IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
令和5年(行ケ)第10002号「光源ユニット及び照明器具」事件
名称:「光源ユニット及び照明器具」事件
審決(無効・不成立)取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和5年(行ケ)第10002号 判決日:令和6年4月25日
判決:審決取消
関連条文:特許法29条2項
キーワード:進歩性
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/987/092987_hanrei.pdf
[概要]
本件発明1及び5を限定して解釈した審決に対して、明細書の記載及び一般的な用語の解釈に基づき、審決において相違点と認定された点が相違点とは認められないとして、本件発明1及び5の進歩性を肯定した審決が取り消された事例。
[本件発明1]
A 複数のLEDが実装されたLED基板と、
B 前記LED基板が取り付けられる取付部材と、
C 拡散性を有し且つ前記LED基板を覆うようにして前記取付部材に取り付けられるカバー部材とを備えた
D 光源ユニットであって、
E 前記カバー部材は、前記取付部材に取り付けられる一対の突壁部と、
F 前記一対の突壁部の各々に対して前記一対の突壁部が並ぶ方向における前記突壁部よりも外側に延出する一対の延出部とを有し、
G 長尺状に形成された器具本体の一面に設けられた収容凹部は、長尺且つ矩形板状に形成された底面部と、
H 前記収容凹部の開口部の端縁から突出して前記底面部に接続されている一対の側面部とを有し、
I 前記取付部材は、前記複数のLEDが前記収容凹部の外側を向くようにして前記LED基板を前記器具本体に取り付けるための部材であり、
J 前記カバー部材は、前記収容凹部に前記光源ユニットを収容した状態では、前記器具本体の長手方向及び幅方向と直交する方向において前記一対の延出部の各々が前記収容凹部の開口端縁と隙間が生じないように重なっていることを特徴とする
K 光源ユニット。
[本件発明5]
a 長尺状に形成された器具本体と、
b 前記器具本体に取り付けられる光源ユニットと、
c 前記光源ユニツトに取り付けられており前記光源ユニットに対して点灯電力を供給する電源装置とを備え、
d 前記器具本体の一面には、前記器具本体の長手方向に沿って矩形の収容凹部が設けられており、
e 前記電源装置は、前記光源ユニットを前記器具本体に取り付けた状態において前記収容凹部内に配置され、
f 前記光源ユニットは、複数のLEDが実装されたLED基板と、
g 前記複数のLEDが前記収容凹部の外側を向くようにして前記LED基板を前記器具本体に取り付けるための取付部材と、
h 拡散性を有し且つ前記複数のLEDを覆うようにして前記取付部材に取り付けられるカバー部材とを有し、
i 前記カバ一部材は、前記取付部材に取り付けられる一対の突壁部を有し、
j 前記収容凹部は、板金の曲げ加工により開口部を有するように形成されており、
k 前記カバー部材は、前記光源ユニットを前記器具本体に取り付けた状態で、前記器具本体の長手方向及び幅方向と直交する方向において前記収容凹部の開口端縁と隙間が生じないように重なる延出部が設けられていることを特徴とする
l 照明器具。
[主な争点]
取消事由8 無効理由3-1における進歩性の判断の誤り
取消事由9 無効理由3-5における進歩性の判断の誤り
[裁判所の判断]
『事案に鑑み、取消事由8及び取消事由9について以下検討する。
(1)取消事由8について
ア 本件発明1について
まず、本件発明1の要旨認定につき当事者間に争いがあるため、以下検討する。
(ア)本件発明1の特許請求の範囲の記載によると、「取付部材」は、構成要件B「・・・(略)・・・」、構成要件C「・・・(略)・・・」、構成要件E「・・・(略)・・・」、構成要件F「・・・(略)・・・」、構成要件I「・・・(略)・・・」と特定されているところ、「取付(け)」とは、「①機器・器具などをとりつけること。装置すること。」(広辞苑第六版)を意味する名詞であるから、「取付部材」とは、機器・器具などをとりつけること、装置することに関わる部材であると理解できる。
・・・(略)・・・
