IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
令和5年(行ケ)第10148号「販売システム、販売プログラム及び販売方法」事件
名称:「販売システム、販売プログラム及び販売方法」事件
審決(無効・不成立)取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和5年(行ケ)第10148号 判決日:令和6年9月12日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:副引用発明の認定、動機付け
判決文:https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/469/093469_hanrei.pdf
[概要]
副引用発明は相違点に係る構成を備えておらず、また、主引用発明を相違点に係る構成に変更する動機付けがないとして、本件発明の進歩性を肯定した審決が維持された事例。
[特許請求の範囲]
【請求項1】
(A) 注文者から個別に注文を受け付け、前記注文者の団体ごとに注文を管理する、コンピュータにより構成される販売システムであって、
(B) 商品の販売対象となる前記注文者の団体に関する団体情報を記憶する記憶手段と、
(C) 各注文者から、少なくとも前記注文者の団体の前記団体情報を特定する情報及び注文商品を特定する情報を含む注文情報の入力を受け付けて、各々の前記注文情報を登録する注文受付手段と、
(D) 前記注文情報における、前記団体情報を特定する情報に基づいて前記注文者の団体を特定して、複数の前記注文情報の中から前記注文者の団体が同一の前記注文情報を抽出し、抽出された前記注文情報に基づいて、同じ団体の注文からなる注文リストを、当該団体の担当者が閲覧できる形式で出力する注文リスト出力手段と、を備え、
(E) 前記注文リスト出力手段は、前記注文リストとして、各注文について前記注文商品及び注文者を表示するリストを出力する販売システム。
[審決]
1.副引用発明の認定について
甲1発明は、本件発明1の構成要件(D)及び(E)に相当する構成を備えていない(相違点)とした上で、甲2、甲3及び甲4に記載された事項について、いずれも、構成要件(D)及び(E)とは異なる構成であるとした。
2.甲1発明を本件発明に変更する動機付けについて
甲1発明における「顧客」は学校であるとした上、甲1発明を本件発明1に変更する動機付けについて、甲1発明は、各顧客(学校)ごとに注文情報が登録・管理されているのであるから、構成要件(D)のように、前記注文情報における、前記団体情報を特定する情報に基づいて前記注文者の団体を特定して、複数の前記注文情報の中から前記注文者の団体が同一の前記注文情報を抽出する必要はなく、甲1において、そのように変更する動機付けはない。
[原告の主張]
1.副引用発明の認定について
本件発明と甲1発明との一致点及び相違点の認定について争わない。
甲2、甲3及び甲4には、構成要件(D)及び(E)に相当する構成が記載されていることから、甲2、甲3及び甲4の記載事項に係る本件審決の判断には誤りがある。
2.甲1発明を本件発明に変更する動機付けについて
甲1発明を使用する「顧客」は学生個人も想定される。甲1発明について、「顧客」を学校に限定して認定したことを前提とした本件審決の動機付けの判断には誤りがある。
甲1発明と甲2ないし甲4には、技術分野の共通性、課題の共通性、作用・機能の共通性があり、甲1記載内容中に示唆があることを考慮すると、甲1発明に、甲2ないし甲4記載の技術を組み合わせることの動機付けがあるといえるから、これと異なる本件審決の判断には誤りがある。
[主な争点]
副引用発明の認定、及び主引用発明と副引用発明との組み合わせの動機付け
[裁判所の判断]
『1 本件発明1の概要
・・・(略)・・・
(2) なお、本件発明1の各構成要件は前記第2の2⑵アのとおりであるところ、構成要件(D)には「前記注文情報」等の記載があり、構成要件Cの事項を引用していることから、これを踏まえ、構成要件(D)の内容について検討する。
構成要件(D)は、「前記注文情報における、前記団体情報を特定する情報に基づいて前記注文者の団体を特定して、複数の前記注文情報の中から前記注文者の団体が同一の前記注文情報を抽出し、抽出された前記注文情報に基づいて、同じ団体の注文からなる注文リストを、当該団体の担当者が閲覧できる形式で出力する注文リスト出力手段と」するものであり、構成要件Cには、「各注文者から、少なくとも前記注文者の団体の前記団体情報を特定する情報及び注文商品を特定する情報を含む注文情報の入力を受け付けて、各々の前記注文情報を登録する注文受付手段と」と記載されていることから、構成要件(D)における「前記注文情報における、前記団体情報を特定する情報」とは、構成要件Cで特定された情報、すなわち、「各注文者」により「入力」された、「前記注文者の団体の前記団体情報を特定する情報」であると理解すべきである。
