IP case studies判例研究

令和5年(行ケ)第10046号「角栓除去用液状クレンジング剤」事件

名称:「角栓除去用液状クレンジング剤」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和5年(行ケ)第10046号 判決日:令和5年12月21日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:除くクレーム
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/623/092623_hanrei.pdf

[概要]
「0~10体積%であるものを除く」との特定は、「10体積%超」の範囲である(「10体積%より多く配合する」)ことを意味するものにほかならないことから、構成の容易想到性を判断するに当たっては、引用発明において、配合量を「10体積%超」とする(「10体積%より多く配合する」)ことを当業者が容易に想到できたことの論理付けができるかを検討すれば足りると判断され、本件発明の進歩性を否定した審決が維持された事例。

[特許請求の範囲]
【請求項1】
水と、
オクチルドデカノールと、
水への溶解度より多い量のリモネン、スクアレン、及びスクアランからなる群から選ばれる1種類以上の炭化水素と、
界面活性剤(但し、界面活性剤が全量に対して0~10体積%であるものを除く。)と、
を含む角栓除去用液状クレンジング剤。

[取消事由]
取消事由1(甲1発明を引用発明とする進歩性の判断の誤り)

[原告の主張]
本件発明には「(但し、界面活性剤が全量に対して0~10体積%であるものを除く。)」と記載されているから、この範囲が容易に発明できるか否かを厳密に判断すべきである。甲5の1~3は、いずれも「・・・0~10体積%であるものを含む」ものでしかなく、「・・・0~10体積%であるものを除く」ことの証拠となるものはない。

[裁判所の判断]
『(2) 次に、原告は、甲5の1~3が「…0~10体積%であるものを含む」ものであることを看過した論理的な思考における誤りがある旨主張(上記第3の1(2))するので、以下検討する。
ア まず、甲5の1~3には、以下の記載があることが認められる。
(ア) 甲5の1には、常温液状油分50~95質量%及び水0.1~5質量%とともに、所定の界面活性剤を5~40質量%、好ましくは10~20質量%配合し、角栓除去効果に優れたメイク落しとして使用できる角栓除去用組成物が記載されており・・・(略)・・・。
(イ) 甲5の2には、クレンジング料における角栓除去作用を向上させる技術を提供するとして、水、N-アシルアミノ酸のエステル及び所定の界面活性剤を10~20質量%、より好ましくは12~15質量%含有し、・・・(略)・・・使用後に洗い流す態様で使用される角栓除去用の化粧料組成物が記載されており・・・(略)・・・。
(ウ) 甲5の3には、・・・(略)・・・界面活性剤及び水等の通常化粧料に用いられる成分を適量配合できることが記載され、実施例6には、界面活性剤を合計15質量%配合したクレンジングオイルが記載されている・・・(略)・・・。
イ 以上の甲5の1~3の記載を総合すれば、角栓除去用クレンジング組成物において、クレンジング機能(洗浄性)、ウォッシュオフ機能(水での洗い流し性)、角栓除去機能、皮膚への負担を考慮して、界面活性剤を10~20質量%程度、すなわち10体積%を超える量で配合することは、本件優先日前における当業者の技術常識であったと認められる。
他方、甲5の1には「5~10質量%」、甲5の2には「10質量%」の界面活性剤を含むクレンジング剤等が記載されていること自体は、原告の主張するとおりであるが、本件除く構成における「0~10体積%であるものを除く」との特定は、「0体積%~100体積%」から「0~10体積%であるものを除く」範囲のものであるため、結局、「10体積%超」の範囲である(「10体積%より多く配合する」)ことを意味するものにほかならない。そうすると、構成の容易想到性を判断するに当たっては、甲1発明において、界面活性剤の配合量を「10体積%超」とする(「10体積%より多く配合する」)ことを、当業者が容易に想到できたことの論理付けができるかを検討すれば足りる。甲5の1~3が「0~10体積%」の界面活性剤を配合したものを含むとしても、そのことが本件発明と甲1発明との相違点に係る容易想到性を判断する上で、どのような意味を有するのか、原告の主張によっても明らかでない。
ウ また、本件除く構成の数値限定が顕著な効果を有するものであれば格別、本件発明はそのようなものとも認められない。
すなわち、本件明細書によれば、本件発明の効果は、「タンパク質を簡便に抽出できるため、皮膚に付着したタンパク質を抽出洗浄することが可能な液状化粧品(「タンパク質洗浄用の液状化粧品」)として好適に使用できる」というものであり(【0064】)、「また、本発明のタンパク質抽出剤は、界面活性剤等を含まなくとも、優れたタンパク質抽出効果を奏する」ことから、「本発明のタンパク質抽出剤によれば、皮膚への負担を低減しつつ、所望の洗浄効果が得られる」というものである(【0065】)。
しかしながら、界面活性剤配合量に関しては、本件明細書の実施例16、18及び20が界面活性剤(Tween 80、Span 80)を含む組成の溶液であるが、「全量に対して0~10体積%であるものを除く」量で配合したものが存在しないことは前記のとおりである上、試験管内でタンパク質抽出作用を確認しただけで、皮膚に対する洗浄効果は確認されていない。角栓の除去については、実施例13において角栓のある皮膚に対する洗浄効果を確認する唯一の実施例が記載されているものの、第2のタンパク質抽出剤Aを含むタンパク質抽出剤を使用した結果、石けんと比較して「高い洗浄効果を示した」こと、「本発明のタンパク質抽出剤は、クレンジング剤として好ましく使用できる」ことが示されているのみで(【0149】)、その組成は界面活性剤を含まないものである(【0073】、【0138】~【0141】、【0149】)。そうすると、本件発明において界面活性剤を「全量に対して0~10体積%であるものを除く」量で配合することにより、「角栓除去用液状クレンジング剤」が具体的にどのような顕著な効果を奏するのかは不明であるといわざるを得ない。
以上に加え、甲1には「角栓やメラニンを含む古い角質や酸化した汚れもすっきり。」との角栓の除去機能についての記載があることからすると、本件発明による上記程度の効果は、当業者が予測し得たものにすぎない。
エ よって、原告の上記第3の1(2)の主張は採用できない。』