さらに、構成要件Cにおいて、「取付部材」は、LED基板を覆うようにしてカバー部材が取り付けられる対象物であることが特定されており、そのための構成として、構成要件E及び構成要件Fによると、カバー部材が一対の突壁部を有することが特定されている。そして、「にして」とは状態を表すものであり、「ため」とは「目的」を意味するものである(広辞苑第六版)から、構成要件Iによると、「取付部材」は、複数のLEDが収容凹部の外側を向いた状態でLED基板を器具本体に取り付けることを目的とした部材であることが特定されていると理解できる。
以上によると、本件発明1の各構成要件の特定事項から、本件発明1の「取付部材」は、カバー部材が装置されて一体となること、及び、LED基板が取り付けられ、それが収容凹部の外側を向く状態で器具本体に取り付けることを目的とした部材であると認められる。
他方、本件発明1では、・・・(略)・・・カバー部材が一対の突壁部を有することが特定されている(構成要件E)ものの、「取付部材」を器具本体に取り付けるための具体的な構成・・・(略)・・・についての特定はされていないものといえる。
そうすると、本件発明1では、「取付部材」を器具本体に取り付けるための具体的な構成の特定がない以上、当業者は、「取付部材」を器具本体に取り付けるための構成として、技術水準を踏まえて任意のものを採用し得るものと解される。・・・(略)・・・。
(イ)もっとも、特許請求の範囲の記載の意味内容が、本件明細書において、通常の意味内容とは異なるものとして定義又は説明されていれば、異なる解釈をする余地があるため、以下検討する。
この点、本件明細書によると、「取付部材」については、・・・(略)・・・それぞれ記載があるが、いずれの記載によっても、前記(ア)の特許請求の範囲の記載の意味内容とは異なるものとして定義又は説明されているものとはいえない。
ここで、更に本件明細書の実施例についてみると、取付部材について以下のように説明されている。
・・・(略)・・・
このように実施形態では、図示はないものの取付部材21と器具本体には嵌合構造が設けられていることが理解でき、「嵌合」とは、「〔機〕軸が穴にかたくはまり合ったり、滑り動くようにゆるくはまり合ったりする関係をいう語」(甲201)であるから、取付部材21と器具本体とは、はまり合うための構造を有し、これにより取り付けられることが記載されているものと理解できる。もっとも、かかる実施形態における取付部材21と器具本体が、はまり合うための具体的な構造については図示されておらず、何ら具体的な構造が開示されていないことに照らすと、実施形態において取付部材21と器具本体との間にカバー部材を介する態様も包含しているといえる。
・・・(略)・・・
イ 引用発明(甲3-1発明)について
・・・(略)・・・
ウ 本件発明1と甲3-1発明との対比について
(ア)本件審決は、相違点1-1-3(1)として、「LED基板を器具本体に取り付けるための部材について、本件発明1では、これが「取付部材」であるのに対して、甲3-1発明では、これが「蓋部3」であって、絶縁板13は基板10をこの蓋部3に取り付ける部材である点。」を認定しているところ、原告はこの相違点の認定を争っていることから、以下検討する。
(イ)相違点1-1-3(1)について
本件審決は、・・・(略)・・・相違点1-1-3(1)の判断において「甲3-1発明では、「絶縁板13」は、基板10を蓋部3に取り付けるためのものであって、器具本体に取り付けるための部材(取り付ける機能を有する部材)は「蓋部3」である。」(同86頁4~7行目)と認定・判断しており、本件発明1では、「器具本体」と「取付部材」との間に取り付けに資する構造が介在することが排除されていることを前提としている。
しかしながら、前記(1)の本件発明1の要旨認定のとおり、「器具本体」と「取付部材」との間に取り付けに資する構造が介在することを含むものであってこれが排除されていると解することはできない。
以上を前提とすると、・・・(略)・・・「絶縁板13」は、「LED基板を器具本体に取り付けるための部材」に相当するものと認められる。
そうすると、本件発明1と甲3-1発明と対比において、相違点1-1-3(1)は、相違点とはいえない。
・・・(略)・・・
(エ)小括
そうすると、本件発明1は、甲3-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、本件審決は、進歩性の判断において、結論に影響を及ぼす誤りがあったものといえる。
(2)取消事由9について
