IP case studies判例研究

平成26年(ワ)7856号「移動体の運行管理方法」事件

名称:「移動体の運行管理方法」事件
特許権侵害差止等請求事件
東京地方裁判所民事部第46部:平成 26 年(ワ)7856 号 判決日:平成 27 年 2 月 24 日
判決:棄却
キーワード:特許法70条、文言解釈(IT用語:記録領域、ファイル)
[概要]
被告機器及び被告運行管理方法は、CFカードの記録領域は物理的に区別されておらず、本件
特許発明の「第1記録領域」及び「第2記録領域」を有していない(技術的範囲に属さない)と
判断された事例。
[特許請求の範囲](請求項4)**(マーカー部分は争点)
1A 管理対象となる移動体の運行状況を計測するセンサと,バッファと,当該移動体を運転す
る運転者用に個性化された所定の不揮発性の記録媒体を離脱自在に装着する媒体装着機構と,前
記センサ,前記バッファ及び前記媒体装着機構に装着された記録媒体の動作を制御する制御装置
とを備え,
1B 該制御装置は,
前記移動体の移動に伴って前記センサから出力される計測データを前記バッファにエンドレスに
展開するデータ展開手段と,
1C 前記記録媒体に解析目的に応じて定められ,かつ,任意に書き換えが可能な当該移動体の
挙動の特徴である一般挙動特徴を表す一般挙動条件,及び,前記一般挙動特徴から逸脱した前記
挙動の特徴である特定挙動特徴を表す特定挙動条件と前記バッファに展開されている計測データ
とを比較して,前記一般挙動条件を満たす計測データを第1データ,前記特定挙動条件を満たす
計測データを第2データとして出力するとともに,所定の終了条件を満たすかどうかを判定する
判定手段と,
1D 前記第1データを前記終了条件を満たすまで前記記録媒体の第1記録領域に書き込み,前
記第2データを前記終了条件を満たすまで前記記録媒体の第2記録領域に書き込むデータ書込手
段とを有することを特徴とする,
1E データレコーダ。
(請求項1は対象が「移動体の運行管理方法」で争点は同じ)
[争点]
・被告機器及び被告運行管理方法がそれぞれ構成要件1C及び2Dの「第2データ」に相当する
構成を有しているか。
・被告機器及び被告運行管理方法がそれぞれ構成要件1D並びに2C及び2Dの「第1記録領域」
及び「第2記録領域」に相当する構成を有しているか。
その他の争点は省略
(原告の主張)
被告機器は,「トリガ判定閾値」と「事故判定閾値」という異なる閾値を用いて,前者に適合す
る加速度データを「第1データ」,後者に適合する加速度データを「第2データ」として記録媒体
に書き込む。
「第1データ」を書き込むための領域であるファイルが「第1記録領域」に,「第2データ」を
書き込むための領域であるファイルが「第2記録領域」に該当する。トリガ判定閾値を超えた加
速度データを記録する「ファイル」と事故判定閾値を超えた加速度データを記録する「ファイル」
は,互いに区別されて書き込まれる。
(被告主張)
t0時点で「トリガ判定閾値を超えた加速度を検出したことを条件」にt0前後30秒間の加
速度データ等が出力され,CFカードのデータ記録領域に書き込まれる。これに対し,「事故判定
閾値を超える加速度の検出」は,上記t0前後30秒間の加速度データ等を「上書き不能なファ
イルにする条件」であり,「事故判定閾値を超える加速度データ等を出力し,書き込む条件」では
ない。・・・「第2データ」に相当する構成は存在しない。
「第1記録領域」及び「第2記録領域」は,1個の記録媒体につきいわゆるメモリ分割(パー
ティション処理)がされて成るものとしか,当業者は理解できない。
[裁判所の判断]
(1)「第1記録領域」及び「第2記録領域」の解釈について
特許請求の範囲の「記録媒体の第1記録領域」及び「記録媒体の第2記録領域」との記載によ
れば,第1記録領域及び第2記録領域は,記録媒体が有する記録領域全体のうちそれぞれ一部分
を占める領域であり,相互に区別されて存在するものであることが明らかである。また,「第1デ
ータを・・・第1記録領域に書き込み」,「第2データを・・・第2記録領域に書き込む」との記
載によれば,データを書き込む際には,それが第1データであるか第2データであるかに応じて,
記録領域全体のうちどの領域に書き込まれるのかが定まっているとみることができる。
第1記録領域及び第2記録領域は,記録媒体の記録領域を物理的に区分して形成された別個の
領域であると解するのが相当である。
(2)被告機器及び被告運行管理方法について
被告機器・・・は、センサから出力され,一次記録領域に記録された加速度データを,トリガ
判定閾値を超えるなどの条件を満たすデータ(原告が第1データに当たると主張するもの。以下
「甲データ」という。)であるか,事故判定閾値を超えるなどの条件を満たすデータ(原告が第2
データに当たると主張するもの。以下「乙データ」という。)であるかに応じて,記録媒体(CF
カード)に形成された別個のファイルに記録するとされている。
原告の認めるとおり,CFカードの記録領域は物理的に区分されておらず,甲データ又は乙デ
ータに対応するファイルが記録領域全体のうちどの部分に形成されるかは書き込みをする際に定
まるというのであるから,CFカード中の空き領域には甲データ及び乙データのいずれもが書き
込まれ得るということができる。
以上によれば,被告機器及び被告運行管理方法は本件各特許発明の「第1記録領域」及び「第
2記録領域」に相当する構成を有していないと判断するのが相当である。
(3)「ファイル」と「記録領域」について
「ファイル」の語が原告主張の意味で用いられることは確かであり,データが書き込まれた,
又は書き込まれるべき一定の記録領域を「ファイル」と呼ぶことがあると認められる。しかし,
ファイルには「ひとまとまりのデータ」という意味もあり,後者であるとすれば,ファイルは,
本件各特許発明における「記録領域」ではなく,これに書き込まれる「データ」に相当すること
になる。そうすると,本件各特許発明に接した当業者であれば当然に「ファイル」が特許請求の
範囲にいう「記録領域」に該当すると認識すると認めることはできない。
技術的意義との関係では,2種類のデータを第1記録領域と第2記録領域に分けて記録するか
(本件各特許発明),別個のファイルに記録するか(被告機器及び被告運行管理方法)に実質的な
相違はないとみることが可能である。しかし,本件各特許発明は,課題解決のための手段として
記録領域を分ける構成を採用したものであるから,これと異なる構成について,技術的意義が共
通することを根拠に,特許請求の範囲に記載された構成要件を文言上充足するといえない
[コメント]
被告はフラッシュメモリはメモリ分割はできないと主張し、一方、本件特許明細書には記録媒
体の例としてフラッシュメモリを例示している。ネットで調べてみると、どうやらできそうであ
る。IT分野には専門用語が多数あり、また技術レベルも日々進化しているので用語の内容も変
化を伴うと考えられる。明細書作成時にはIT用語の正確な理解が必要である。
特許請求の範囲の記載にあたり、「記憶領域」や「ファイル」という用語は極力使用しない方が
よい。「記憶領域」はハードウェアの構成に拘束されるおそれが高く、「ファイル」は「ひとまと
まりのデータ」という概念を意味する曖昧な用語であり、外縁を特定するためのクレームに用い
るのにふさわしいとはいえないからである。
本件特許発明の場合、第1データと第2データを識別可能に前記記録媒体に書き込む、という
程度の記載にすればよかったのではないか。

平成26年(ワ)7856号「移動体の運行管理方法」事件

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