IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
令和4年(行ケ)第10057号(第1事件)等「ランプ及び照明装置」事件
名称:「ランプ及び照明装置」事件
審決(無効・不成立)取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和4年(行ケ)第10057号(第1事件)等 判決日:令和6年4月25日
判決:審決取消
特許法29条2項
キーワード:進歩性
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/986/092986_hanrei.pdf
[概要]
本件発明4を限定して解釈した審決に対して、審決が認定した本件発明4と検甲2発明との対比における相違点の一部は相違点といえず、かかる相違点に依拠して本件発明4の容易想到性を否定した本件審決は、進歩性の判断において、結論に影響を及ぼす誤りがあったものといえるとして、本件発明4の進歩性を肯定した審決が取り消された事例。
[特許請求の範囲]
【請求項4】(本件発明4)
1-4A 光拡散部を有する長尺状の筐体と、
1-4B 前記筐体の長尺方向に沿って前記筐体内に配置された複数のLEDチップと、
1-4C 前記筐体内に配置された長尺状の基板と、
1-4D 前記基板の上に実装された複数の容器と、
1-4E 一対の第1壁部及び第2壁部を有し、前記基板を保持する金属製の基台と、
1-4F を備えたランプであって、
1-4G 前記複数のLEDチップの各々は、前記複数の容器の各々に実装され、
1-4H 前記基板は、前記第1壁部と前記第2壁部とによって前記基板の短手方向の動きが規制された状態で前記基台に配置され、
1-4I 前記複数のLEDチップの各々の光が前記ランプの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅をy(mm)とし、隣り合う前記LEDチップの発光中心間隔をx(mm)とすると、
y>1.49xの関係を満たす、
1-4J ランプ。
[主な争点]
請求項4の発明について検甲2を主引用例とする進歩性の判断の誤り(第1事件の取消事由3)
[裁判所の判断]
『キ 本件発明4における「基板の短手方向の動きが規制された状態」に係る要旨認定(第1事件の取消事由3の判断)
「規制」とは、「おきて。きまり。また、規律を立てて制限すること。」(広辞苑第六版)を意味する用語であるから、「規制された」とは、制限されていることを意味すると理解できる。
そして、構成要件1-4Eでは、基台が一対の第1壁部及び第2壁部を有することが特定され、構成要件1-4Hでは、一対の第1壁部及び第2壁部によって、基板は、短手方向の動きが規制、すなわち動きが制限された状態で基台に配置されることが特定されていることから、短手方向に一対の第1壁部及び第2壁部が存在し、このような一対の壁部によって、基板は、短手方向の動きが制限された状態で基台に配置されるものといえる。
ここで、本件明細書をみても「規制」を通常の用語と異なる意味で用いる旨の説明は見いだせない。そうすると、上記構成要件における「規制」は、上記のとおり構成要件1-4Hにより、一対の壁部によって基板が短手方向の動きを制限されていることが特定されていると解するのが相当である。
他方、一対の壁部によって基板が短手方向の動きを制限されていることについて、具体的にどのように制限するかについては、構成要件1-4Hその他の構成要件において特段の特定はないから、一対の壁部は基板の短手方向の動きを制限することに関与すれば足りると解するのが相当である。
なお、第1壁部及び第2壁部に係る本件明細書【0055】及び【図3B】には、実施の形態として、第1壁部51と第2壁部52は、反射部材70を介在して、基板11を挟持する形態で、一対の壁部が基板の短手方向の動きを制限することに関与していることが理解できる。