また、構成要件(D)における「注文リストを、当該団体の担当者が閲覧できる形式で出力する」との事項は、少なくとも「注文リスト」を「当該団体の担当者」がアクセス可能な出力先に送信するシステム構成であることを特定する事項と理解すべきである。
・・・(略)・・・
5 甲2ないし甲4に記載の内容と構成要件(D)及び(E)との対比
(1) 構成要件(D)及び(E)の検討
前記1(2)のとおり、本件発明1の構成要件(D)における「前記注文情報における、前記団体情報を特定する情報」とは、構成要件Cで特定された情報、すなわち、「各注文者」により「入力」された、「前記注文者の団体の前記団体情報を特定する情報」であり、構成要件(D)における「注文リストを、当該団体の担当者が閲覧できる形式で出力する」との事項は、少なくとも、「注文リスト」を「当該団体の担当者」がアクセス可能な出力先に送信するシステム構成であることを特定する事項として理解すべきである。以下、これを前提として、甲2ないし甲4の記載事項と構成要件(D)及び(E)について比較検討する。
・・・(略)・・・
しかし、前記4(1)のとおり、甲2には、注文者(生徒)が「注文者の団体の前記団体情報を特定する情報」を入力することは記載されていないから、構成要件(D)のうち、「前記注文情報における、前記団体情報を特定する情報に基づいて前記注文者の団体を特定して、複数の前記注文情報の中から前記注文者の団体が同一の前記注文情報を抽出」することは、記載されていない。
また、甲2には、前記4(1)のとおり、段落【0040】に「学校別発注リスト」が仕出し業者に送信されることは記載されているが、学校の担当者がアクセス可能な出力先に送信することについては記載されていないから、構成要件(D)のうち、「同じ団体の注文からなる注文リストを、当該団体の担当者が閲覧できる形式で出力する」ことは記載されていない。
・・・(略)・・・
しかし、甲3で抽出し表示されるのは注文の履歴(図3、段落【0048】及び【0112】)であり、構成要件(D)でいうところの、「複数の前記注文情報の中から注文者の団体が同一の前記注文情報を抽出し、抽出された前記注文情報に基づいて、同じ団体の注文からなる注文リスト」を出力するものではない。そのため、甲3には構成要件(E)は記載されていない。
また、各注文者が「前記注文情報における、前記団体情報を特定する情報」を入力すること(構成要件(D))についても、記載されていない。
・・・(略)・・・
しかし、甲4において、「各注文者」が「前記注文者の団体の前記団体情報を特定する情報」を入力しているか、また、注文リストを「前記団体情報を特定する情報」「に基づいて前記注文者の団体を特定して」抽出しているかは不明であるから、構成要件(D)における「前記注文情報における、前記団体情報を特定する情報に基づいて前記注文者の団体を特定して、複数の前記注文情報の中から」抽出することが記載されているとはいえない。
また、甲4のリスト(18頁)は、管理画面の利用者が閲覧可能であると解されるところ、甲4には、「イベント新規登録(スナップスナップ販売用)」(6頁)、「写真販売ナビ」(6、9、10、17頁等)、「※削除理由は必須になります。」「例)学校・保護者からの依頼のため」等の記載があることからすると、甲4の「スナップスナップ管理画面」の利用者は、写真販売業者であると解される。そうすると、甲4には、構成要件(D)のうち、「同じ団体の注文からなる注文リストを、当該団体の担当者が閲覧できる形式で出力する」ことは記載されていない。』
・・・(略)・・・
そうすると、甲1発明に甲2ないし甲4に記載された事項を適用したとしても・・・(略)・・・本件発明1に到達することはできないから、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(3) 甲1発明との組み合わせの動機付けについて
甲1には、前記2(1)のとおり、甲1のシステムを介して、販売側(販売店、メーカー、物流会社、金融機関)が顧客から商品の注文を受注し、注文された商品を顧客へ配達し、決済するという取引形態の説明がされ、それにより、発注、受注、物流及び入金管理を一括処理して販売店の業務負担を軽減するという目的を達成することが記載されている。また、実施例についても、前記2(2)のとおり、顧客(学校)からの注文の方法に応じた、販売店の業務管理についての記載がある。このような甲1の記載内容によれば、甲1には、販売側と顧客という二者間の関係についての記載しかなく、学校と学生のような、顧客が帰属する組織内の属性(階層関係)については想定されておらず、そのような属性に合わせた情報処理を行うことについては記載も示唆もされていない。また、仮に甲2や甲4にみられるような、複数の顧客を共通する属性別にリスト化する処理が周知技術であったとしても、前記第2⑴のとおり、甲1発明の目的は、販売店の業務負担を軽減するところにあるから、そのようなリスト化を行い、それを学校の担当者が閲覧できる形式で出力するようにするのは、甲1発明の上記目的とは相容れないから、そうした動機付けはない。
