレタン硬質フォームは,約15度を下回る温
度において,熱伝導率が低く,熱遮断能を有するという効果を有することが判明したこと,この
方法で用いる発泡剤組成物は,成分a)HFC-365mfcと成分b)低沸点の脂肪族炭化水
素等とを含むものであるが,有利な組合せの一つとして,本願発明で用いる発泡剤組成物である,
成分a)HFC-365mfc及び成分b)HFC-245faの組合せがあることが記載され
ているといえる。また,本願明細書には,本願発明で用いる発泡剤組成物を用いてポリウレタン
硬質フォームを製造したことを示す実施例は記載されていないものの,成分a)HFC-365
mfcと組み合わせる成分b)として,HFC-152a(例1a),HFC-32(例1b),
及びHFC-152aとCO 2 (例1c)を用いてポリウレタン硬質フォームを製造したことが,
具体的に開示されているといえる。
(3)そうすると,本願発明で用いる発泡剤の成分b)であるHFC-245faは,上記のと
おり,ひとまとまりの一定の発泡剤のひとつとして記載されている上,本願明細書の実施例で使
用された成分b)であるHFC-152aやHFC-32と同様に低沸点であり,技術的観点か
らすると化学構造及び理化学的性質が類似するといえることも併せ考慮すると,実施例1a)~
c)と同様にHFC-245faを使用することによりポリウレタン硬質フォームを製造する方
法が開示されていると解するのが相当である。
(4)以上のとおり,本願発明の課題及び課題解決手段,並びに,その効果が,本願明細書の発
明の詳細な説明に記載されたものと認めるべきである。
(5)これに対し,被告は,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明であるHFC-36
5mfcとHFC-245faとの組合せについて,その裏付けとなる実施例の記載がなく,H
FC-365mfcと組み合わせる対象として記載された多数の成分のうちからHFC-245
faを特に選択することや,発泡剤組成物中のHFC-365mfc及びHFC-245faの
各含有量を特定することについて,それらの関係を定性的に認識可能とする記載がない旨主張す
る。・・・成分b)としては,低沸点の脂肪族炭化水素等である具体的化合物が多数列挙され,
本願発明のHFC-245faは,ひとまとまりの一定の発泡剤の中で有利なものとして記載さ
れ,実施例においても,HFC-152aを用いた場合(例1a),HFC-32を用いた場合
(例1b),及びHFC-152a及びCO2を用いた場合(例1c)が記載されており,それ
らを同等に扱うことができないとする事情は見いだせないから,HFC-245faを用いた実
施例の記載がなくとも,これを成分b)として使用することができると解すべきである。そうす
ると,特許法36条6項1号の「サポート要件」の判断にあたっては,本願明細書において,成
分b)としてHFC-245faを選択することの技術的意味や作用効果について,更なる記載
を求めるべき理由はなく,また,成分b),特にHFC-245faが発泡剤として使用できる
と認識できない事情も見いだせないので,発泡の機構などに関して,更なる説明を求めるべき理
由もない。したがって,被告の上記主張は失当である。
[コメント]
一般的に化学分野においては、化合物の構造式などから発明の効果を類推することは困難である
ため実施例が必要とされているが、今回の判決では、請求項に記載された発明の実施例が存在し
なくてもサポート要件を満たすとの判断がなされた。本ケースにおいては、明細書中にHFC-
245faを含むいくつかの化合物が「ひとまとまり」として記載されていた点、クレームのH
FC-245faの化学的特性と、クレームされていない実施例記載のHFC-152a等との
化学的特性とが極めて近似している点等の特殊な事情によるものと思われる。従って、本ケース
は例外的なケースであり、化学分野における実務においては、従来通り、請求項に記載された発
明については実施例が存在するよう記載すべきである。
 

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