IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
令和7年(行ケ)第10003号「ベッド」事件
名称:「ベッド」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和7年(行ケ)第10003号 判決日:令和7年9月30日
判決:請求認容
実用新案法第3条第1項第3号、同法第3条第2項、同法第37条第1項第2号
キーワード:進歩性(一致点の認定誤り)
判決文:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-94884.pdf
[概要]
本件考案1と甲1考案との間に相違点がないと判断された審決が取り消された事例である。
[事件の経緯]
(1)被告は、令和6年1月23日、本件実用新案登録の請求項1から同10に係る考案について実用新案登録の無効審判請求(無効2024-400001号事件)を請求した。
(2)特許庁は、同年12月9日付けで、「実用新案登録第3213233号の請求項1~10に係る考案についての実用新案登録を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。
[請求項1](他は省略)
マットレス本体及び前記マットレス本体に接続されている複数の支持板を有するマットレスと、
前記支持板と着脱可能に接続されている複数の支持脚と、
を備えるベッドであって、
複数の前記支持板が、前記マットレスを前記支持板の配列方向に沿って巻き取ることができるように前記マットレス本体の一方の面に間隔を隔てて配列されていることを特徴とするベッド。
[争点]
取消事由1(本件考案1ないし5、7、8及び10に係る新規性に関する判断の誤り)
(取消事由2,3は省略)
[裁判所の判断]
『1 本件審決の取消事由1(本件考案1ないし5、7、8及び10に係る新規性に関する判断の誤り)について
(1) 「支持脚」について
ア 本件考案1における「支持脚」の解釈
(ア) 「脚」とは、一般的に「形・位置などが動物の足に似ているもの」、「物の下部にあり支えの用に供するもの」を意味し(甲11)、住宅用普通ベッドに係る日本工業規格(JIS)においても、ベッドの床面に接する柱状の部材の名称を「脚」と表示していることが認められる(甲12)。そうすると、本件考案1における「支持脚」とは、マットレスの下部にあり、マットレスを支える柱状のもの、と解するのが相当である。
(イ) これに対し、被告は、「脚」とは、ベッド本体の下部で支えの用をなすもの、又は末に位置する部分を意味し、柱状だけでなく、板状のものも含まれると主張する。
しかしながら、上記の日本工業規格(JIS)において、床面に接する板状の部材の名称は、「脚」ではなく「ヘッドボード」、「フットボード」と表示されていることが認められ(甲12)、住宅用ベッドに係る技術分野において、「脚」とは柱状の部材を指し、ヘッドボードやフットボードのような板状の部材はこれに含まれないといえる。したがって、被告の上記主張は採用できない。
イ 甲1考案
前記第2の3(2)の図2によれば、甲1考案に係るベッドは、ヘッドボード及びフットボードの板状の先端が床面に接することによってマットレスを支えており、ほかにマットレスを支える柱状の部材はない。したがって、甲1考案は、本件考案1の「支持脚」を備えているとは認められない。
(2) 「接続されている」について
ア 本件考案1における「接続されている」の解釈
(ア) 「接続」とは、一般的に「つなぐこと。つながること。」を意味し、「つなぐ」とは、一般的に「糸・綱などで一か所に物を結びとめて離れないようにすること。」、「切れたり離れたりしているものを続け合わせる。」ことを意味する(甲10の1、16)。また、本件各考案が、マットレスやこれを支持する部材等をもって構成されるベッドの考案であることに鑑みれば、本件考案1における「接続されている」とは、マットレスと部材、あるいは部材同士が、離れないように続け合わされている状態を意味すると解するのが相当である。
(イ) これに対し、被告は、「接続」とは、離れているものが単に接することも含み、離れない状態にされていることを意味するものではない、と主張する。
しかしながら、上記(ア)のとおり、本件各考案がベッドに関するものであることに鑑みれば、支持板を有するマットレスと、これを支える脚が「接続されている」と表現されている場合に、両者が離れないように対処され、ベッドとして一体の状態になっていることを意味すると解するのが自然であるから、両者が単に接しているだけであり、離れないように対処されていない状態を含むと解釈することは困難である。
したがって、被告の上記主張は採用できない。
イ 甲1考案
(ア) 甲1考案におけるベッドマットレス1は、ベッドフレーム8の一部であるマットレス支持板の上に置かれているだけであり、マットレス支持板と離れないように続け合わされているものではない。そうすると、ベッドマットレス1の底部に固定されたスラット3(本件考案1における「支持板」に相当)が、ベッドフレーム8と離れないように続け合わされているとはいえず、その結果、スラット3は、ベッドフレーム8の一部であるヘッドボード及びフットボードと離れないように続け合わされているともいえない。
したがって、甲1考案は、本件考案1の、支持板と「接続されている」との構成を備えているとは認められない。
