IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
平成23年(行ケ)第10152号 「水性樹脂分散組成物およびその製造方法」事件
名称:「水性樹脂分散組成物およびその製造方法」事件
拒絶審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成23年(行ケ)第10152号、判決日:平成24年2月28日
判決:審決取消
特許法:29条2項
キーワード:進歩性
[概要]
審決は、引用発明(刊行物1に記載の発明)において、塩素化ポリオレフィンにアクリル酸系
モノマーをグラフト化および重合させることによりアクリル酸系修飾化塩素化ポリオレフィンを
調製する際に、アクリル酸系モノマーとして無水マレイン酸を使用することが可能であり、アク
リル酸系モノマーとして無水マレイン酸を採用することに格別の困難性はない、として進歩性な
しと判断した。
[主な争点]
取消事由2・・・下記相違点1に対する容易想到性の判断の誤り
相違点1
「酸変性塩素化ポリオレフィン」が、本願発明では「ポリプロピレンおよびプロピレン-α-
オレフィン共重合体から選ばれる少なくとも1種に対し、無水マレイン酸のみを1~5重量%グ
ラフト共重合して酸変性ポリオレフィンを得た後に,この酸変性ポリオレフィンを塩素化してな
る」ものであるのに対し,引用発明では「アクリル酸系モノマー(無水マレイン酸は例示の1つ
にとどまる。)を塩素化ポリオレフィンにグラフト化および重合させることにより調製」された
ものである点
[裁判所の判断]
刊行物1の記載によると、引用発明においては、塩素化ポリオレフィンをアクリル酸系誘導体
(判決注:「アクリル酸系ポリマー」や「アクリル酸系樹脂」も同じ意味であると解される。)
でグラフト化により修飾する場合、「塩素化ポリオレフィンにグラフト化したアクリル酸系誘導
体」は「少なくとも約2000の重量平均分子量を有するものであること」が必要であると認め
られる。また、本願前あるいは本願後に頒布された文献には、無水マレイン酸をポリオレフィン
にグラフト化した場合には、無水マレイン酸はモノマーグラフトあるいは平均重合度が約2の短
いオリゴマーグラフトすることが記載されている。
したがって、塩素化ポリオレフィンに無水マレイン酸のみをグラフト化しても、少なくとも約
2000の重量平均分子量を有する高い重合度のグラフト鎖が形成されるとは考え難く、刊行物
1に「無水マレイン酸」があげられているとしても、刊行物1に接した当業者が、塩素化ポリオ
レフィンに無水マレイン酸のみをグラフト化して、少なくとも約2000の重量平均分子量を有
するグラフト鎖(アクリル酸系誘導体)が形成できると考えるとは認め難い。
以上のとおり、本願発明のうち、ポリオレフィンに無水マレイン酸のみを使用して酸変性を行
うということが、引用発明に接した当業者が容易に想到し得たものであるとはいえず、審決には
この点において誤りがある。
[コメント]
特許庁は、刊行物1には、アクリル酸系誘導体(グラフト鎖)の原料である「エチレン性不飽
和カルボン酸またはその無水物」の例として、「マレイン酸無水物」が「アクリル酸、メタクリル
酸」と何ら区別されずに記載されていることを根拠にして、無水マレイン酸はアクリル酸等と同
様にアクリル酸系モノマーの例示の一つであると判断した。しかし、当業者であれば、「アクリル
酸系誘導体」の「アクリル酸系」との文言から、「アクリル酸系誘導体」は、モノマーとして少
なくともアクリル酸、メタクリル酸、又はそれらのエステルを用いていると理解するはずであり、
「無水マレイン酸のみ」を用いることも可能であるとは理解することができないと考えられる。
本件では、特許庁が刊行物1の記載内容に固執し、当業者の技術常識を考慮しなかったことが
誤った判断につながった。
以上
平成23年(行ケ)第10152号 「水性樹脂分散組成物およびその製造方法」事件
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