IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
平成25年(行ケ)10277「ロウ付け用のアルミニウム合金製の帯材」事件
名称:「ロウ付け用のアルミニウム合金製の帯材」事件
拒絶審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第2部:
判決: 請求認容
特許法第29条第2項
キーワード:進歩性・用途
[概要]
引用発明(刊行物2に記載の発明)とは用途が異なる本願発明について、引用例(刊行物2)
の記載から当業者が容易に想到するものであることを理由に進歩性がない、とした拒絶審決の判
断が覆された事例
[特許請求の範囲]
管理された窒素の雰囲気下で無フラックスのろう付けによってろう付けされた部材を製造する
ための、重量パーセントで、少なくとも80%のアルミニウム、ならびに、Si<1.0% Fe
<1.0% Cu<1.0% Mn<2.0% Mg<3.0% Zn<6.0% Ti<0.3% Z
r<0.3% Cr<0.3% Hf<0.6% V<0.3% Ni<2.0% Co<2.0% I
n<0.3% Sn<0.3%、合計0.15%であるその他の元素それぞれ<0.05%、を含
む芯材用のアルミニウム合金製の帯材または板材における、0.01~0.5%のイットリウムの
使用。
[主な争点(取消事由)]
(1)審決で認定された相違点2の認識に誤りがあるか
審決において、相違点2は、「本願発明は、管理された窒素の雰囲気下でフラックスレスのろう
付けによってろう付けされた部材を製造するための芯材用のアルミニウム合金製の帯材又は板剤
であるのに対し、引用発明は真空雰囲気下でのろう付けによってろう付け部材を製造するための
芯材用アルミニウム合金製の帯材または板材である点」とされているが、相違点2は、本願発明
は、「・・・イットリウムの使用」とし、引用発明は、「エロージョンを抑制して真空雰囲気下で
のろう付けによってろう付け部材を製造するための芯材用アルミニウム合金製の帯材または板材
におけるイットリウムの使用である」(下線部が異なる部分)と認定されるべきである。
(2)審決で認定された相違点2の判断に誤りがあるか
(容易想到性)本願発明の課題は、フラックスを用いたろう付けのためにもちいられるものと同
じ装備を用いたフラックスレスでのろう付けを可能とすることであるのに対し、引用発明の課題
は、芯材へのエロージョンを抑制して、耐エロージョン特性に優れたアルミニウム合金ブレージ
ングシートを提供することであり、両者の課題は全く異なる。引用例(刊行物2:特開2000
-303132号)には、イットリウムが管理された窒素雰囲気下でのフラックスレスのろう付
けを可能にしたことの示唆はない。引用発明でのイットリウムはその使用が必須ではなく、エロ
ージョン抑制元素として好適でもなく、必ずしも芯材に含有される必要もない。イットリウムを
当業者が積極的に選択して芯材に含有させる動機付けはない。
(顕著な効果)本願発明は、イットリウムの使用によるろう付け性の改善という顕著な効果があ
るから、進歩性が肯定されるべきである。
[審決]
本願発明は、刊行物2の記載に基づき、特許法第29条2項により特許を受けることができな
いものである。
(相違点1)刊行物2には、その他元素に相当する不可避的不純物の含有量が規定されていない
点
(相違点2)本願発明は、管理された窒素の雰囲気下でフラックスレスのろう付けによってろう
付けされた部材を製造するための芯材用のアルミニウム合金製の帯材又は板材であるのに対し、
引用発明は、真空雰囲気下でのろう付けによってろう付け部材を製造するための芯材用アルミニ
ウム合金製の帯材または板材である点
相違点1については、JIS規格に基づいて、実質的な相違とは言えない。例え実質的なもの
であっても、JIS規格に基づいて、当業者が容易になし得ることである。
相違点2については、真空ろう付け法が窒素ガス雰囲気ろう付け法とともにフラックスレスろ
う付け法の一手法であることは、技術常識として古くから広く知られている。真空雰囲気下での
フラックスレスろう付け用の引用発明にかかる芯材用アルミニウム合金製の帯材または板材を、
管理された窒素雰囲気下でのフラックスレスろう付け用の芯材用アルミニウム合金製の帯材又は
板材として用いることは当業者が容易になし得ることである。
[裁判所の判断]
(取消事由1について)審決で認定された相違点2の認識には誤りはない。エロージョンの抑制
という発明の目的は認定に必要ない。イットリウムの使用に関しては、両発明の一致点として審
決が認定しており、再度相違点として挙げる必要はない。
(取消事由2について)刊行物2そのものには、管理された窒素雰囲気下でのロウ付けについて、
何らの記載も示唆もない。また、芯材用アルミニウム合金にイットリウムを含有させることによ
り、管理された窒素雰囲気下でのろう付けにおいて、改善されたろう付け性が得られることにつ
いて、何らの記載も示唆もない。本願出願時には、ろう付け法ごとに、それぞれ特定の組成を持
ったろう材や芯材が使用されることが既に技術常識となっており、ろう付け法の違いを超えて相
互にろう材や芯材を容易に利用できるという技術的知見は認められない。従って、真空雰囲気下
でのろう付け法である引用発明において、芯材用アルミニウム合金にイットリウムを含有させる
ことにより、ろう付けの差異に生じるエロージョンを抑制することができるものであるとしても、
管理された窒素雰囲気下でのろう付け法において、改善されたろう付け性が得られるかどうかは、
試行錯誤なしに当然に導きだせる結論ではない。従って、相違点2に係る構成を当業者が容易に
想到し得たとは言えず、この点に関する審決の判断は誤りである。
[コメント]
特許庁は、本願発明は、イットリウムの用途発明には該当しない、としながら、芯材用アルミ
ニウム合金製の帯材または板材についての用途を区別して、真空ろう付け法から窒素ガス雰囲気
ろう付け法(フラックスレス)への用途変更について、適宜置換可能で容易想到としている。裁
判所では、引用例にイットリウムについての用途についての示唆があるかどうかという点で、そ
の用途の違いは容易に想到しない、と判断している。
平成25年(行ケ)10277「ロウ付け用のアルミニウム合金製の帯材」事件
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