(イ) これに対し、被告は、ベッドマットレス1(及びこれに取り付けられたスラット3)は、マットレス支持板の上に単に置いてあるだけではなく、ベッドフレーム8内に差し込まれ、ベッドフレーム8を構成するヘッドボード、フットボード及び側板で四方を囲まれることで、ベッドフレーム8に対して位置ずれ等をしない状態をとるものであるから、「接続されている」に当たると主張する。
しかしながら、甲1考案において、ベッドマットレス1及びベッドフレーム8の大きさについては特段開示がなく、ベッドマットレス1が、ベッドフレーム8に対し、その四方において、離れないように続け合わされている、と評価できる程度に密着し、位置ずれしない状態になっていることは読み取ることができない。
したがって、被告の上記主張には理由がない。
(3) 本件考案1と甲1考案との対比
上記(1)及び(2)で検討したところによれば、甲1考案は、「支持脚」との構成を備えておらず、この点において、本件考案1と相違している。
また仮に、甲1考案におけるヘッドボード及びフットボードが本件考案1の「支持脚」に相当すると解したとしても、これらは、支持板と「接続されている」との構成を備えていないから、本件考案1と相違している。』
[コメント]
審決において『本件考案1の「前記支持板と着脱可能に接続されている複数の支持脚」「を備える」という構成について、「接続されている」態様は、直接とも間接とも特定していないから、支持板と支持脚とは、直接であれ間接であれ接続されていればよいものと認められる。このような解釈は、本件考案5で「前記支持脚は前記補強板により前記支持板に接続されている」(すなわち支持脚は間接的に支持板に接続されている)こととも整合する。なお、本件考案1の当該構成が、間接的に接続するものも含むことについては、当事者間にも争いはない(令和6年8月19日期日の第1回口頭審理調書の陳述の要領の被請求人の項目5を参照。)。その上で、甲1考案の「スラット3」と「支持脚」との関係についてみると、甲1考案は、「ベッドマットレス1は、ベッドフレーム8に挿入された状態において、2つの支持脚及び2つの側板で四方を囲まれており、」「個々のスラット3は、」「バンド5を介して、側板に設けられたマットレス支持板で支持され」るものであるから、「スラット3」は、バンド5、マットレス支持板及び側板を介して、「支持脚」と間接的に「接続されている」といえる。さらに、甲1考案の「ベッドマットレス1」は、「ベッドフレーム8に挿入された状態において、2つの支持脚及び2つの側板で四方を囲まれ」るものであるから、ベッドマットレス1(及びこれに取り付けられたスラット3)は、支持脚及び側板により位置ずれが生じないようにベッドフレーム8(及びこれに備えられた支持脚)に保持されるとともに、挿入されたベッドマットレス1(及びこれに取り付けられたスラット3)は、ベッドフレーム8(及びこれに備えられた支持脚)から取り外すことも可能と認められるので、「スラット3」は、「支持脚」に対して「着脱可能」といえる。すなわち、「スラット3」は「支持脚」に対して「着脱可能」であり、かつ、「スラット3」は「支持脚」に「接続されている」と認められる。そうすると、甲1考案の「ベッドマットレス1を挿入 するベッドフレーム8の長手方向の両端部に備えられた2つの支持脚」「を備え」、「ベッドマットレス1は、ベッドフレーム8に挿入された状態において、2つの支持脚及び2つの側板で四方を囲まれており、」「個々のスラット3は、」「バンド5を介して、側板に設けられたマットレス支持板で支持され」る構成は、本件考案1の「前記支持板と着脱可能に接続されている複数の支持脚」「を備える」構成に相当する。』と判断されている。
つまり、審決において「支持脚」と「ヘッドボード及びフットボード」とは一致点として認定されたところ、判決において相違点であると認定が覆されたことは妥当であると思われる。
一方、「接続されている」について、明細書には、段落0028に「支持板12が連結帯13によりマットレス本体11に接続され、連結帯13が接着又は縫製の方式によりマットレス本体11に固定されてもよく、そして、支持板12が連結帯13に接続され、支持板12と連結帯13との接続は、支持板12とマットレス本体11との接続の安定性を向上させるように、U型釘で接続されてもよい。」との記載があるのみである。請求項1において、「マットレス本体に接続されている複数の支持板」および「前記支持板と着脱可能に接続されている複数の支持脚」の2つが特定されており、「接続」については、判決での解釈のとおり「離れないように続け合わされている」ものだとしても、「着脱可能に接続」については、判決では、争点および認定についての言及されていないように思われる。本件考案「ベッド」の使用状態において「離れないように続け合わされ」ていなければ機能し得ないものであることは一般的に理解でき、一方、甲1考案でも同じベッドである以上、ベッドマットレス1及びベッドフレームが使用時実質的に位置ずれなく動かないようになされてものと一般的に理解できる。そして、両者においてマットレスはいずれも巻いて搬送できる形態である。
そうすると、無効審判が再開されたときに、上記相違点を前提に進歩性の判断がなされると思われ、審判の経過を注視したいと考える。なお、令和8年1月13日付け「伺い回答書」において、審判着手は令和8年3月から4月ごろに予定されている。
以上
(担当弁理士:丹野 寿典)
令和7年(行ケ)第10003号「ベッド」事件
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