IP case studies判例研究

平成27年(行ケ)10200号「プレススルーパックの蓋用包装用シート」事件

名称:「プレススルーパックの蓋用包装用シート」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成27年(行ケ)10200号 判決日:平成28年7月27日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:相違点の認定、相違点の判断
[概要]
本件発明の効果を意識するか否かにかかわらず、主引用発明に副引用発明を適用すれば、結果として本件発明の効果が得られるため、主引用発明に副引用発明を適用することは容易であるという理由により、本件発明の進歩性を否定した審決が維持された事例。
[事件の経緯]
原告は、特許第5154906号の特許権者である。
被告が、当該特許の請求項1~8に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2014-800070号)を請求し、原告が訂正を請求したところ、特許庁が、当該特許を無効とする審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。
[本件発明]
【請求項1】(下線は訂正箇所を示し、文中の「/」は原文の改行箇所を示す。)
調質が硬質材であるアルミニウム箔と、/前記アルミニウム箔の少なくとも一方の面への塗布層である、透明ないし半透明の下地層と、/前記下地層上に設けた白着色層と、/前記白着色層上に位置するバーコード部(ただし、レーザ発色層にレーザを照射することにより描画されるバーコード部を除く。)と、を備えるシートであって、前記バーコード部のバーコードサイズが公称0.169mm/モジュールである場合においてバーコード検証機で10回スキャンしたときのANSI規格で定められている総合評価がAであるシートを、前記バーコード部を市販のバーコードリーダーにより読み取るプレススルーパックの蓋に用いることを特徴とする、/プレススルーパックの蓋用包装用シート。
[審決]
本件発明1は、引用発明1、引用例3及び4に記載された事項並びに周知技術に基づいて、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断した。
本件発明1と引用発明1との相違点として、以下の相違点1および相違点Aを認定した。
相違点1:印刷表示について、本件発明1は「市販のバーコードリーダーにより読み取る」「バーコード部」であり、「バーコード部のバーコードサイズが公称0.169mm/モジュールである場合においてバーコード検証機で10回スキャンしたときのANSI規格で定められている総合評価がA」であるが、引用発明1は「商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等」である点。
相違点A:下地層について、本件発明1は「透明の」と特定されているが、引用発明1は明らかでない点。
[取消事由]
1.本件発明1の引用発明1に基づく容易想到性判断の誤り
2.本件発明1の引用発明2に基づく容易想到性判断の誤り
3.本件発明2ないし8の容易想到性判断の誤り
※以下、取消事由1についてのみ記載する。
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
取消事由1(本件発明1の引用発明1に基づく容易想到性判断の誤り)について
『(2)相違点1について
・・・(略)・・・
(ア)引用発明1は、前記(1)のとおり、医薬品等の錠剤の包装体に使用されるPTP用蓋材に関するものであり、従来のPTP用蓋材は、アルミニウム箔の地色を生かした構成となっていることが影響し、アルミニウム箔表面における光の反射により、アルミニウム箔に施されたマークや文字等の印刷を見づらくしているという問題があったことから、蓋材であるアルミニウム箔の表面の光の反射をなくして、アルミニウム箔に施された商品名や内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷を際立たせて、視認性を高めるPTP用蓋材を提供することを目的とし、かかる課題を解決する手段として、アルミニウム箔面に印刷層の下塗りとして、一色の塗工層を施すという構成を採用し、これにより、商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷を際立たせ、視認性を高めるものであり、塗工層に使用する着色顔料としては、基本的に白色を用いることが予定されているものである。
他方、引用例3及び4には、前記アのとおり、①医薬品の取り違えによる事故防止及び医薬品のトレーサビリティーの確保の観点から、厚生労働省により本件通知が発せられ、医療用医薬品へのバーコード表示が求められるようになったこと、②PTPアルミニウム箔の金属光沢面は鏡面反射になっていることから、PTPアルミニウム箔にバーコード印刷しても読み取りは困難であり、これを解消するために、アルミニウム箔の金属光沢面に白色のベタ印刷を行い、その上にバーコードを重ね刷りすることが記載されている。そして、「市販のバーコードリーダーにより読み取」ることのできる「バーコード部」(バーコード表示)は、本件特許の出願日前に周知の技術である。