[コメント]
1.「本件除く構成」の容易想到性について
本判決の「構成の容易想到性を判断するに当たっては、甲1発明において、界面活性剤の配合量を「10体積%超」とする(「10体積%より多く配合する」)ことを、当業者が容易に想到できたことの論理付けができるかを検討すれば足りる。」との判断は、特許実務に照らして特に違和感はない。

2.侵害訴訟との関係
本件特許については本訴被告に対して侵害訴訟(特許権に基づく損害賠償請求事件)が別途提起され(知財高裁令和4年(ネ)第10029号(原審・東京地方裁判所令和2年(ワ)第22071号))、こちらでは本件特許は特許法36条6項1号に違反するものであり、特許無効審判により無効にされるべきものであるから本件特許権を行使することはできないと判断された。

3.その他
本件特許に係る出願と共に同じ原出願から分割された「他の出願」の特許請求の範囲には「全量に対して0~10体積%の界面活性剤」を含む旨の記載がある。本件特許の「(但し、界面活性剤が全量に対して0~10体積%であるものを除く。)」という記載は、当該「他の出願」とのダブルパテントを解消するために補正で追加されたものである。「特許審査基準 第IV部 第2章 新規事項を追加する補正(特許法第17条の2第3項) 3.3.1特許請求の範囲の補正 (4)除くクレームとする補正の場合」で「(i)請求項に係る発明が引用発明と重なるために新規性等(第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条)が否定されるおそれがある場合に、その重なりのみを除く補正」は許されるとされているので、この除くクレームによる補正はこの審査基準に則って認められたと思われる。しかし、本件特許に係る明細書の【発明が解決しようとする課題】【0005】には「溶液中の対象物質を分離等するために使用されて来た従来の方法は、いずれも、界面活性剤の使用を前提としていた。他方、界面活性剤は、皮膚に負担をかけ、荒れ等を生じさせ得るため、界面活性剤を使用していないか、又は、界面活性剤の使用量が極少量である方法が求められていた。」と記載され、また、界面活性剤を10体積%より多く含む実施例は記載されていない。本判決や審決では検討されていないが、本件特許に係る明細書に記載されているのは界面活性剤の量を低減させる技術思想であり、「但し、界面活性剤が全量に対して0~10体積%であるものを除く。」(すなわち、10体積%超の界面活性剤を必須で含む)とする補正は新たな技術的事項を導入するものになるのではないか。
以上
(担当弁理士:赤間 賢一郎)

令和5年(行ケ)第10046号「角栓除去用液状クレンジング剤」事件

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