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令和4年(ワ)第10071号「茶枝葉の移送方法並びにその移送装置並びにこれを具えた茶刈機」事件

名称:「茶枝葉の移送方法並びにその移送装置並びにこれを具えた茶刈機」事件
損害賠償請求控訴事件
知的財産高等裁判所:令和4年(ワ)第10071号 判決日:令和5年1月30日
判決:控訴棄却
特許法70条
キーワード:文言侵害、均等侵害
判決文:https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/737/091737_hanrei.pdf

[概要]
圧力風の作用に加えて回転ブラシの回転作用が加わる被告(被控訴人)製品について、「圧力風の作用のみによって」の構成を備えるものとは認められないから文言侵害は成立せず、その相違部分は本件発明の本質的部分でないということはできないから均等侵害も成立しないとして、控訴を棄却した事例。

[本件発明7]
茶葉や枝幹等の茶枝葉(A)を刈り取るバリカン式の刈刃(22)に対して、内部に空気流を流す移送ダクト(6)を具え、この移送ダクト(6)内に流す圧力風の作用のみによって、刈り取り後の茶枝葉(A)を前記刈刃(22)から所定の位置まで移送する装置であって、
前記移送ダクト(6)は、ダクト内において茶枝葉(A)の移送が開始される移送開始部(31)の下部が、前記刈刃(22)とほぼ同じ高さに設定されて成り、
また、この装置には、前記刈刃(22)の後方から移送ダクト(6)内に背面風(W)を送り込む吹出口(38)が設けられるものであり、この吹出口(38)から移送ダクト(6)内に背面風(W)を送り込むことによって、刈り取り後の茶枝葉5(A)を前記刈刃(22)から所定の位置まで移送するものであることを特徴とする茶枝葉の移送装置。

[被告製品]

[主な争点]
被告各製品の本件各発明の技術的範囲の属否(争点1)

[裁判所の判断](筆者にて抜粋、原判決からの引用を転載・書改め)
1.文言侵害について
『・・・(略)・・・本件発明7の「圧力風」とは、移送ダクトの内部に流される空気流であって、背面風及び刈刃前方からの補助的な送風である正面風を含むものであり、「圧力風の作用のみによって」とは、刈り取られた「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の位置」までの移送が上記のような「圧力風」の「作用」だけで実現されることと解するのが相当であり、「圧力風」の「作用」以外の作用が加わって上記移送が実現される場合には、「圧力風の作用のみによって」を備えるとは認められないというべきである。』(原判決を引用、書改め)
『・・・(略)・・・被告各製品においては、回転ブラシを摘採する茶枝葉の長さに応じて適切な高さに設定することを前提とし、刈刃により刈り取られた茶枝葉は、摘採作業中、常時回転する回転ブラシに接触して移送ダクト内に送り込まれ、その後、上向きに吹き出し、移送ダクト内を流れる圧力風により、移送ダクト内を通り、収容部に到達すると認めるのが相当である。したがって、被告各製品においては、「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の位置」までの移送が「圧力風」の作用に「圧力風」以外の作用である回転ブラシの回転作用が加わることによって実現されているといえるから、被告各製品は「圧力風の作用のみによって」の構成を備えるものとは認められないというべきである。』(原判決を引用、書改め)
『以上によれば、被告各製品は、構成要件Aの「圧力風の作用のみによって」の構成を備えるものと認められないから、構成要件Aを充足せず、本件発明7の技術的範囲に属するものと認められない。』

2.均等侵害について
『・・・(略)・・・水平移送部を設けることなく、刈刃の後方側から送風される「圧力風の作用のみ」によって、その吹出口付近に負圧を生じさせ、この負圧吸引作用によって刈り取り直後の茶枝葉を刈刃後方側に引き寄せ、その後は茶枝葉を背面風に乗せて、収容部4など適宜の部位に移送するようにしたことが、本件発明7の本質的部分であるものと認められる。
しかるところ、前記2(2)で説示したとおり、被告各製品においては、「茶枝葉」の「刈刃」から「所定の位置」までの移送が「圧力風」の作用に「圧力風」以外の作用である回転ブラシの回転作用が加わることによって実現されているといえるから、被告各製品は、「圧力風の作用のみによって」の構成を備えるものとは認められない。
したがって、被告各製品は、本件発明7の本質的部分を備えているものと認めることはできず、本件相違部分は、本件発明7の本質的部分でないということはできないから、均等論の第1要件を充足しない。』

[コメント]
被告製品では、刈刃により刈り取られた茶枝葉に回転ブラシが接触して移送ダクトに送り込むものと認められる以上、被告製品が「圧力風の作用のみによって」の構成を備えていないとする認定は道理にかなっており、これに異論を挟む余地は見出せない。
証拠として提出された被告製品の取扱説明書には、回転ブラシを外した使用態様を説明する記載は存在せず、寧ろ、回転ブラシの高さが適切に設定されないと茶枝葉をスムーズに刈り取れない旨が記載されていることから、回転ブラシを取り付けることが被告製品の通常の使用方法であると認定されている。この点は、回転ブラシが形式的でなく実質的に被告製品に備わっていることを示すうえで有効であったと思われる。
本件出願の審査過程では、刈刃付近に回転ブラシを設置した茶葉摘採機の公知技術に基づき新規性・進歩性が欠如している旨の拒絶理由が通知され、これを回避するため、「移送ダクト内の風送によって」を「移送ダクト(6)内に流す圧力風の作用のみによって」と補正されており、このような経緯に照らしても、被告製品が「圧力風の作用のみによって」の構成を備えていないとする認定は妥当と考える。
以上
(担当弁理士:椚田 泰司)

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