IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
平成24年(行ケ)第10335号「斑点防止方法」事件
名称:「斑点防止方法」事件
拒絶審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成24年(行ケ)第10335号、判決日:平成25年6月6日
判決:審決取消
特許法:29条2項
キーワード:進歩性、動機付け、技術思想
判決全文:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130607092913.pdf
[概要]
本願発明(補正発明)は,次のとおり。
「填料としての炭酸カルシウム及び/又は古紙由来の炭酸カルシウムが存在する製紙工程におい
て,紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止する方法において,
製紙工程水に塩素系酸化剤とアンモニウム塩との反応物を添加する方法であって,該塩素系酸
化剤とアンモニウム塩との反応物を原料系と回収系との双方に添加することを特徴とする斑点防
止方法。」
審決は、『填料として炭酸カルシウムを用いる製紙方法、炭酸カルシウムを填料として用いるこ
とができる中性抄紙又はアルカリ抄紙においては,製紙工程水中で微生物が繁殖し易いこと,及
び製紙工程において,装置の器壁に付着した微生物が微細繊維や填料等を取り込みながら増殖す
ることによってスライムデポジットが生成し,このスライムデポジットが流速により脱落して,
抄紙された紙における斑点等の障害の原因となることは,いずれも周知の事項である。そして,
引用発明の方法によって微生物の増殖抑制又は殺菌が行われると,填料を取り込んだスライムデ
ポジットに起因する斑点が防止されるのであり,微生物の増殖に起因するものである限り,炭酸
カルシウムを主体とする斑点についても,その発生が防止できることは当業者にとって明らかで
ある。よって,補正発明において,「紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止する
方法において」及び「斑点防止方法」と限定した点が格別のものであるとはいえない。以上のこ
とから,相違点1及び相違点2に係る補正発明の構成とすることは,引用発明及び周知の技術に
基づいて,当業者が容易に想到し得ることである。』として進歩性なしと判断した。
[主な争点]
取消事由:下記相違点1及び相違点2に係る容易想到性の判断の誤り
相違点1:補正発明においては,「填料としての炭酸カルシウム及び/又は古紙由来の炭酸カ
ルシウムが存在する製紙工程において」と限定がされているのに対し,引用発明においては,そ
のような限定がされていない点。
相違点2:補正発明においては,「紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止する
方法において」及び「斑点防止方法」と限定されているのに対し,引用発明においては,「水性
システムにおける微生物を殺害し,そして生物汚染を阻害するための方法」と限定されている点。
[原告の主張]
補正発明は,塩素系酸化剤とアンモニウム塩との反応物を製紙工程水にスライムの付着・成長
の防止のために添加するのではなく,炭酸カルシウムの凝集防止のために添加するものであり,
周知例1にはこの点の記載がないのであるから,補正発明は刊行物1及び周知例2に加え,さら
に周知例1を参照しても当業者が容易に想到し得たものではなく,審決の認定は誤っている。
[裁判所の判断]
『補正発明と引用発明とは,製紙工程水に,塩素系酸化剤とアンモニウム塩との反応物を添加
する点で共通するものである。しかし,引用発明は,パルプスラリーの濃原液における微生物を
殺害し,生物汚染を阻害するものであり,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において,紙に発
生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止するものではない。
刊行物1には,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において,微量スライムが炭酸カルシウム
を凝集させることにより,紙に炭酸カルシウムを主体とする斑点が発生すること,また,製紙工
程水に上記一致する反応物を添加することにより,このような斑点を防止できることについては
記載も示唆もない。したがって,刊行物1は,引用発明に係る方法を,炭酸カルシウムが存在す
る製紙工程において実施することにより,紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止
することを動機づけるものではない。
また,補正発明における炭酸カルシウムを主体とする斑点が,従来のスライムコントロール剤
では,その濃度を高くしたとしても十分に防止できず,上記反応物によれば防止できるものであ
ることも考慮すれば,上記の斑点は,填料を含むものではあるものの,補正発明における炭酸カ
ルシウムを主体とする斑点とは異なるものと認めるのが相当である。周知例1,2にも,炭酸カ
ルシウムが存在する製紙工程において,微量スライムが炭酸カルシウムを凝集させることにより,
紙に炭酸カルシウムを主体とする斑点が発生すること,また,製紙工程水に上記反応物を添加す
ることにより,このような斑点を防止できることについては記載も示唆もない。周知例1,2も,
引用発明に係る方法を,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において実施することにより,紙に
発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止することを動機づけるものではない。
そうすると,引用発明に係る方法を,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において実施し,紙
に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止する方法とすること,すなわち,引用発明に
おいて,「填料としての炭酸カルシウム及び/又は古紙由来の炭酸カルシウムが存在する製紙工
程において」と特定するとともに(相違点1),「紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑
点を防止する方法において」及び「斑点防止方法」と特定すること(相違点2)は,当業者が容
易に想到することとはいえない。』と判断して審決を取り消した。
[コメント]
本判決では、本件発明が引用発明と同じ技術分野に属する発明であり、同じ化合物を使用した
場合でも、発明の課題及びその化合物を使用する技術思想が異なれば進歩性が認められる可能性
があることを示している。裁判所は、特許庁と比べて発明の構成と発明の課題及び技術思想との
関連性を重視する傾向にある。
平成24年(行ケ)第10335号「斑点防止方法」事件
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