IP case studies判例研究

平成23年(行ケ)10315号「回路部材の接続構造」事件

名称:「回路部材の接続構造」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 23 年(行ケ)10315 号 判決日:平成 24 年 6 月 20 日
判決:請求容認(審決取消)
特許法第159条第2項、第50条
キーワード:手続違背、周知技術の認定
[概要]
本件は、名称を「回路接続材料、及びこれを用いた回路部材の接続構造」とする特許出願
に対する拒絶審決の取消訴訟である。審査及び審判段階において出願人に通知しなかった文
献に基づく審決を手続違背として取り消した事例。
[手続の概要]
1.平成 20 年 7 月 4 日;審査段階での拒絶理由通知(29条2項)
引用文献1に対する引用文献2~4の組み合わせが検討。
引用文献1:特開 2001-288244 号公報(甲 16、主引例)
引用文献2:特開平 11-73818 号公報(甲 10)
引用文献3:特開 2003-323813 号公報
引用文献4:特開平 09-312176 号公報
2.平成 20 年 10 月 24 日;拒絶査定、新たな理由提示はなし。
3.平成 22 年 12 月 7 日;審判段階での拒絶理由通知(29条2項)
刊行物1と2との組み合わせが検討。刊行物3,4は周知例
刊行物1:特開 2001-288244 号公報(甲 16)
刊行物2:特開平 11-73818 号公報(甲 10)
刊行物3:特開 2002-75660 号公報(甲 11)
刊行物4:特開 2002-75637 号公報(甲 12)
4.審決:甲 10 を主引用、甲 13{特開 2000-243132 号公報}を副引用として審決。
[審決]
(1)相違点3:本発明は、隣接する突起部間の距離が 1000nm以下である。刊行物では、
凹凸 6 の凸部表面密度の記載があるが、凸部間の距離は不明。
(2)相違点4:突起部の高さが、本発明では 50~500nm、刊行物では 0.05~2μm
(3)相違点3に対する判断
隣接する突起部間の距離が 1000nm以下とするのは周知技術。∵特開 2000-243132 号公
報(甲 13)には,導電性無電解めっき粉体として突起物を有するものが示されており,実施
例として,導電性無電解めっき粉体の平均粒径,突起物の大きさ及び個数が示されている。
これらの記載より、数式を用いれば、隣接する突起部間の距離が明らかとなる。
(4)相違点4に対する判断
甲 13 に実施例として記載されているので、回路部材の接続構造の技術分野において,突起
部の高さを50~500nmとすることも,本件出願前に周知の技術事項である。
[裁判所の判断]
(1)相違点3に関する判断について(判決文 P31~)
審決が主引用発明として刊行物記載の発明を認定した刊行物(甲10)には,突起部を有
する導電性粒子が記載されているが,甲10にはこの粒子の突起部間の距離に関しては記載
されていない。そして,審決は,突起部間の距離の具体的数値に関して,甲13の記載のみ
を引用し,仮定に基づく計算をして容易想到性を検討,判断している。
審決は,「回路部材の接続構造の技術分野において,隣接する突起部間の距離を1000n
m以下とすることは,以下に示すように本件出願前から普通に行われている技術事項である。
例えば」,として,甲13の記載を技術常識であるかのように挙げているが,その技術事項を
示す単一の文献として示しており,甲13自体をみても,回路部材の接続構造の技術分野に
おいて,隣接する突起部間の距離を1000nm以下とすることが普通に行われている技術
事項であることを示す記載もない。
すなわち、甲13の特許請求の範囲の記載には、~略~ が記載され、実施例には製造さ
れたいくつかの導電性粒子の突起の大きさが表2に示されている。しかし,表2に記載され
ているのは,甲13に記載された発明の実施例であって,これらの例が周知の導電性粒子と
して記載されているわけではない。しかも,表2に記載されているものには,実施例4(0.
51μm),実施例5(0.63μm)のように,突起の大きさが500nmを超えるものあ
る。したがって甲13の記載から「回路部材の接続構造の技術分野において,隣接する突起
部間の距離を1000nm以下とすること」や,「回路部材の接続構造の技術分野において,
突起部の高さを50~500nmとすること」が周知の技術的事項であるとはいえない。
してみると,審決は,新たな公知文献として甲13を引用し,これに基づき仮定による計
算を行って,相違点3の容易想到性を判断したものと評価すべきである。すなわち,甲10
を主引用発明とし,相違点3について甲13を副引用発明としたものであって,審決がした
ような方法で粒子の突起部間の距離を算出して容易想到とする内容の拒絶理由は,拒絶査定
の理由とは異なる拒絶の理由であるから,審判段階で新たにその旨の拒絶理由を通知すべき
であった。しかるに,本件拒絶理由通知には,かかる拒絶理由は示されていない。
そうすると,審決には特許法159条2項,50条に定める手続違背の違法があり,この
違法は,審決の結論に影響がある。
(2)相違点4に関する判断について(判決文 P32~)
審決は,「回路部材の接続構造の技術分野において,突起部の高さを50~500nmとす
ることも,本件出願前に周知の技術事項である(例えば」,として甲13を挙げるけれども,
甲13自体をみても,回路部材の接続構造の技術分野において,突起部の高さを50~50
0nmとすることが,本件出願前に周知の技術事項であることを示す記載がないことからす
ると,相違点3についてと同様,審決は,甲13を副引用発明として用いて,相違点4の容
易想到性を判断したものである。甲10を主引用発明とし,相違点4について甲13を副引
用発明として容易想到とする拒絶理由は,拒絶査定の理由とは異なる拒絶の理由であるから,
審判段階の拒絶理由通知でその旨示すべきであったのに,本件拒絶理由通知には,かかる拒
絶理由は示されていない。そうすると,相違点4について甲13の記載を挙げて検討し,こ
れを理由として拒絶審決をしたことについては,審決には特許法159条2項,50条に定
める手続違背の違法があり,この違法は,審決の結論に影響がある
[コメント]
近年、中間処理において、周知技術であるという認定が多々なされることや、頻度は高く
ないが、本件のように新たな文献を通知することなく拒絶査定等がなされることが散見され
るので、このケースに該当するか否かに留意する必要がある。
ただ、次の点は疑問である。
(1)単一の文献がターゲットになっているが、単一の文献から周知技術であると認定する
には、その旨の記載が必要であると読めるが、この認識で正しいか?
(2)複数の文献の場合は、本判決の射程範囲外となるが、複数の文献が挙げられた場合の
有効な対処方法があるのか? また、複数でも発明者や出願人が同一の場合(例えばシリー
ズものの場合)はどうなるか?

平成23年(行ケ)10315号「回路部材の接続構造」事件

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