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平成24年(行ケ)10350号「満腹化剤としてのバルク剤」事件

名称:「満腹化剤としてのバルク剤」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成24年(行ケ)10350号 判決日:平成25年8月7日
判決:請求棄却(審決維持)
特許法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項
キーワード:特許請求の範囲の減縮
[本件補正前の請求項1の記載]
「哺乳動物の食欲抑制のための組成物であって、食物摂取抑制有効量のポリデキストロース
を含む組成物。」
[本件補正後の請求項1の記載]
「哺乳動物の食欲抑制のための組成物であって、哺乳動物の食欲抑制に有効な量のポリデキ
ストロースを含む組成物。」
[審決の内容]
「本願明細書には、食欲を抑制する場合と抑制しない場合とで食物摂取抑制有効量がどのよ
うに異なるのかについて何ら記載されていない。また、本願明細書の[0015]、[001
6]、[0034]の記載によれば、「食欲抑制に有効な量」は、「食物摂取抑制有効量」と何
ら異なるものではない。したがって、請求項1の特許請求の範囲は本件補正により減縮され
ていないから、本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当しない。
また、本件補正は、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しない。
[裁判所の判断]
本願補正発明の「食欲抑制に有効な量」と本願発明の「食物摂取抑制有効量」の意義は、
一義的に明確に理解することはできないため、本願明細書の記載を検討する。本願明細書に
は、「食欲抑制有効量」という用語について、「…上記の食欲抑制有効量で投与される。好ま
しい量はポリデキストロースについて既述した量である。」([0068])との記載はあるが、
食欲抑制有効量の具体的な数値については何ら記載されていない。
一方、本願明細書には、「食物摂取抑制有効量」に関して、以下の記載がある(下線は裁判
所が付した。以下同じ。)。
「[0015]したがって、本発明は、水素化ポリデキストロースを含むポリデキストロー
ス、又は、その組み合わせからなる群から選択される満腹化剤の食物摂取抑制有効量を、動
物、例えば哺乳動物の食事又は間食時における食物摂取を抑制するために、動物、例えば哺
乳動物に投与することを含む、動物の空腹抑制方法を指向するものである。・・・
[0016]また、本発明は、動物に満腹感を与える有効量で上記に定義される満腹化剤
を投与することを含む、動物の満腹化方法をも指向するものである。」
「[0034]・・・満腹化剤は食欲抑制を可能とする食物摂取抑制有効量で対象者に投与
される。・・・
[0035]ここで使用される「食物摂取抑制有効量」又はこの同義語は単独で又はポリ
オールの相乗有効量と組み合わされたポリデキストロース等の食物摂取を抑制するために投
与されるべき満腹化剤の量を称するものであり、体重1kg当たりの乾燥重量ベースである。
投与方向を考慮してそのような量を計算するには当業者の設計事項である。満腹化剤は約1
5から約700mg/kg/日、好ましくは約200から約450mg/kg/日の範囲の
量で投与されることが好ましい。かくして、満腹化剤は約1から約50g/日、好ましくは
約15から約30g/日の範囲の量で動物(例えばヒト)に投与されることが好ましい。」
上記によれば、本願補正発明における「食欲抑制に有効な量」とは、食物摂取を抑制する
ために投与されるポリデキストロース等から選択される満腹化剤の量であって、「食物摂取抑
制有効量」と何ら異なるものではないと認められる。
したがって、「食物摂取抑制有効量」を「哺乳動物の食欲抑制に有効な量」と補正する本件
補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当しない。
原告は、「食欲抑制」と「食物摂取抑制」が異なる概念であることは、本願の優先日(平成
13年4月9日)において、食物繊維分野における当業者の技術常識であった(甲15、1
6)として、食欲を抑制する場合と抑制しない場合とで食物摂取抑制有効量がどのように異
なるのかについて本願明細書に記載がなくても、優先日当時の当業者にとって、本願補正発
明の「哺乳動物の食欲抑制に有効な量」と本願発明の「食物摂取抑制有効量」が技術的な意
味の異なる量を意味することは明確であったと主張する。
また原告は、食物摂取量を抑制する原因は、例えば食物が食べにくいものであることや、
食物が対象者の嗜好性に合わないことといった、食欲の抑制以外の因子があり得ること、す
なわち、「食欲抑制」が「食物摂取抑制」より狭い範囲を示すことは当業者の技術常識であっ
たと主張する。
さらに原告は、現実にダイエットを行っている者において、食物摂取量は意図的に抑制さ
れているが、食欲は必ずしも抑制されていないように、「食物摂取抑制」には、食欲も抑制さ
れている場合と、食欲が抑制されていない場合の両方が含まれると主張する。
しかし、「食欲抑制」と「食物摂取抑制」が異なる概念であることが当業者の技術常識であ
ったとしても、当業者が本願明細書の記載に接した場合、本願補正発明における「食欲抑制
に有効な量」とは、食物摂取を抑制するために投与されるポリデキストロース等から選択さ
れる満腹化剤の量であって、「食物摂取抑制有効量」と異なるものではないと理解するものと
認められる。
[コメント]
「特許請求の範囲の減縮」に関し、審査基準第III部第III設4.3.1には以下の
記載がある。
「特許請求の範囲の拡張に該当するものは、特許請求の範囲の減縮に当たらないとして、括
弧書きの要件を満たすか否かを判断することなく第17条の2第5項第2号に該当しないも
のとする。なお、特許請求の範囲は、特許を受けようとする発明について記載した請求項の
集合したものであることから、「特許請求の範囲の減縮」についての判断は、基本的には、各
請求項について行うものとする。」
「特許請求の範囲の減縮に該当しない具体例:
①直列的に記載された発明特定事項の一部の削除
②択一的記載の要素の付加
③請求項数を増加する補正(下記(2)⑤に該当する場合を除く)」
「特許請求の範囲の減縮に該当する具体例:
①択一的記載の要素の削除
②発明特定事項の直列的付加
③上位概念から下位概念への変更」
特許請求の範囲の記載を拡張することなく、同義のものに補正する場合、審査基準からは
減縮に該当するか否か明確には読み取れないとも思われるが、本判決から、同義のものに補
正することは減縮に該当しないと判断されることがわかる。

平成24年(行ケ)10350号「満腹化剤としてのバルク剤」事件

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