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令和7年(行ケ)第10039号「活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、ハードコート積層フィルム、及びガラス外貼り用フィルム」事件

名称:「活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、ハードコート積層フィルム、及びガラス外貼り用フィルム」事件
特許取消決定取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和7年(行ケ)第10039号 判決日:令和8年1月15日
判決:決定取消
条文:特許法第29条第2項
キーワード:進歩性、動機付け
判決文:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-95426.pdf

[概要]
主引用発明(甲2発明)の課題解決に必須の構成である紫外線吸収剤の特定範囲の最大吸収波長に関する記載がない副引用例(甲1)に記載の紫外線吸収剤を、主引用発明に採用する動機付けがあるとは言えないとして、本件訂正発明の進歩性を否定した特許取消決定が取り消された事例。

[特許請求の範囲]
【請求項1】(本件訂正発明1)
実使用状態において太陽光が入射する側の表面から順に、ハードコート、アンカーコート、及び樹脂フィルムの層を有し;
上記ハードコートは、実使用状態において太陽光が入射する側の表面を形成し、
上記ハードコートは、1分子中にベンゾトリアゾール骨格、トリアジン骨格、及びベンゾフェノン骨格からなる群から選択される1種以上の骨格を1個以上有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、1モル%以上の量で含む(A)重合体を含む第1の塗料からなり(但し、上記ハードコートから、樹脂成分として有機骨格に無機成分が結合した有機無機複合体を含むものを除く);
上記アンカーコートは、1分子中にベンゾトリアゾール骨格、トリアジン骨格、及びベンゾフェノン骨格からなる群から選択される1種以上の骨格を1個以上有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、1モル%以上の量で含む(P)重合体を含む第2の塗料からなり;
ここで、上記(P)重合体から、反応性シリル基を有するモノマーを、全モノマー成分を100質量%として、50~90質量%の量で重合してなるものを除くものとする、
ハードコート積層フィルム。

[本件決定の理由]
本件訂正発明1と主引用発明(甲2発明)との相違点2に関して、主引用発明(甲2発明)と副引用例(甲1)には、アンカーコートが紫外線吸収の機能を有することが記載され、甲2発明におけるアンカーコートとして、甲1記載事項を採用し、相違点2に係る本件訂正発明1の構成に容易に想到し得たものであるとして、本件訂正発明1等の進歩性を否定した。

[本件訂正発明1と主引用発明(甲2発明)との相違点]
(相違点2)
本件訂正発明1は「上記アンカーコートは、1分子中にベンゾトリアゾール骨格、トリアジン骨格、及びベンゾフェノン骨格からなる群から選択される1種以上の骨格を1個以上有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、1モル%以上の量で含む(P)重合体を含む第2の塗料からなり;ここで、上記(P)重合体から、反応性シリル基を有するモノマーを、全モノマー成分を100質量%として、50~90質量%の量で重合してなるものを除くものとする」のに対して、甲2発明は「アンカーコート層」が「最大吸収波長が360nm以上400nm以下である紫外線吸収剤を含む」点。

[主な取消事由]
取消事由1(本件訂正発明1の進歩性判断の誤り)

[裁判所の判断]
『1 取消事由1(本件訂正発明1の進歩性判断の誤り)について
・・・(略)・・・
(4) 相違点2についての検討
・・・(略)・・・
イ 検討
原告は、相違点2について、甲2発明においてアンカーコート層に含ませる紫外線吸収剤の最大吸収波長が「360nm以上400nm以下」であることは必須の構成であり、これを失わせることは甲2発明の目的を失わせるものであるから、当業者は、最大吸収波長の数値範囲を必須の構成とする甲2発明に、最大吸収波長の記載がない甲1吸収剤を採用しようと試みることはないから、甲2発明に甲1記載事項を適用する動機付けはないと主張する。
そこで検討すると、上記アに認定した甲2の記載によると、次の点を指摘することができる。
すなわち、甲2発明は、紫外線の吸収特性、熱線の吸収特性、耐傷付き性、透明性、耐候性、塗膜密着性に優れるガラス外貼り用フィルムを提供することを課題とし、これを解決するため、ポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の面にアンカーコート層及びハードコート層を積層し、他方の面に熱線吸収剤を含む裏面コート層及び粘着層を積層したガラス外貼り用フィルムにおいて、ポリエチレンテレフタレートフィルム、アンカーコート層及びハードコート層の全てに紫外線吸収剤を配合するとともに、紫外線吸収剤の最大吸収波長を各層で特定範囲、具体的には、アンカーコート層において360nm以上400nm以下、ハードコート層において200nm以上360nm未満に設定し、かつ、ハードコート層において紫外線吸収剤が樹脂成分と結合してなる構成としたものである。
ここで、甲2には、アンカーコートに用いる紫外線吸収剤としては、最大吸収波長が360nm以上400nm以下であるものの中から適宜選択すればよいが、ベンゾフェノン系が好ましい旨が記載されている。
他方、甲1には、実施例として、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面にA層(紫外線吸収層)及びB層(耐候性表面硬度化層)を順に積層し、A層の塗料組成物として「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(30wt%)共重合メチルメタクリレート」・・・(略)・・・が含まれる構成の光触媒コート用積層フィルムが記載されているが、甲1には、紫外線吸収剤に相当する「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール」(甲1吸収剤)の最大吸収波長を読み取ることができる記載はない。
そうすると、アンカーコートに用いる紫外線吸収剤として、最大吸収波長が360nm以上400nm以下であるものの中から適宜選択すればよいとされる甲2発明に接した当業者が甲1の記載に接したとしても、最大吸収波長が明らかではない甲1吸収剤を、甲2発明のアンカーコートに用いる紫外線吸収剤として採用する動機付けがあるとはいえず、これを左右する技術常識等も認められない。
よって、当業者が、本件優先日当時、甲2発明及び甲1の記載に基づいて、相違点2に係る本件訂正発明1の構成に容易に想到できたということはできず、これを容易に想到できるとした本件決定には誤りがある。』