そうすると、医療用医薬品の包装体に使用されるPTP用蓋材の分野の当業者であれば、アルミニウム箔面に印刷層の下塗りとして白色の塗工層を備える引用発明1において、周知のバーコード表示の実施を試みることは、当業者が当然に検討すべき事項であるということができる。
そして、引用発明1において、従来から存在する目視用の「商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等」の表示に加え、バーコード表示を付加しようとすれば(引用例3及び4においても、マークや文字等の表示に加えバーコード表示を実施する例が記載されている。)、バーコード表示のためのスペースは限られたものとならざるを得ないことが普通に想定される。したがって、当業者において、バーコード表示のサイズは、その機能を担保しうる限り、バーコード表示のためのスペースに応じて、適宜選択される設計的事項であるということができるところ、医療用医薬品に使用されるバーコードとして、「公称0.169mm/モジュール」であるバーコードサイズは、当業者にとって従来周知の技術である(引用例4、甲24)。
さらに、バーコードを読み取りやすいものとすることは当然のことであり、バーコードリーダーで、付与されたバーコードを正確に読み取ることのできる限りにおいて、バーコードの読み取りの精度をどの程度のものとするかは、当業者が適宜設定する事項であるから、引用発明1において、「公称0.169mm/モジュール」のバーコード表示を試みる際、そのバーコード表示を、「バーコード検証機で10回スキャンしたときのANSI規格で定められている総合評価」において、最高品質である「A」のものとすることは、設計的事項にすぎないということができる。
(イ)そして、本件発明1は、前記1(2)のとおり、アルミニウム箔上に透明ないし半透明の下地層を、下地層上に白着色層を、白着色層上にバーコードを含む印刷層を設ける層構造を採用することにより、バーコードの読み取り性能を高めるものであるところ、引用発明1も後記のとおり本件発明1と同様の「透明な下地層」を設けた層構造を有しているから、当業者において「透明な下地層」の効果を意識するか否かにかかわらず、引用発明1にバーコード表示を実施すれば、結果として、本件発明1と同様に、バーコードの読み取りに関して高い読み取り性能を得ることができるものである。
(ウ)以上によれば、引用発明1において、引用例3及び4に記載された事項を踏まえ、相違点1に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到することができたことである。
(3)相違点Aについて
・・・(略)・・・
引用発明1の下地層(プライマー層)について、引用例1には、「プライマー層としては、例えば、塩化ビニル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、エステル系樹脂等の一種ないしそれ以上のビヒクルに所望の添加剤を任意に加えて充分に混練してなる樹脂組成物」によるものであることが記載されている(【0013】)。
そして、塩化ビニル系樹脂やエポキシ系樹脂がいずれも「透明」であること、例示される「ニトロセルロース系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂」、「メラミン系樹脂」も「透明」であることは、前記アのとおり、従来から周知の技術事項である。
そうすると、引用発明1の下地層は「透明」であると理解されるから、相違点Aは、実質的な相違点とはいえない。』
[コメント]
審決では、本件発明1と引用発明1との相違点として、相違点1および相違点Aが認定された。
これに対し、本判決では、引用発明1には、本件発明1の「透明な下地層」に相当する「透明なプライマー層」が実質的に記載され、相違点Aは実質的な相違点ではないと判断された。引用例1にプライマー層として例示された樹脂組成物がいずれも「透明」であることは周知であるため、この判断は妥当であろう。
また、本判決では、引用発明1は「透明な下地層」(相違点A)を設けた層構造を有しているから、「透明な下地層」の効果を意識するか否かにかかわらず、引用発明1に引用例3及び4に記載された事項を適用すれば、結果として「透明な下地層」の効果が得られると判断された。その結果、引用発明1において、引用例3及び4に記載された事項を踏まえ、相違点1に係る構成を備えるようにすることは容易想到であると判断された。上記のように相違点Aは実質的な相違点ではないため、相違点Aに関わる効果が相違点1に係る判断に影響を与えないとした判断は妥当である。
以上
(担当弁理士:吉田 秀幸)

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