IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
平成26年(行ケ)10204号「経皮吸収製剤、経皮吸収製剤保持シート、及び経皮吸収製剤保持用具」事件
名称:「経皮吸収製剤、経皮吸収製剤保持シート、及び経皮吸収製剤保持用具」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 26 年(行ケ)10204 号 判決日:平成 27 年 3 月 11 日
判決:請求認容(審決取消)
特許法第134条の2第1項
キーワード:訂正、除くクレーム
[概要]
原告は、発明の名称を「経皮吸収製剤、経皮吸収製剤保持シート、及び経皮吸収製剤保持
用具」とする被告の特許について無効審判を請求したところ、特許庁が請求不成立の審決を
したことから、その取消しを求めた。
[本件訂正発明(下線部は訂正箇所)]
水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、該基剤に保持された目的物質とを
有し、皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって、
前記高分子物質は、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、グリコーゲン、デキ
ストラン、キトサン、プルラン、血清アルブミン、血清α酸性糖タンパク質、及びカルボキ
シビニルポリマーからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質(但し、デキストランのみ
からなる物質は除く)であり、
尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状
態で押圧されることにより皮膚に挿入される、経皮吸収製剤(但し、目的物質が医療用針内
に設けられたチャンバに封止されるか、あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持
されている経皮吸収製剤、及び経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持
用具の貫通孔の中に収納され、該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押出される
ことにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤を除く)。
[争点]
本件訂正が、特許請求の範囲の減縮(特許法第134条の2第1項ただし書1号)を目的
とするものか否か。
[本件訂正に関する審決の理由]
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「皮膚に挿入される、経皮吸収製剤」とあるのを「皮
膚に挿入される、経皮吸収製剤(但し、・・・及び経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する
経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され、該貫通孔に沿って移動可能に保持された状
態から押出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤を除く)とする訂正(以下「訂
正事項3」という。)は、訂正前の請求項1に記載の「経皮吸収製剤」から「経皮吸収製剤を
収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され、該貫通孔に沿っ
て移動可能に保持された状態から押出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤」を
除くものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法134条の2第1項ただし書
1号に掲げる事項を目的とするものである。
[原告の主張]
本件発明は、「経皮吸収製剤」という物の発明であるから、訂正事項3が特許請求の範囲の
減縮に該当するというためには、訂正前の特許請求の範囲から、一定の構成・態様の経皮吸
収製剤を除外するものでなければならない。しかるに、訂正事項3は、経皮吸収製剤という
医療用針の使用方法を限定したものにすぎず、一定の構成・態様の経皮吸収製剤を除外する
ものではない。したがって、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮には該当しない。
[裁判所の判断]
(前略)・・・訂正が特許請求の範囲の減縮(1号)を目的とするものということができる
ためには、訂正前後の特許請求の範囲の広狭を論じる前提として、訂正前後の特許請求の範
囲の記載がそれぞれ技術的に明確であることが必要であるというべきである。
・・・(中略)・・・
本件発明は、「経皮吸収製剤」という物の発明であるから、本件訂正発明も、「経皮吸収製
剤」という物の発明として技術的に明確であることが必要であり、そのためには、訂正事項
3によって除かれる「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫
通孔の中に収納され、該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることに
より皮膚に挿入される経皮吸収製剤」も、「経皮吸収製剤」という物として技術的に明確であ
ること、言い換えれば、「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の
貫通孔の中に収納され、該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されること
により皮膚に挿入される」という使用態様が、経皮吸収製剤の形状、構造、組成、物性等に
より経皮吸収製剤自体を特定するものであることが必要というべきである。
しかし、「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に
収納され、該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に
挿入される」という使用態様によっても、経皮吸収製剤保持用具の構造が変われば、それに
応じて経皮吸収製剤の形状や構造も変わり得るものである。また、「経皮吸収製剤を収納可能
な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され、該貫通孔に沿って移動可
能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される」という使用態様による
か否かによって、経皮吸収製剤自体の組成や物性が決まるというものでもない。
したがって、上記の「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の
貫通孔の中に収納され、該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されること
により皮膚に挿入される」という使用態様は、経皮吸収製剤の形状、構造、組成、物性等に
より経皮吸収製剤自体を特定するものとはいえない。
以上のとおり、訂正事項3によって除かれる「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する
経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され、該貫通孔に沿って移動可能に保持された状
態から押し出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤」は、「経皮吸収製剤」という
物として技術的に明確であるとはいえない。
そうすると、訂正事項3による訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、技術的に明
確であるとはいえないから、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認
められない。
[コメント]
訂正事項3は、経皮吸収製剤の使用態様を特定するものであって、経皮吸収製剤自体を特
定するものではないことから、本件訂正発明が「経皮吸収製剤」という物として技術的に明
確であるとはいえないとして、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められなかった。
ただし、このように物の使用態様を除く場合であっても、それが物自体を特定するものと認
められる場合には、物として技術的に明確であるといえるため、使用態様による「除くクレ
ーム」が認められないとは一概にいえない。この点は事案ごとに検討することになろう。
また、本件は訂正の場面であったため、特許法第134条の2第1項ただし書の事項を目
的とするか否かが問題になった。これに対し、通常の補正の場面では、その目的が制約され
ないものの、本件の訂正事項3のような「除くクレーム」とする補正を行った場合には、物
として技術的に明確でないとして、特許法第36条第6項第2号違反などの問題を生じる恐
れがあるものと考える。
平成26年(行ケ)10204号「経皮吸収製剤、経皮吸収製剤保持シート、及び経皮吸収製剤保持用具」事件
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