IP case studies判例研究

平成24年(行ケ)10022号「靴載置用棚板」事件

名称:「靴載置用棚板」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 24 年(行ケ)10022 号 判決日:平成 24 年 9 月 19 日
判決:請求容認(審決取消)
実用新案法第3条第2項
キーワード:容易想到性、課題の認定
[概要]
本件は、名称を「靴受け台」とする実用新案登録に対する無効審判の維持審決の取消訴訟
において、引例及び周知例により容易に考案できるとして審決が取り消された事案である。
[本件考案]
【請求項3】<審決にて維持>
靴載せ部の靴止め部側端部の両隅部に下方に延びる脚部を形成したことを特徴とする請求
項1または請求項2に記載の靴載置用棚板。
【請求項1】<審決にて無効>
上面に靴載せ部が形成された板状部材の一端に靴収納庫に設けられた横桟部材に着脱可能
に掛合する掛合部と、他端に靴止め部とを形成し、靴載せ部の上面と靴載せ部の下方とに靴
を収納した収納姿勢と、掛合部を回転中心として靴止め部側端部を跳ね上げ靴載せ部の下方
に靴を出し入れする跳ね上げ姿勢とに回動可能で且つ掛合部で横桟部材の長手方向に摺動可
能に構成したことを特徴とする靴載置用棚板。
【請求項2】<審決にて無効>
横桟部材に掛合する掛合部が、靴収納用棚板の側面視においてフックもしくは下向きU
字形に掛合部を形成されていることを特徴とする請求項1 に記載の靴載置用棚板。
[審決]
(1)相違点4:本考案は、「靴載せ部の靴止め部側端部の両隅部に下方に延びる脚部を形成」
するのに対し、引用考案では、脚部を形成するものではない点
(2)相違点4に対する判断
下記の理由により容易に考案することができたものではないとして、請求項3は維持され
た。
①「靴載せ部の靴止め部側端部の両隅部に下方に延びる脚部を形成」は周知技術
②棚板の高さを保持する横桟部材と掛合する「掛合部」を備える引例の棚部材の他端に対
し、更に棚板の高さを保持する脚部構成を適用することは、両立に無理があるので、阻害要
因がある点
③引例から掛合部を除いてまで、脚部を形成する動機がない点
④本願は、脚部構成により、掛合部を回動中心として板状部材を回動する際に、脚部の隙
間から手を差し入れて行うことができる格別の効果を有する点
[裁判所の判断]
1.相違点4に係る判断の是非(判決文 P12~)
‥(略)‥本件考案は,靴収納庫用棚板に係る考案であり,横桟部材を保持するための具
体的構成に係る考案特定事項は存在しないから,引用考案において横桟部材に相当する棚パ
イプと左右側板との懸架について,2本の棚パイプによる構成を重視し,当該構成に限定す
る必要性は乏しい。
また,引用考案においては,前方の棚パイプに掛合しているパレット状棚部材と下方に収
納した靴の靴底が接触している床面との間に隙間が存在しているところ,下方に収納した靴
を取り出す場合,パレット状棚部材を掴み,同部材を跳ね上げた上で下方に収納した靴を取
り出すことも可能である。
そうすると,引用考案においても,前方の棚パイプは,本件考案と同様に,パレット状棚
部材を支持し,床面とパレット状棚部材との間に隙間を生じさせているものであるというこ
とができるから,引用考案において,上記効果を奏する構成として,前後2つの棚パイプを
採用するか,一方の棚パイプについて,周知例1ないし3において開示されており,しかも,
棚板の支持体の構成として一般的な構成ともいうべき固定脚の構成を採用することは,当業
者にとってきわめて容易であるものということができる。
この点について,被告は,本件考案は,請求項1考案又は請求項2考案の構成に,脚部の
構成を有機的に組み合わせた構成を採用する点に特徴を有する‥(略)‥脚部は,‥(略)
‥跳ね上げ操作を楽に行うという‥(略)‥格別の効果を奏するための重要な意義を有する
ものであるなどと主張する。
しかしながら,周知例1ないし3により開示された靴載置用板材においても,本件考案と
同様に,床面との間の隙間に手を入れて靴載置用板材の跳ね上げ操作を楽に行うことができ
るものであることは,先に述べたとおりであって,周知技術における脚部においても同様の
効果を奏するものということができる。したがって,被告が強調する「脚部間の隙間に手を
入れて靴収納用棚板の跳ね上げ姿勢を楽に行う」との効果は,脚部を採用したことに伴う格
別の作用効果といえるものではないというべきである。
のみならず,仮に,周知例1ないし3が脚部を採用した目的と本件考案が脚部を採用した
目的とが異なるとしても,靴載せ部を支持する構成として,「脚部」の構成が周知技術である
以上,その適用が必ずしも困難であるということはできない。すなわち,靴収納庫用棚板に
限らず,一般的に棚板の一端をパイプ状の部材に載置し,当該棚板の上下に目的物を収納す
る場合,他端にも同様のパイプ状の部材を設けるか,脚部を設けるかによって棚板と床面と
の間に隙間を生じさせなければ,下方に収納した目的物と棚板とが接触し,棚板及び上方に
収納した目的物の重量により下方に収納した目的物が破損又は変形するおそれがあるのみな
らず,下方に収納した目的物を取り出すことが困難であることは明らかである。本件明細書
には,脚部を採用した効果について,隙間から手を入れて靴収納用棚板の跳ね上げ操作を楽
に行うことのみしか記載されていないが,本件考案において,脚部を設けなければ,靴載せ
部を形成した板状部材が下方に収納した靴に接触することにより,下方に収納した靴が破損
したり変形したりするおそれがあることは明らかであって,当業者が,そのような課題を認
識し,これを解決すべき手段を検討することは,むしろ当然である。
そうすると,脚部を採用することにより生じる効果は,上下に目的物を収納する棚板にお
ける普遍的な効果(目的物の取り出し時に棚板を跳ね上げやすくするため及び下方に収納し
た目的物と棚板との接触を防止するために棚板と床面との間に隙間を生じさせること)にす
ぎないものというほかない。
[コメント]
本件は、脚部構成は周知技術であるところ、格別な効果の主張により審決にて権利が維持
されたと考えられる。裁判においては、格別な効果の妥当性を検討するとともに、引例に記
載はないが当業者であれば当然認識したであろう課題を認定し、当該課題による容易想到性
も判断され、権利が取り消された。情報提供や無効審判、鑑定などにおいて、格別な効果が
妥当な効果であるかを検討するのは勿論のこと、更に当業者であれば当然認識したであろう
課題に基づく進歩性(容易想到性)の判断も検討すべき事項に入れた方がよいことが分かる。
 

平成24年(行ケ)10022号「靴載置用棚板」事件

PDFは
こちら

Contactお問合せ

メールでのお問合せ

お電話でのお問合せ