IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
令和6年(ワ)第4753号「物質の放射熱軽減塗料及び放射熱軽減方法」事件
名称:「物質の放射熱軽減塗料及び放射熱軽減方法」事件
特許権侵害差止等請求事件
大阪地方裁判所:令和6年(ワ)第4753号 判決日:令和8年4月16日
判決:請求棄却
特許法70条
キーワード:構成要件充足性
判決文:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-95963.pdf
[概要]
被告製品は、構成要件A「空気中の水分によって硬化反応するアルコキシシロキサンをビヒクルの主成分とし、」を充足しないとして、特許権者である原告の被告に対する特許権侵害行為差止等請求等が棄却された事例。
[特許請求の範囲]
【請求項1】
A 空気中の水分によって硬化反応するアルコキシシロキサンをビヒクルの主成分とし、
B 金属粉末と溶剤を混合したものであって、
C 該金属粉末の混合量は、該ビヒクル100容積部に対して金属粉末が30~50容積部であり、
D 該金属粉末は、アルミニウム粉末、銀粉末、クロム粉末、ニッケル粉末の中から選ばれる1又は複数のものであり、
E さらに沈降防止剤を混合したことを特徴とする
F 放射熱軽減塗料。
[主な争点]
争点1-1:被告各製品が構成要件Aを充足するか
[裁判所の判断]
『2 争点1-1(被告各製品が構成要件Aを充足するか)について
被告各製品におけるビヒクルの主成分が「アルコキシシロキサン」(構成要件A)と認められるかにつき検討する。
(1)甲8等試験の評価について
原告は、被告製品3をPyGC/MS法で分析した甲8試験により、①ヘキサメチルシクロトリシロキサン、②オクタメチルシクロテトラシロキサン、③メチルフェニルオリゴシロキサンが検出されたところ、別紙「原告主張の熱反応の過程図」のとおり、これらの熱反応前の3つの化合物はいずれもアルコキシシロキサンであることから、被告製品3のビヒクルの主成分はアルコキシシロキサンである旨主張し、甲51試験のとおり、被告製品1及び2についても同様である旨主張する。
この点、上記①ないし③のシロキサンの生成方法として、一般に、シラノール基を有するシリコーンレジンの「熱硬化」と、アルコキシ基を有するシリコーンオリゴマーの「湿気硬化」の2種類の反応が考えられることは当事者間に争いがないところ、原告の主張を前提とすると、湿気硬化の反応によって上記①ないし③のシロキサンが生成されたことになる。しかし、甲8等試験は、試料に600℃の熱を加えるものであるが(「加熱条件:600℃×0.2分間」
との記載。甲8、51)、この加熱により、熱硬化ではなく湿気硬化の反応が生じたといえることを認めるに足りる証拠はない。
(2)被告製品の硬化過程に関する原告の主張ついて
原告は、被告各製品の製品使用説明書(甲4~7)に「乾燥時間」や「半硬化乾燥」についての記載があることを根拠に、被告製品は熱硬化ではなく湿気硬化により塗膜が形成されるタイプの塗料であるとも主張する。しかし、上記説明書に「所定塗膜性能を得るためには、200℃60分以上の加熱が必要です。」と記載されていることに加え、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●(乙10)にも、「加熱硬化」についての説明として●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●と記載されていることに照らせば、被告各製品は、熱硬化により塗膜が形成されるタイプの塗料であると認められる。他方で、日本産業規格(JIS)の「塗料一般試験方法」(甲23)に、「4.3.5 評価 製品規格に規定する乾燥時間を過ぎたとき、次のいずれかの方法によって乾燥の程度を調べる。」、「b)半硬化乾燥 塗面の中央を指先で静かに軽くこすって塗面にすり跡が付かない状態」とあることからすれば、原告が指摘する上記説明書の「乾燥時間」や「半硬化乾燥」についての記載は、物理的な乾燥のプロセスに関するものにすぎないと解され、原告の主張は採用できない(なお、甲51試験によれば、被告製品4については前記③のシロキサンしか生成されていないが、いずれにしても、被告各製品につき、原告の主張が採用できないことに変わりはない。)。
以上のことは、むしろ、被告各製品にはシリコーンレジンである樹脂A又は樹脂Bが配合されているとの被告の主張に沿うものといえる。
(3)甲19等試験について
ア 原告の主張
原告は、甲19等試験により得られた1H-NMRスペクトルには、いずれもシリコーンポリマーの構造に帰属すると推定されるメトキシ基(アルコキシ基の一種)のピーク(3.66ppm)が認められ、また、かかるメトキシ基はケイ素と直接結合している(メトキシシリル基である)と推定される旨主張する。
イ 3.66ppm付近のピークの評価
甲19等試験における1H-NMRスペクトルには、3.66ppm付近にピークが認められるものの(甲19、20、52)、いずれも通常倍率のスペクトル(添付資料1)を188.4倍に拡大したスペクトル(添付資料3)において観察可能な程度の極めて微弱なものであり、メトキシ基が存在することは認め得るとしても、シリコーンポリマー(樹脂)や塗料全体の性質に影響を及ぼすほどの量で存在しているものとは考えにくい。
すなわち、主成分であるシリコーンポリマー(樹脂)に由来するメトキシ基にしてはピークが微弱にすぎ、試料に配合されたシリコーンポリマー(樹脂)以外の顔料、溶剤、添加剤等に由来するものである可能性が否定できないというべきである。このことは、高分子のシリコーンポリマー(樹脂)に由来するメトキシ基であれば、一般的に幅の広いブロードのピークが現れると考えられるところ(弁論の全趣旨)、上記スペクトルにおける3.66ppm付近のピークは、いずれもシャープな形状となっていることからもうかがわれる』
[コメント]
原告が、被告各製品の製品使用説明書に「乾燥時間」や「半硬化乾燥」についての記載があることを根拠に、被告製品は熱硬化ではなく湿気硬化により塗膜が形成されるタイプの塗料であるした主張は、無理があるように思われる。被告各製品の製品使用説明書は、甲4~7号証とされていることから、原告が提出した証拠である。この説明書には、「所定塗膜性能を得るためには、200℃60分以上の加熱が必要です。」と記載されており、シリコーン樹脂の熱硬化温度として200℃は一般的であることから考えると、原告としては、被告製品は、熱硬化タイプと理解できたであろう(湿気硬化タイプであるならば、常温での硬化反応で塗膜性能が得られるはずである)。
原告は、被告製品について、PyGC/MS法で分析した結果から、被告製品のビヒクルの主成分がアルコキシシロキサンであることを立証しようとしたが、立証しきれなかった。ただ、本件においては、立証しきれなかったというよりも、被告が主張しているように、そもそも被告製品に使用される樹脂A及び樹脂Bはアルコキシシロキサンではなかったと解する方が自然であろう。裁判所の判断は、妥当であると考える。
以上
(担当弁理士:奥田 茂樹)
令和6年(ワ)第4753号「物質の放射熱軽減塗料及び放射熱軽減方法」事件
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