この点、本件審決は、「本件特許明細書の段落【0055】・・・【0063】・・・【0064】・・・これらの記載と本件図面の【図3B】の記載を総合すると、本件発明4の「前記基板は、前記第1壁部と前記第2壁部とによって前記基板の短手方向の動きが規制された状態で前記基台に配置され」るという事項は、薄い反射部材70を介することはあっても、第1壁部と第2壁部自体によって、基板の短手方向の動きを規制することを意味していると解される。」と認定・判断するが、上記のとおり、本件発明4の発明特定事項からは、一対の壁部は、基板の短手方向の動きを制限することに関与すれば足りるのであるから、「第1壁部と第2壁部自体によって、基板の短手方向の動きを規制することを意味していると解される。」と本件審決が認定したことは誤りである。
・・・(略)・・・
5 第1事件の取消事由3(無効理由6A-4進歩性の判断の誤り)
(1)本件審決は、本件発明4の構成要件1-4Hについて「第1壁部と第2壁部自体によって、基板の短手方向の動きを規制することを意味していると解される。」と認定するが、前記2(2)キの本件発明4において判断したとおり、本件発明4は、構成要件1-4Hにより、一対の壁部によって、基板は、短手方向の動きが制限されていることが特定されていると解され、一対の壁部は、基板の短手方向の動きを制限することに関与すれば足りることを踏まえると、本件審決の上記認定は誤りである。
そして、検甲2発明は、前記第2の3(2)の本件審決の認定のとおり、「前記基台は、一対の第1突部と第2突部を有し、前記第1突部と前記第2突部との間にクリップが嵌まり、前記クリップは短手方向に動かないものであ」ることが認められ、さらに、第1突部と第2突部は、LEDをまたぐようにしてLED基板の上下方向及び水平方向における動きを規制する透明樹脂のクリップを挿通する溝部を有するように構成されていること(甲62)に照らせば、検甲2では、第1突部及び第2突部(の溝部)がなければ、LED基板の水平方向の動きを規制できないのであるから、検甲2のLED基板は、クリップを介して、第1突部及び第2突部により、短手方向(水平方向)の動きが規制されていると認められる。そうすると、検甲2発明の一対の第1突部と第2突部に係る構成は、本件発明4の構成要件1-4Hを充足するものであるといえるから、これを相違点4と認定した本件審決は誤りである。
被告は、本件審決が、本件発明4の発明特定事項について、本件明細書【0055】等の記載を具体的に参酌して解釈した理解は正当であると主張するが、発明の要旨認定の判断において、発明特定事項を実施例に限定して解釈することは許されないし、そもそも実施例においても、反射部材70を介在して、一対の壁部が基板の短手方向の動きを規制しているといえるから、被告の上記主張は、採用できない。
(2)そうすると、相違点4を認定し、かかる相違点4に依拠して本件発明4の容易想到性を否定した本件審決は、進歩性の判断において、結論に影響を及ぼす誤りがあったものといえる。
・・・(略)・・・
以上のとおり、原告が主張する取消事由3には理由があるから、本件審決のうち本件発明4に係る部分を取り消すべきであるが、原告主張のその他の取消事由及び被告主張の取消事由にはいずれも理由がない。』
[コメント]
本件審決では、本件発明4の構成要件1-4Hについて「第1壁部と第2壁部自体によって、基板の短手方向の動きを規制することを意味していると解される。」と認定したのに対し、本判決では「構成要件1-4Hにより、一対の壁部によって、基板は、短手方向の動きが制限されていることが特定されていると解され、一対の壁部は、基板の短手方向の動きを制限することに関与すれば足りる」としている。
本件図面の図3Bなどに記載されているように、実施例では一対の壁部と基板との間に反射部材が介在していることを考慮すると、本件審決による相違点の認定を誤りとした本判決は、妥当であると考える。
なお、本判決では、本件審決において検甲2(RAD-402W)の見本品として「譲渡が本件特許の優先日である平成24年4月25日前に公然実施されたものといえる。」と判断した点について何ら触れていないに対し、本特許権に係る侵害訴訟の控訴審である令和3年(ネ)第10086号の判決では、検甲2(402W製品)のサンプル品の取引が「公然実施をされたとはいえない。」と判断している。どちらの判決も同じ裁判官らによって判断されているが、なぜ各判断が異なっているのか不明である。
以上
(担当弁理士:冨士川 雄)
令和4年(行ケ)第10057号(第1事件)等「ランプ及び照明装置」事件
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