『(5) 被告の主張について
ア 被告は、本件決定が、甲2発明におけるアンカーコートの紫外線吸収剤として、甲1記載事項の「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(30wt%)共重合メチルメタクリレート」のようなベンゾトリアゾール系紫外線吸収モノマー共重合アクリル樹脂を採用することは容易に想到できたと判断したものである旨を主張し、原告の主張の前提を争うほか、甲2発明と甲1記載事項から、相違点2に係る本件訂正発明1の構成に容易に想到し得た旨を主張する。
しかし、相違点2に係る本件決定の判断は、前記第2の3(5)のとおり、「甲2発明におけるアンカーコートとして甲1記載事項のものを採用することは、当業者が容易に想到できた」というものである。・・・(略)・・・しかるところ、本件決定には、甲2発明における「紫外線吸収剤」として、甲1記載事項のうち紫外線吸収剤に相当する「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール」(甲1吸収剤)のようなものを採用するとか、「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収モノマー共重合アクリル樹脂」を採用するなどの記載は見られないのであって、このような理由の記載のみから、本件決定が、甲2発明におけるアンカーコートの紫外線吸収剤として、「2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(30wt%)共重合メチルメタクリレート」のようなベンゾトリアゾール系紫外線吸収モノマー共重合アクリル樹脂を採用することは容易に想到できた旨の理由が記載されていると読み取ることは困難である。
この点を措くとしても、甲2には、アンカーコート層に用いる紫外線吸収剤としては、最大吸収波長が360nm以上400nm以下であるものの中から適宜選択すればよいが、ベンゾフェノン系が好ましい旨が記載されているところ、そのような甲2発明につき、最大吸収波長が甲1の記載からは明らかではなく、かつ、ベンゾフェノン系でもないベンゾトリアゾール系紫外線吸収モノマー共重合アクリル樹脂を採用する動機付けがいかなる理由により認められるのかに関して、本件決定の論理は不明瞭というほかない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
・・・(略)・・・
(6) 小括
以上によると・・・(略)・・・本件決定には取り消されるべき違法がある。原告の主張する取消事由1には理由がある。』

[コメント]
通常、本件訂正発明1のような化学分野の審査において、主引用発明と副引用例に紫外線吸収剤が記載され、技術分野や課題などが共通するのであれば、組合わせることについて、動機付けがあると判断されるものと考える。
一方、本事案では、主引用発明(甲2発明)の課題解決に必須の構成となる紫外線吸収剤の最大吸収波長(パラメータ)に関して、副引用例(甲1)の記載事項である紫外線吸収剤に、そのようなパラメータに関する記載がなく、主引用発明(甲2発明)に副引用例(甲1)の記載事項を組み合わせることについての動機付けがあるとは言えないと判断した点は参考になる。
なお、本事案で、被告(特許庁)は、本件訂正発明1の進歩性を否定するにあたり、主引用例(甲2)にベンゾフェノン系が好ましいことが記載されているのに対して、ベンゾフェノン系ではなく、ベンゾトリアゾール系の甲1吸収剤を甲2発明に採用することについて、明確な主張を行っていないため、裁判所は、被告の主張に基づいても、本件訂正発明1に容易に想到できたとは読み取ることは困難であると指摘している点には留意が必要である。
また、被告が、ベンゾトリアゾール系の甲1吸収剤の最大吸収波長が、主引用発明(甲2発明)の紫外線吸収剤の最大吸収波長(パラメータ)と重複することを示すことができていれば、裁判所の判断が変わっていた可能性があるものと考える。
以上
(担当弁理士:西﨑 嘉一)

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