IP case studies判例研究

平成24年(行ケ)10318号「タッチスクリーン審決取消請求」事件

名称:「タッチスクリーン審決取消請求」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所 平成24年(行ケ)10318号
判決日:平成25年7月11日
判決:請求棄却(拒絶不服請求棄却:審決維持)
特許法29条2項
キーワード:容易想到性,審決時における新たな引例の提示
判決全文:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130712102402.pdf
[概要]
補正後の「圧力依存型視覚的フィードバックを備えるタッチスクリーン」に係る本件発明について『補
正発明は引用発明等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,独立特許要件を満たさな
い。・・本願発明は,補正前発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであ
る。』とした本件審決の判断が支持され、当該判断の誤りを主張した審決取消の請求が棄却された事例。
[特許請求の範囲](補正後:下線部)
〔請求項1〕
表示モニタを覆って配置される圧力感知タッチスクリーンを備えるデータ処理システムであって、前記モ
ニタが、ユーザの接触オブジェクトの寸法によって決定される前記タッチスクリーンとユーザとの接触領
域の登録により、前記タッチスクリーンによって登録される圧力の大きさに依存した視覚的表示を提供し、
前記表示が、前記接触領域の下にある、前記モニタにおける第1領域を中心とされるようにレンダリング
され、前記第1領域の第1寸法が前記接触領域の第2寸法よりも大きくなるように前記第1寸法が前記第
2寸法に依存して制御される、システム。
[取消事由]
(取消事由1)補正発明に係る進歩性の判断の誤り
(取消事由2)手続違背
(取消事由3)補正前発明に係る進歩性の判断の誤り
[裁判所の判断]
原告の請求は理由がない。よって,原告の請求を棄却する。
(1)取消事由1(補正発明に係る進歩性の判断の誤り)について
補正発明および引用発明を認定し、その対比において、原告の主張に対して以下の通り判断された。
(1-1)視覚的表示の提供について
「引用発明が指先のタッチ位置の検出前から既にアイコンが表示画面に表示されている点で、タッチス
クリーンによって登録される圧力の大きさに依存した視覚的表示を提供する補正発明と相違する」との原
告の主張について、本願明細書の記載から「補正発明は,接触領域の登録前において,何らかの視覚的表
示が提供される発明も想定している。新たな相違点を認定する必要はない。」と判断された。
(1-2)進歩性の判断に関する原告の主張について
原告の主張は、次の①~④のとおり整理することができる。
①引用例1に記載されたアイコンは,圧力の大きさに依存して徐々に変化するものではない。
②引用例1及び引用例2は,圧力の大きさに依存して徐々に変化する視覚的表示を,接触領域の寸法より
も大きくなるように制御することを開示するものではない。
③引用発明は,接触領域の登録により視覚的表示を提供する補正発明に想到する動機が存在しない。
④引用例1及び引用例2に接した当業者がこれらを組み合わせ得たとする動機も存在しない。
これに対して、以下の通り判断された。
①本願明細書には,圧力の大きさに依存して徐々に変化するものではない態様を含むものとして記載され
ており,原告の主張は前提を欠く。
②引用例1に記載されたアイコンは,ユーザがタッチしている状態で視覚的に認識可能な変化をするもの
であるから,接触領域以外の部分にも表示されることを前提とするものでもある。引用例2について「接
触面積に応じてスイッチのマークの長さ,表示間隔を変更することが記載されている」との認定は支持す
ることができる。

③上記(1-1)のように,補正発明は,視覚的表示を接触領域の登録によって初めて提供するものとは
いえないから,前提において失当である。
④引用例1及び引用例2はタッチパネルにタッチした場合の指などの接触オブジェクトと,タッチした領
域に表示されるアイコンやマークの表示態様の制御で一致するから,両者を組み合わせることに動機付け
が存在する。また、引用発明に、引用例2に記載された「接触面積に応じてスイッチのマークの長さ,表
示間隔を変更する」技術を組み合わせることにはその課題や目的に照らして十分に動機付けがある。
(1-3)取消事由1についてのまとめ
審決がした補正前発明の容易想到性判断に,原告主張の誤りはなく,この点の審決の認定判断は支持す
ることができる。
(2)取消事由2(手続違背)について
原告は、以下の2点を主張する。
①審決時における、審査時の引用文献2の取下げおよび新たな引用例2の引用により、従前の拒絶理由は
審尋に対する回答書で解消されている。
②法159条2項における「拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」
に該当し,新たな拒絶理由を通知しなければならないにもかかわらず,これに違反した手続違背がある。
これに対して、以下の通り判断された。
①審決時に引用例を追加したことをもって,引用例1に基づく拒絶理由解消が認められたことになるとの
原告の主張は,理由がない。
②拒絶査定は,「引用発明と格別相違しないか,容易に発明をすることができた」との趣旨であり,審決は
「引用発明に引用例2を適用することは容易になし得た」との趣旨のものである。両者の判断は骨子部分
で重なり合っているし,審決が適用した引用例2の技術は,引用例1において自明であるような当業者の
技術常識ともいえる事項であるから,改めて拒絶理由の通知をしなければ,請求人である原告の手続保障
が十分図れなかった事案であったということはできず,原告主張の手続違背は存しない。
(3)取消事由3(補正前発明に係る進歩性の判断の誤り)について
(3-1)原告の主張「引用例1のアイコンは,指先のタッチ位置の検出後に初めて提供されるものでは
なく,・・指先のタッチ位置を中心にレンダリングされるものでもない。」に対して,補正前発明は,視覚
的表示を接触領域の登録によって初めて提供するものとはいえないことはその構成から明らかである。原
告の主張は前提を欠き理由がないと判断された。
(3-2)原告の主張「審決は,タッチパネル入力装置において,タッチした領域のサイズに依存して画
面に表示されるアイコン,ボタン等のサイズを制御することが周知技術と認定したが,補正前発明の構成
は,そのような周知技術に該当しない」に対して、審決の認定である「補正前発明は,『前記第1領域の第
1寸法が前記第2領域の第2寸法よりも大きくなるように前記第1寸法が前記第2寸法に依存して制御さ
れる』のに対し,引用発明は,タッチした領域のサイズに依存してアイコン20の表示サイズを制御する
ことは記載されていない点である。」こと、そして,周知技術として認定したことに誤りはなく,当業者に
とって引用例1から補正前発明に到達することは容易であったといえる。
[コメント]
国際出願による特許出願に対する審査・審判での進歩性なしと判断された事件において、裁判所におい
ても厳しい判断がなされた事案である。また、主要引例にはないが周知技術に近いとされた「接触領域に
対応した画像表示の設定」技術について、審査における先行技術と異なる新たな引用文献が提示され、容
易想到であるとして進歩性なしと判断され、拒絶審決を受けた点について争点となった。特に、国際出願
による特許出願の場合には、補正内容や反論内容が限定される点が考慮する必要がある。実務的に、引用
発明あるいは引用例や周知例との組合せと本願発明の実質的な相違点を見極め、拒絶理由に対する反論・
反証を行うための参考としたい。

平成24年(行ケ)10318号「タッチスクリーン審決取消請求」事件

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