IP case studies判例研究

平成27年(ワ)第5578号商標「ZOLLANVARI」絨毯の並行輸入事件

称:「ZOLLANVARI」事件
商標権侵害差止等請求事件
大阪地方裁判所:平成27年(ワ)第5578号 判決日:平成28年12月15日
判決:請求棄却
条文:並行輸入、商標の機能、商標法第1条
[事案の概要]
ZOLLANVARI社(「ゾ社」)の製品である被告商品と原告商品の品質に実質的な違いが認められないこと、原告はゾ社の権限授与を受けて原告商標の登録を得ることができたにすぎず、原告とゾ社は同視でき、被告標章は、原告商標と同一の出所を表示するものといえるから、外形的に原告商標権の侵害行為に該当するとしても、実質的違法性を欠くと判断された事例。
[原告商標権]
商標登録第5385564号

[原告商標権取得の経緯]
(ア)原告は、平成22年6月28日、原告商標につき登録出願したところ、特許庁審査官から、原告商標は、動物の図形と「ZOLLANVARI」の文字よりなるところ、ゾ社が商品「敷物」に使用し、原告商標の登録出願前から取引者、需要者に広く認識されている商標「ZOLLANVARI」と同一又は類似であり、かつ同一又は類似の商品に使用するものであり、商標法4条1項10号に該当することを理由に、同年9月29日付けで拒絶理由通知がなされた。
(イ)原告は、同年11月8日付けで、特許庁審査官に対し、原告商標の登録につきゾ社の同意を得る手続を進めていることを理由に猶予を求めた。
(ウ)その後、原告は、原告が日本国におけるゾ社の総代理店であること、及び原告が原告商標を日本国において使用し、かつ当該商標を日本国において登録出願をする権限を有することについてのゾ社代表者作成の証明書を取得し、同年11月25日、これを添付した手続補正書を特許庁に提出した。
(エ)特許庁審査官は、平成23年1月4日、原告商標の登録査定をし、同月21日、原告商標の登録がなされた。
[争点]
1.被告標章使用行為が真正品の並行輸入として商標権侵害の実質的違法性を欠くといえるか。
2.原告に生じた損害
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『商標権者以外の者が、我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき、その登録商標と同一又は類似の商標を付されたものを輸入する行為、あるいは付されていないけれども、我が国内における販売に当たり、その宣伝広告に当該商標を使用する行為は、外形的には商標権侵害行為となるが、商標法が「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」(商標法1条)ものであることからすると、上記のような場合であっても、商標の機能である出所表示機能及び品質保証機能を害することがなく、商標の使用をする者の業務上の信用及び需要者の利益を損なわないのなら、実質的に違法性がないというべきである。
そして、そのような観点からすると、商標を付されたものを輸入した場合については、①当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり、②当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって、③当該商品と我が国の商標権者が扱う登録商標を付した商品とが品質において実質的に差異がないと評価される場合には、商標権侵害としての実質的違法性を欠くと解すべきであり、また、その宣伝広告に当たり商標を使用する行為についても、商標が付されている商品である場合のみならず、商標が付されていない商品であっても、外国の商標権者が、当該商品を我が国において当該商標権者の商品として販売することを許容していた場合においては、これに上記②、③の要件が加わるのなら、やはり同様に商標権侵害としての実質的違法性を欠くと解するべきである。』
『被告商品は、全てゾ社の製品であってゾ社が関与して日本国内に輸入されているものであること、そのうち被告標章1が記載された被告タグはゾ社によって付されたものであること、その商品の品質はゾ社の総代理店である原告が取り扱う原告商品と異なるところはないと認められる。
そして原告は、ゾ社の日本における総代理店であり、ゾ社の権限授与を受けて原告商標の登録を得ることができたにすぎないものであって、原告とゾ社を同視でき、原告商標と被告標章1が同一の出所を表示するものといえることを併せ考えると、被告標章1が付された被告商品を販売する行為は、商標の持つ出所表示機能及び品質保証機能を何ら害するところがないし、商標の使用をする者の業務上の信用及び需要者の利益を損なうことはないということができるから、外形的に商標権侵害行為に該当するとしても、実質的違法性を欠くということができる。
(7) 次いで被告標章1ないし同3を被告ウェブサイトで使用する行為の実質的違法性の点について検討すると、原告の主張は、被告が販売している商品がゾ社の製品ではないこと、少なくともそのような製品を含んでいる可能性を前提として、ゾ社の製品でないものを販売するに当たり、ウェブサイトにおける被告商品の紹介の部分で被告標章1ないし同3を使用する被告の行為が、原告商標権の出所識別機能を害するものであり、商標権侵害に当たるというものである。
しかし、上記認定のとおり、被告がゾ社製品として販売している商品には、ゾ社が付したことを原告も認めているタグが付されているのであって、被告は、このタグの番号で管理されていることをゾ社製品の証明であるとウェブサイト上で説明している(甲9の4・6枚目)くらいであるから、それ以外のじゅうたん類をゾ社の製品として販売しているものとは考えられず、したがって、原告の主張は、その前提となる事実関係が認められないということになる。
そして以上に加え、ゾ社の製品である被告商品と原告商品の品質に実質的な違いが認められないこと、また原告は、ゾ社の日本における総代理店であり、ゾ社の権限授与を受けて原告商標の登録を得ることができたにすぎないものであって、原告とゾ社は同視でき、被告標章1のみならず被告標章2及び同3も原告商標と同一の出所を表示するものといえるから、上記ウェブサイトにおける宣伝広告対象となる商品が、被告標章1が記載された被告タグを付された被告商品である場合はもとより、被告標章1ないし同3が全く付されていない被告商品の場合であっても、これら商品の販売広告に当たり、これら商品がゾ社製品であることを示すために被告標章1ないし同3を別紙目録1ないし同4に認められるような態様の限度で使用する行為は、商標の持つ出所表示機能及び品質保証機能を害するものではなく、商標の使用をする者の業務上の信用及び需要者の利益を損なうこともないから、外形的に原告商標権の侵害行為に該当するとしても、やはり実質的違法性を欠くというべきである。』
[コメント]
本判決では、被告の行為は、外形的に原告商標権の侵害行為に該当するとしても、実質的違法性を欠くと判断された。
この点、並行輸入の要件の一つの『②当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって』について、本件商標権の権利者の名義が、形式的には、相違するところ、商標権の取得の経緯に着目してZOLLANVARI社と原告とが同視できると判断を行った点が参考になる。
以上
(担当弁理士:石川 克司)

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