IP case studies判例研究

平成23年(行ケ)10273号「2次元面発光レーザアレイ」事件

名称:「2次元面発光レーザアレイ」事件
特許審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 23 年(行ケ)10273 号 判決日:平成 24 年 5 月 28 日
判決:請求認容(審決取消)
特許法 29 条 2 項
キーワード:容易想到性,引用発明の誤認
[概要]
補正後の「2次元面発光レーザアレイ」に係る本件発明について、『引用刊行物に記載された引
用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項
の規定により,特許を受けることができない』とした本件審決の判断が否認され、当該判断の誤
りを主張した審決取消の請求が認容された事例。
[特許請求の範囲](補正後:原請求項1+2)
〔請求項1〕
面発光レーザ素子が,副走査方向にm行(mは2以上の整数),主走査方向にn列(nは3以上
の整数)で2次元状に配列され,画像形成装置の露光用光源として用いる2次元面発光レーザア
レイであって,(構成A)
前記面発光レーザ素子の個別駆動用の電気配線を配するためのメサ間の間隔が,前記メサ間を通
過させる前記電気配線数に応じ,前記m行方向における間隔が大きくなるように割り振られた構
成とするに当たり,(構成B)
前記メサにおけるj列とj+1列の前記m行方向の間隔をDj,(構成C)
i行j列の素子とi行j+1列の素子との間を通過する配線数(1≦i≦m,1≦j≦n-1)
をFij,(構成D)
F1j,F2j,…Fmjの中で最大の値をCj,とし,(構成E)
Cj=T(1≦j≦n-1,Tは正の整数)を満たす全てのjに対してそれぞれのDjを以って
その要素とする集合をgTとしたとき,(構成F)
集合gT1と集合gT2が空集合でない0<T1<T2なる正の整数T1,T2が少なくとも1
組以上存在し,(構成G)
前記面発光レーザ素子の前記電気配線における配線幅の最小値をE,(構成H)前記集合gTの要
素の中で最小の値のものをST,平均値をMT,とし,(構成I)
任意の2つの0<T1<T2なる正の整数T1,T2に対して,集合gT1と集合gT2が共に
空集合でないとき,(構成J)つぎの条件式(1)を満たすように構成されていることを特徴とす
る2次元面発光レーザアレイ。(構成K)
ST2-MT1>E×(T2-T1)……(1)(構成L)
[争点](原告主張の審決取消事由)
争点1:相違点についての判断漏れ
争点2:容易想到性の判断誤り
争点3:阻害事由
[裁判所の判断]
特許庁が不服2010-15214号事件について平成23年7月13日にした審決を取
り消す。訴訟費用は被告の負担とする。審決は,当裁判所が前記3(2)の末尾に摘示した説示部
分(引用刊行物段落〔0009〕の記載)を前提にして,相違点に係る本願発明の構成は容易想
到であると判断したが,この判断部分は,引用刊行物の記載の誤認に基づくものであって,相違
点に関する審決の判断も誤りである。その理由は,以下のとおりである。
(1) 原告主張の取消事由(争点1~3)について
最外周に位置する面発光レーザ素子の間を通過する配線の本数が複数本となる引用発明に
おいて,この複数本の配線を配するために面発光レーザ素子の間隔を積極的に広くしようと
すること(本願構成B,L等)の記載や示唆は引用刊行物にはない。よって,審決が,相違
点につき判断するに際し,引用刊行物の記載を根拠に,「少なくとも,上記複数本分の配線が
上記面発光レーザ素子の間を通過できる程度に,当該配線を挟んで配列される面発光レーザ
素子間の間隔を広くすることは,当業者が容易に想到し得ることである。」と説示したのは誤
りである。
(2) 引用刊行物についての被告の反論に対し
『引用刊行物について、「レーザ素子間に複数の配線を通すことおよび配線レイアウトに応じ
てレーザアレイの間隔を変化させること」の記載、および図8,9の記載に基づき「その発光ス
ポットが主走査方向に等間隔に並んでいない2次元面発光レーザアレイ」が記載されているので
あるから,「この着想についての記載乃至示唆は引用刊行物には存在しない。」とはいえない。』と
の被告の主張に対して、以下のように判示された。
各素子列が主走査方向にほぼ等間隔に並んでいる図8の記載からは,「発光スポットが主走査
方向に等間隔に並んでいない」とはいえない。したがって,図8の記載から,引用刊行物に
「その発光スポットが主走査方向に等間隔に並んでいない2次元面発光レーザアレイ」が記
載されているとはいえない。各素子列が主走査方向にほぼ等間隔に並んでいる引用刊行物の図9
の記載から「発光スポットが主走査方向に等間隔に並んでいない」とはいえない。したがって,
図9の記載からも,引用刊行物に「その発光スポットが主走査方向に等間隔に並んでいない2次
元面発光レーザアレイ」が記載されているとはいえない。以上のとおり,引用刊行物には,「その
発光スポットが主走査方向に等間隔に並んでいない2次元面発光レーザアレイ」が記載されてい
るとはいえないから,被告の主張は採用できない。
(3) 乙1及び乙2を根拠とする被告の主張について
『「発光スポットが主走査方向に等間隔に並んでいない2次元レーザアレイ」を記載した刊
行物(乙1および乙2)が存在していたのであるから,当業者が上記着想に至ることがなか
ったとはいえない。』との被告の主張に対して、以下のように判示された。
乙1,乙2の記載についてみるに,乙1におけるメサ(発光スポット)間の間隔については,
乙1記載の発光点は副走査方向に異なる位置に配置されること,及び,発光点は副走査方向
に対して傾いた方向に1次元的に配置されていてもよいし,あるいは発光点が2次元的に配
置されていてもよいことが記載されているものの,発光点の主走査方向の間隔についての記
載や示唆はない。したがって,乙1には,「その発光スポットが主走査方向に等間隔に並んで
いない2次元レーザアレイ」が記載されているとはいえない。また,乙2におけるメサ(発
光スポット)間の間隔については,乙2の図13において,発光点は円形に配置されており,
本願発明の前提となる構成(「面発光レーザ素子が,副走査方向にm行(mは2以上の整数),
主走査方向にn列(nは3以上の整数)で2次元状に配列され」るという構成)とは明らか
に異なっている。また,乙2には,発光点が副走査方向に不等間隔で配列することは記載さ
れているものの,発光点の主走査方向の間隔については記載も示唆もない。したがって,乙
2にも,「その発光スポットが主走査方向に等間隔に並んでいない2次元レーザアレイ」が記
載されているとはいえない。
[コメント]
審査(審判)において進歩性なしとの判断された場合において、本願発明の技術思想の開
示の有無に基づき、実務的に有利な判断を得るための参考になる事案である。

平成23年(行ケ)10273号「2次元面発光レーザアレイ」事件

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