・・・(略)・・・
イ 引用発明(甲3-5発明)について
前記(1)ウ(イ)によると、甲3の実施形態1に基づく発明として、本件審決が認定した甲3-5発明・・・(略)・・・が認められる。
ウ 本件発明5と甲3-5発明との対比について
(ア)本件審決は、相違点1-5-3(5)として「前記光源ユニットに対して点灯電力を供給する装置に関して、その装置が、本件発明5では「電源装置」であるのに対して、甲3-5発明では、電源装置であるか不明である点。」を認定し、相違点2-5-3(5)として「LED基板を器具本体に取り付けるための部材について、本件発明5は、これが「取付部材」であるのに対して、甲3-5発明は、これが「蓋部3」であって、絶縁板13は基板10をこの蓋部3に取り付ける部材である点。」を認定し、相違点3-5-3(5)として「カバー部材が、本件発明5では、「拡散性を有」するのに対して、甲3-5発明では、「アクリル樹脂やガラス等の透明な絶縁材料からできて」いるものの、拡散性を有するかは不明である点。」を認定し、相違点4-5-3(5)として「収容凹部の開口部に関して、本件発明5では、「板金の曲げ加工により」形成されているのに対して、甲3-5発明では、「取付ベース1は金属を形成したものであり、断面がコ字状に形成され」たものである点。」を認定している。
(イ)検討
まず、本件審決のLED基板を器具本体に取り付けるための部材に係る相違点2-5-3(5)は、上記(1)ウ(イ)と同様に、相違点とはいえない。
また、光源ユニットに対して点灯電力を供給する装置に関する相違点1-5-3(5)については、本件発明5は、「電源装置」と特定するのみであるから、前記アのとおり、本件発明5は、光源ユニットに対して点灯電力を供給するもととなる装置を備えていればよい一方で、甲3-5発明の「電気部品11」は、LED2を点灯させるためのもの(甲3【0011】)であるから、本件発明5の「電源装置」に相当することが認められる。したがって、相違点1-5-3(5)は、相違点とはいえない。
さらに、収容凹部の開口部に関する相違点4-5-3(5)については、前記アのとおり、「収容凹部」が「開口部を有するように形成され」ていれば、その加工方法によらず、物としての差異はない。また、相違点4-5-3(5)を一応の相違点とした場合であっても、同相違点によって本件発明5と甲3-5発明とにかかる作用効果等において何らの差異を生ずるものではなく「物」としての差異がない以上、かかる相違点は実質的なものではないといえる。
以上を踏まると、本件発明5と甲3-5発明の相違点は、カバー部材に係る相違点3-5-3(5)のみとなるが、前記(1)ウ(ウ)と同様の理由により、甲3-5発明において、相違点3-5-3(5)に係る本件発明5の構成を備えることは、当業者が容易になし得るものである。
エ 小括
そうすると、本件発明5は、甲3-5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、本件審決は、進歩性の判断において、結論に影響を及ぼす誤りがあったものといえる。』
[コメント]
裁判所は、「取付部材」に関して「・・・ための部材」と記載されている点に着目し、当該記載が、作用、機能、性質又は特性を用いて物を特定しようとする記載、いわゆる「機能的表現」に相当すると認定し、「特許・実用新案審査基準 第III部 第2章 第4節 特定の表現を有する請求項等についての取扱い」の「2.1 請求項に係る発明の認定」に沿って結論を導いたと推察される。上記のような表現が、機能的表現に相当し得ると認識する実務家は少なくないであろうし、丁寧に請求項の記載を精査した上で、審査基準に沿って結論を導いていると考えられる点からすれば、審決と比較して本判決の方が妥当な判断といえるだろう。なお、本判決における判断は、本特許権に係る侵害訴訟の控訴審である令和3年(ネ)第10086号の判決において示された判断とほぼ同じであった。
また、上記推察の正誤や判断の妥当性等は別として、実務上、どういった表現が機能的表現と解釈される可能性が高いのか、機能的表現を含むと認定された発明がどのように解釈されるのか等については意識しておくべきであろう。
以上
(担当弁理士:植田 亨)
令和5年(行ケ)第10002号「光源ユニット及び照明器具」事件
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