IP case studies判例研究
侵害訴訟等
「ピオグリタゾン」事件(「アクトス」事件)平成 23 年(ワ)7576 号
名称:「ピオグリタゾン」事件(「アクトス」事件)
特許権侵害差止等請求事件
大阪地裁:平成 23 年(ワ)7576 号 判決日:平成 24 年 9 月 27 日
判決:請求棄却
条文:特許法 101②、100ⅠⅡ、69Ⅲ、2Ⅲ①、123Ⅰ②、104の3Ⅰ
キーワード:組合せ特許、物の生産
[事案の概要]
武田薬品工業が、2 型糖尿病治療薬「アクトス」の後発医薬品を薬価収載・販売した製薬
会社 8 社に対して特許権侵害に基づき製造・販売差止を請求した事件である。
アクトスの物質特許は 2011 年 1 月に消滅しており、他の経口糖尿病治療薬との「組み合
わせてなる」医薬品の特許 2 件に基づき提訴していた。
[争点]
(1)争点 1:間接侵害の成否
(2)争点 2:直接侵害の成否
(3)争点 3:特許無効の抗弁の成否
[裁判所の判断]
1.争点1:間接侵害の成否
(1)「物の生産」の意義
『そうすると,法101条2号の「物の生産」についても,前記(イ)と同様に,「発明の構
成要件を充足しない物」を素材として「発明の構成要件のすべてを充足する物」を新たに作
り出す行為をいうものであり,素材の本来の用途に従って使用するにすぎない行為は含まれ
ないものと解される。このことは,法101条2号において「物の生産に用いる物」と規定
され,「その物の生産又は使用に用いる物」とは規定されていないことからも,明らかである
といわなければならない。』(p57-58)
(2)本件へのあてはめ
ア.はじめに
『なお,「組み合せる。」とは,一般に,「2つ以上のものを取り合わせてひとまとまりにする。」
ことをいい,「なる」とは,「無かったものが新たに形ができて現れる。」「別の物・状態にか
わる。」ことをいうものと解される。したがって,「組み合わせてなる」「医薬」とは,一般に,
「2つ以上の有効成分を取り合わせて,ひとまとまりにすることにより新しく作られた医薬
品」をいうものと解釈することができる。』(p59)
『被告ら各製品が,それ自体として完成された医薬品であり,これに何らかの手が加えら
れることは全く予定されておらず,他の医薬品と併用されるか否かはともかく,糖尿病又は
糖尿病性合併症の予防・治療用医薬としての用途に従って,そのまま使用(処方,服用)さ
れるものであることについては,当事者間で争いがない。
したがって,被告ら各製品を用いて,「物の生産」がされることはない。換言すれば,被告
ら各製品は,単に「使用」(処方,服用)されるものにすぎず,「物の生産に用いられるもの」
には当たらない。』(p59-60)
イ.医師による、医薬品の併用処方が「物の生産」に該当するか
『前記アのとおり,「組み合わせてなる」「医薬」とは,「2つ以上の有効成分を取り合わせ
てひとまとまりにすることにより,新しく作られた医薬品」をいうものと解されるところ,
併用されることにより医薬品として,ひとまとまりの「物」が新しく作出されるなどとはい
えない。
複数の医薬を単に併用(使用)することを内容(技術的範囲)とする発明は,「物の発明」
ではなく,「方法の発明」そのものであるといわざるを得ないところ,上記原告の主張は,前
記アのとおり,「物の発明」である本件各特許発明について,複数の医薬を単に併用(使用)
することを内容(技術的範囲)とする「方法の発明」であると主張するものにほかならず,
採用することができない。』(p60)
『このように,本件各特許発明が「ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩」
と本件併用医薬品とを併用すること(併用療法)を技術的範囲とするものであれば,医療行
為の内容それ自体を特許の対象とするものというほかなく,法29条1項柱書及び69条3
項により,本来,特許を受けることができないものを技術的範囲とするものということにな
る。』(p60)
2.争点2:直接侵害の成否
⇒「物の生産」、道具性、積極的教唆をいずれも否定 ⇒直接侵害を否定。
3.争点 3:特許無効の抗弁の成否
・作用機序の異なる薬剤併用では、通常、薬剤同士が拮抗することは考えにくい。
・本件発明は、併用薬剤がそれぞれの機序によって作用し、各効果が個々に発揮するにす
ぎない。相加的効果にとどまる。
⇒新規性、進歩性否定 ⇒ 特許が無効にされるべきものにあたると判断。
[コメント]
組合せ特許の効力の及ぶ範囲について判断した判決である。
医薬業界では先発単剤特許の期間満了後においても、併用薬特許に基づき後発医薬品企業
の単剤販売を牽制・阻止することが行われている。本事件でも収載・発売に踏み切って争っ
た 18 社(他関連事件含む)の他では、9 社(その他米国でも)が事前警告により和解して
いる。なお、アクトスの年間売り上げは国内だけでも 500 億円以上あるといわれている。
本判決の判断は現行法においては妥当と解される。しかしながら、治療方法の特許が認め
られていない日本では、物や方法の組合せにより優れた技術的意義を見出したとしても発明
として適切な保護が受けられない可能性があることが、これまでも指摘されている。一方、
US 法のように医療行為に対しても医師免責前提の川下規制による制度設計に変更すること
で、高度な医療技術開発や国内外での対価回収を促進しうるとの見解もある。
本事件原告の主張内容自体は現行法・実務からみて厳しいものとはいえるが、延長登録実
務同様に、本事件の上級審判断が法改正等への契機になるかもしれない。
「ピオグリタゾン」事件(「アクトス」事件)平成 23 年(ワ)7576 号
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