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平成23年(行ケ)10345号「半導体研磨用組成物」事件

名称:「半導体研磨用組成物」事件
拒絶審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 23 年(行ケ)10345 号 判決日:平成 24 年 4 月 24 日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:本願発明と引用発明の一致点及び相違点
[概要]
原告が、審決には、相違点1の認定の誤り(取消事由1)、相違点1及び2に係る容易想到性
の判断の誤り(取消事由2)があり、その結論に影響を及ぼすとして審決の取消しを求めた
事案。
[本願発明]
ヒュームドシリカの水分散液であって、
粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数が60万個/ml以下であり、かつ
粒径1μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数が6000個/ml以下
であることを特徴とする半導体研磨用組成物。
[引用発明]
ヒュームドシリカの水分散液であって、
砥粒分散液50μl中に含まれる0.5μm以上の凝集粒子数が9100個又は1万13
00個である半導体研磨用組成物。
[一致点]
「ヒュームドシリカの水分散液であって、粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒
子数が62万個/ml未満である半導体研磨用組成物」である点。
[相違点1]
粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数の上限について、本願発明では、「6
0万個/ml」であるが、引用発明では、「22万6千個/mlを超え62万個/ml未満」
である点。
[相違点2]
粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数について、本願発明では「6000
個/ml以下」であるのに対して、引用発明では具体的範囲が明らかでない点。
[裁判所の判断]
1.相違点1の認定について
刊行物1には、ヒュームドシリカの水分散液である半導体研磨用組成物のうち、砥粒分散
液50μl中に含まれる0.5μm以上の凝集粒子数が、それぞれ、実施例1では18万2
000個/ml、実施例2では22万6000個/ml、及び実施例4では28万個/ml
である半導体研磨用組成物が開示されている。そうすると、本願発明と引用発明とは、粒径
0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数について、本願発明では「60万個/ml
以下」であるのに対して、引用発明では、「18万2000個/ml、22万6000個/m
l又は28万個/ml」である点において相違すると認定されるべきである。
なお、刊行物1における比較例1として、「砥粒分散液50μl中に含まれる0.5μm以
上の凝集粒子数が62万個/mlである半導体研磨用組成物」が記載されているが、刊行物
1中の上記比較例の記載から直ちに、刊行物1において、0.5μm以上の凝集粒子数の「上
限」が「62万個/ml未満」であるとの技術が開示されていると認定することはできない。
2.相違点2に関し、課題解決のために複数の手段を重畳的に採用することの困難性につい
ての判断の誤り(取消事由2の1)について
(1)引用発明に刊行物2に開示された発明を組み合わせることについて
引用発明及び刊行物2に記載された発明は、本願発明と同様に、半導体研磨用のヒューム
ドシリカの水分散液において、凝集粒子が原因で発生するスクラッチを低減させることを解
決課題としたものであり、解決課題において共通する。引用発明に接した当業者が、引用発
明における、ヒュームドシリカの水分散液中の0.5μm以上の粒径を有するヒュームドシ
リカの凝集粒子を適宜選択した範囲の個数とし、かつ、スクラッチの発生をより確実に防止
するために、刊行物2に開示された発明を組み合わせ、ヒュームドシリカの水分散液中の1.
0μm以上の粒径を有するヒュームドシリカに着目して、その凝集粒子数を適宜選択した範
囲の個数とすることに、困難な点はない。
(2)原告の主張について
原告は、刊行物2に記載された事項を引用発明に適用するだけでは、粒径0.5μm以上
のヒュームドシリカ粒子及び粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子の各粒子数を本願
発明の範囲内とすることは容易ではないと主張する。
しかし、本願発明は、製造方法の発明ではなく、物の発明である。粒子数を一定の範囲内
とする方法は、上記①(混合)や②(高圧ホモジナイザーによる分散)に限られず、周知技
術も採用し得るのであり、これらの手段を適用することによって、粒子数を一定の範囲内と
することは可能であるから、半導体研磨用組成物の製造方法が容易でないことを理由に、本
願発明が容易でないとする原告の主張は、主張自体失当である。
3.相違点1及び2の臨界的意義についての判断の誤り(取消事由2の2)について
(1)相違点1について
引用発明では、ヒュームドシリカの水散液中の0.5μm以上の凝集粒子数が、18万2
000個/ml、22万6000個/ml、又は28万個/mlである実施例の開示がされ、
これらはいずれも本願発明における粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数で
ある「60万個/ml以下」に該当する。さらに、本願明細書の記載からは、粒径0.5μ
m以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数として「60万個/ml以下」の数値を採用したこ
とに格別な技術的意義があるとは認められない。したがって、引用発明に接した当業者が、
本願発明の相違点1に係る構成を採用することは容易であると認められる。
(2)相違点2について
本願明細書、刊行物1等の記載によると、ヒュームドシリカの水分散液である半導体研磨
用組成物において、ヒュームドシリカの凝集粒子が少ないほど、研磨面におけるスクラッチ
を低減させることができるということは、本願時において、当業者の技術常識であったと認
められる。さらに、本願明細書からは、粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子
数として「6000個/ml以下」の数値を採用したことに格別な技術的意義があるとは認
められない。
したがって、刊行物1及び刊行物2に接した当業者が、引用発明に刊行物2に開示された
発明を組み合わせた上で、1.0μm以上の粒径を有するヒュームドシリカ粒子の粒子数を、
刊行物2では、0.5mlの水性分散体中に10万個以下となっているところ、スクラッチ
の発生をより低減させるため、さらにその粒子数を減少させて、本願発明の相違点2に係る
構成である6000個/ml以下とすることは、容易であると認められる。

平成23年(行ケ)10345号「半導体研磨用組成物」事件

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