また、甲1に記載された具体的な実施形態に即して検討すると、顧客(学校)は、学校名、住所、商品名、商品番号、注文個数を入力した後、学生の氏名、身長、胸囲、胴囲等を個別に入力する手順で注文を行うことから(図3及び段落【0028】)、学生の個別注文情報は学校により既に集約されており、学校別に抽出された注文情報は既得のものである。そうすると、販売店の業務負担軽減を目的とする甲1発明において、学校側が個別注文情報を集約して注文することに代えて、販売側が学生から個別に注文を受けて集約し、学校別に抽出された注文情報を学校の担当者に閲覧可能な形式で出力するように変更することは、甲1発明の上記目的に反し、そのような動機付けはない。
6 原告の主張に対する判断
(1) 原告は、保護者がスマートフォンなどを用いて学校行事の写真を購入するシステムが甲8に記載されていて公知であり、インターネットを利用して生徒又は保護者が個別に商品を注文することは周知技術であること(前記第3〔原告の主張〕3(1))、顧客が学生や保護者であった場合も、顧客が学校である場合と動作は同じであるから、甲1における顧客には学生や保護者も含まれる旨を主張する(前記第3〔原告の主張〕1(2))。
甲8(「園・学校向けインターネット写真販売なら富士フイルムスクールフォト」(https://adv.ffsp.jp/)、令和5年9月5日出力)は、本件特許の出願時においても共通する周知技術を示すものとして原告が提出する証拠であるところ、そこには、幼稚園、保育園、学校の選任カメラマンによって撮影された各種行事やイベントなどの写真画像を、保護者がパソコンやスマートフォンで画像を確認しながら注文できる、インターネット学校写真販売システムが記載されている。
しかし、仮に顧客を学校とする実施例しか開示のない甲1において、顧客を学生や保護者とする場合があり得るとしたとしても、前記5(3)のとおり、甲1に記載されているのは販売側と顧客という二者間の関係のみであるから、学生や保護者から注文を受け、学生や保護者に配達し、決済をすることは読み取れるとしても、複数の学生や保護者から注文を受ける場合において、それらの注文を各学生や保護者の帰属に基づいてリスト化することについて、甲1にはこれを動機付ける記載はない。
また、甲2ないし甲4には本件発明1の構成要件(D)及び(E)に係る記載がないこと、甲1発明との組み合わせの動機付けを欠くことについても、前記5で検討したとおりである。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(2) 原告は、甲1発明と甲2ないし甲4には、技術分野の共通性、課題の共通性、作用・機能の共通性があり、甲1記載内容中に示唆があることを考慮すると、甲1発明に、甲2ないし甲4記載の技術を組み合わせることの動機付けがあるとも主張する(前記第3〔原告の主張〕3(2))。
しかし、甲2ないし甲4、その他進歩性欠如の立証のために原告が提出した証拠には、甲1発明と本件発明1の相違点である本件発明1の構成要件(D)及び(E)に係る構成を示すものがないから、組み合わせの前提を欠いており、原告の上記主張は、採用することができない。』
[コメント]
原告は、本件発明の構成要件(D)と副引用発明との対比において、構成要件(D)が構成要件(C)を引用しているのにも拘わらず、構成要件(C)を踏まえることなく構成要件(D)のみを抜き出して、副引用発明と比較した。この点に問題があったと感じる。本件発明の構成要件を引用発明が開示しているかを検討する際、本件発明の検討対象とする構成要件のみに着目するのではなく、本件発明の他の構成要件との関係も考慮する必要があることを改めて確認できる。
また、原告は、甲1発明を相違点に係る構成に変更する動機付けの判断において、各引用発明の課題を「販売された商品の管理を簡便に行う」と一般化させることによって、課題が共通するとの主張をした。裁判所は、この主張を直接的に否定したわけではないが、動機付けの有無の判断において、甲1発明の目的は販売店の業務負担軽減であることを明示した上で、甲1発明を相違点に係る構成に変更する動機付けがないと判断した。これを鑑みれば、動機付けの有無の判断において、各引用発明の課題を一般化あるいは上位概念化することは好ましくなく、引用発明ごとに個別具体的な課題を認定する必要があると思われる。
以上
(担当弁理士:小島 香奈子)
令和5年(行ケ)第10148号「販売システム、販売プログラム及び販売方法」事件
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