IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
平成 23 年(行ケ)10398 号「水処理装置(2次)」事件
名称:「水処理装置(2次)」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 23 年(行ケ)10398 号 判決日:平成 24 年 9 月 19 日
判決:請求認容(審決取消)
特許法29条2項
キーワード:進歩性、周知技術、阻害要因
[概要]
訴外会社は、発明の名称を「水処理装置」とする特許出願(特願 2008-157503)の拒絶査
定に対して拒絶査定不服審判(不服 2009-20849)を請求し、特許庁が請求不成立の1次審決
をしたことから、その取消し(平成 22 年(行ケ)10237 号)を求めたことにより、知的財産高
等裁判所がその1次審決を取り消した。
その後、特許庁が同不服審判において請求不成立の2次審決をしたことから、原告は、訴
外会社から特許を受ける権利の譲渡を受けた上で、その取消しを求めた事案。
[争点]
1.一致点・相違点の認定の誤り
1-1 相違点3の認定
1-2 相違点2及び相違点3を別個に認定したこと
2.相違点2及び相違点3に係る判断の誤り
2-1 相違点2に係る判断
2-2 相違点3に係る判断
※以下、争点2-1のみに記載し、それ以外の争点については省略する。
[相違点2]
相違点2は、本願発明では、「容器の供給口には被処理水を供給する管路が接続してあり、
この管路にはオゾン発生装置が連結してあるエジェクターが設けてあり、容器内部には供給
口に連結した噴霧装置が設けてある」のに対して、引用発明では、「オゾン反応タンク1(容
器)の供給口には液体(被処理水)を供給する液体管路4(管路)が接続してあり、オゾン
反応タンク1内部には、オゾンガスが供給されると共に供給口に連結したスプレーノズル2、
3(噴霧装置)が設けてある点、である。
簡単に言えば、相違点2は、噴霧装置を備えた前提における「エジェクターの有無」であ
る。
[裁判所の判断(争点2-1)]
1.本願発明
本願発明は、オゾンを被処理水に効率良く溶解させるために、エジェクターによって圧力
容器内の圧力を高めるとともに、噴霧装置によってオゾンと被処理水の接触面積を増やすも
のであって、「エジェクター」と「噴霧装置」とを併用するものである。
2.引用発明
従来のエジェクターによる接触溶解法では、・・・接触反応器の構造が複雑で、しかも高価
なエジェクターが必要であるという問題があったので、引用発明は、これらの問題を克服す
るために、比較的廉価で入手しやすいスプレーノズルにより微細な液滴を形成することによ
って、・・・接触反応器の構造が複雑で、エジェクターのような複雑で高価な設備を用いる必
要がないという効果を奏するものである。
そうすると、引用発明は、接触反応器の構造が複雑で、しかも高価なエジェクターに替え
て、エジェクターより接触反応器の構造が簡単で安価なスプレーノズルを用いるものである
と認められる。
3.容易想到性
引用発明は、・・・エジェクターに替えて、・・・スプレーノズルを用いるものであるから、
スプレーノズルは、エジェクターの代替手段である。
そうすると、引用発明において、接触反応器の構造が複雑で、しかも高価なエジェクター
を敢えて用いようとする動機付けがあるとはいえない。
また、仮に、引用発明にエジェクターを適用する動機があるとしても、スプレーノズルが
エジェクターの代替手段であるから、その場合は、引用発明におけるスプレーノズルに替え
てエジェクターを適用することになるところ、引用発明には、本願発明のようにエジェクタ
ーとスプレーノズル(噴霧装置)とを併用することの示唆や動機付けがあるとはいえない。
上記のとおり、引用発明には、本願発明のようにエジェクターと噴霧装置とを併用するこ
との示唆や動機付けはないから、「被処理水にガスを供給するにあたり、被処理水にガスを
供給し、ガスが供給された被処理水(被処理水およびガス)を加圧状態で送り出す機能を有
する気液混合のためのエジェクターを管路に設けること」が周知の事項であったとしても、
引用発明に上記周知の事項を適用できるとはいえない。
引用例では、エジェクターは、「複雑で高価な設備」とされ、それを採用しない引用発明
に至ったというのであるから、引用発明が、単にエジェクターを用いなくてもよい発明であ
るとか、エジェクターを用いることによって、引用例に記載されている課題が解決できなく
なるものではないとはいえない。
そして、仮に、引用発明にエジェクターの適用を阻害する事由がなかったとしても、上記
のとおり、引用発明のスプレーノズルは、エジェクターの代替手段であるから、引用発明に
エジェクターを適用しようとすると、スプレーノズルに替えてエジェクターを適用するのが
自然である。よって、引用発明にエジェクターを適用しても、本願発明のようにエジェクタ
ーと噴霧装置とを併用する構成とはならない。
4.小括
相違点2に係る本件審決の判断には、誤りがある。
[コメント]
本件においては、引用発明に周知技術を適用する際に、引用発明が創出された過程(課題、
解決手段)を考慮しているところが参考となる。
一般的に、引用発明に周知技術を適用することは、引用発明と周知技術との技術分野、課
題及び作用効果等の共通性が認められれば、阻害要因等がない限り、本願発明の課題とは関
係なく、その動機付けが肯定されてきた。
しかしながら、引用発明に周知技術を適用することを否定する手段として、今後は、引用
発明が創作された過程を考慮することも有効となり得る。
平成 23 年(行ケ)10398 号「水処理装置(2次)」事件
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