IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
平成25年(行ケ)10205号「通気口用フィルター部材」事件
名称:「通気口用フィルター部材」事件
無効不成立審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 25 年(行ケ)10205 号 判決日:平成 26 年 3 月 27 日
判決:請求棄却(特許維持)
特許法36条、29条、29条の2
キーワード:記載要件、進歩性
[概要]
無効審判の不成立審決を受けた原告がその取消を求めたのに対し、請求棄却判決がなされ
た事案。
[本件発明]
幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの角形の通気口に合わせて切断し,切断し
た不織布の周囲を前記通気口に仮固定してこの通気口を不織布で直接覆って使用する通気口
用フイルター部材であって,
前記不織布として,一軸方向にのみ非伸縮性で,かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばし
た状態で仮固定して使用したとき,120~140%まで自由に伸びて縮み,難燃処理され
た合成樹脂繊維からなるものを使用し,
前記不織布を前記一軸方向とは直交する方向へ伸ばして,この不織布により前記通気口を覆
うことを可能としたことを特徴とする通気口用フイルター部材。
[審決が認定した一致点及び相違点]
1 甲1発明との一致点及び相違点
(ア) 一致点
「幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの通気口に合わせて切断し,通気口を不
織布で直接覆って使用する通気口用フィルター部材であって,前記不織布として,難燃性の
ものを使用し,この不織布により前記通気口を覆うことを可能とした通気口用フィルター部
材。」
(イ) 相違点1
本件発明ではレンジフードの通気口が角形であるのに対し,甲1発明は排気口(通気口)を
有するものの,その形状は不明である点。
(ウ) 相違点2
本件発明では,「不織布の周囲を前記通気口に仮固定してこの通気口を不織布で直接覆って使
用する」に当たり,「不織布として,一軸方向にのみ非伸縮性で,かつ該一軸方向とは直交す
る方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき,120~140%まで自由に伸びて縮み,
難燃処理された合成樹脂繊維からなるものを使用し,不織布を一軸方向とは直交する方向へ
伸ばして」「通気口を覆う」のに対して,甲1発明では,「不織布として,難燃性のものを使
用し」て排気口(通気口)を覆うものの,かかる事項を有していない点。
[争点]
(1) 記載要件についての認定・判断の誤り(取消事由1)
(2) 容易想到性の有無に係る引用発明認定及び対比判断の誤り(取消事由2)
(3) 特許法29条の2に関する判断の誤り(取消理由3)(省略)
[裁判所の判断]
2 取消事由1(記載要件についての認定・判断の誤り)について
(1)本件発明は,通気口全体を覆う通気用フイルターを比較的簡便に通気口に仮固定して取り
付けるために,不織布は120~140%まで自由に伸びて縮むものを使用するのであるか
ら,本件明細書の記載より,「120~140%まで自由に伸びて縮み」とは,当業者が想定
する通気口の大きさに,簡易固定具で取り付けた際に「120~140%まで自由に伸びて
縮」むことであると理解されるもので,簡易固定具や通気口の大きさについては,自ずから,
当業者が通常想定する一定範囲のものであると認められる。そうすると,「一軸方向にのみ非
伸縮性で,かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき,1
20~140%まで自由に伸びて縮」むような不織布についても,自ずから一定範囲のもの
に限定されるもので,かかる不織布を用いるとすることが,特許請求の範囲の記載において
不明確であって,特許法36条6項2号の要件を満たしていないとはいえない。また,当業
者において過度の試行錯誤を要するともいえず,本件明細書の記載が特許法36条4項1号
の要件を満たしていないとはいえない。
3 容易想到性の有無に係る引用発明認定及び対比判断の誤り(取消事由2)について
(1) 甲2について
甲2には,ポリエステルからなる繊維の方向が一方向性の不織布を換気扇のフィルタとして
用いることにより,フィルタの破れが生じず,繊維と同じ方向への延びがないか極少なくす
ることで,フィルタのたるみが生ずることがなく,よって送風羽根への当たりを避けられる
ことが記載されているといえる。しかし,甲2に記載されているフィルタの幅方向(フィル
タの繰り出し方向と直交する方向)についてみると,甲2に記載されているフィルタは,ロ
ールから回転させながら引出され,換気扇本体の前面がフィルタ10の新規な部分によって
覆われるものであるから,フィルタの幅方向については,引き伸ばすことなく,換気扇本体
の前面が覆われるものである。したがって,甲2に記載されているフィルタは,繊維の方向
と直交する方向に伸ばしたり,あるいは使用時に伸ばして換気扇の前面を覆う必要がないフ
ィルタであって,一軸方向のみに非伸縮性を有するものではない。
原告は,甲2に記載されたフィルタについて,本件明細書に記載の方法で製造されているの
であるから,本件発明の不織布と同じ物性(すなわち,一軸方向にのみ非伸縮)であると主
張する。確かに,ポリエステルの繊維を一方向に並べて不織布とすることが本件明細書の実
施例に記載され,また甲2の実施例にも同様の事項が記載されている。しかし,繊維の方向
と直交する方向の不織布の伸びについては,不織布を構成する繊維同士の結合の形態や結合
の強さによっても変わるものであるから,不織布を構成する繊維材料が同じであり,その並
べ方も同じであるからといって,繊維の方向と直交する方向の伸びまで同じであるとはいえ
ず,また,甲2発明は,フィルタの幅方向(フィルタの繰り出し方向と直交する方向)の伸
びを必要としないものであるから,原告の主張は失当である。
したがって,甲2発明を甲1発明に適用しても,相違点2に係る構成が得られるものではな
いから,そのような判断を示した審決に誤りはない。
[コメント]
本事案では、パラメータの測定方法の記載がなくても、通常想定される使用態様から一定
範囲に制限されることが導き出される場合は、明確性ないし実施可能要件を充足する可能性
が示されている。ただし、そのような救済が認められるのは稀であろうから、やはり測定方
法は明確に記載すべきである。
本願発明と類似の製法により得られた物が本願発明の特徴を有さないとの主張は、その特
徴に影響する製法上の相違点をメカニズムの点から子細に説明するとともに、本願発明の特
徴が引例では要求されていない(認識されていない)ことを説明することで、認められる可
能性がある。
平成25年(行ケ)10205号「通気口用フィルター部材」事件
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