IP case studies判例研究

平成24年(行ケ)10166号「運動靴用表底」事件

名称:「運動靴用表底」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 24 年(行ケ)10166 号 判決日:平成 25 年 1 月 17 日
判決:請求認容(審決取消)
特許法29条2項
キーワード:進歩性
判決全文:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130204141519.pdf
[概要]
原告は、発明の名称を「運動靴用表底」とする特許出願(特願 2004-510565)の拒絶査定
に対して拒絶査定不服審判(不服 2010-806)を請求し、特許庁が請求不成立の審決をしたこ
とから、その取消しを求めた事案。
[本願発明]
接線方向において弾性変形できる運動靴用表底であって、前記運動靴用表底は、弾性可変
部材と、該弾性可変部材に隔てられた上層と下層とを含み、前記弾性可変部材の変形臨界点
に達したとき、前記上層と前記下層の相互接触に伴い、前記上層と前記下層の接線方向の平
行変形に対して剛性を示すことを特徴とする運動靴用表底
[争点]
本件相違点の容易想到性に係る判断の誤り
・本願発明の特定
・引用発明1の特定と容易想到性の判断
[本件相違点]
『本願発明は,弾性可変部材の変形臨界点に達したとき,上層と下層の相互接触に伴い,上層
と下層の接線方向の平行変形に対して剛性を示すのに対して,引用発明1は,そのような構成を
備えない点』
[裁判所の判断]
1.本願発明の特定
用語「変形臨界点」と「剛性」との意義について、原告は、狭い解釈となる主張をし、被
告は、広い解釈となる主張をしていた。
裁判所は、明細書の記載に基づいて、下記のように、狭い解釈(原告の主張に近い解釈)
で判断した。
『本願発明の「変形臨界点」とは,弾性変形体を備える表底に荷重が掛かった場合に,無
視可能な程度を除けば,荷重により圧着した(上層と下層とが相互接触した)弾性可変部材
が当該荷重によりそれ以上変形できない状態となる限界を意味しており,「剛性」とは,弾性
可変部材が「変形臨界点」に達したことにより,本願発明(表底)が,やはり無視可能な程
度を除き,接線方向にそれ以上平行変形できない状態となることを意味しているものと解す
るのが相当である。』
2.引用発明1の特定と容易想到性の判断
裁判所は、本願発明及び引用発明1のそれぞれ技術的思想(解決課題及び作用効果)を導
き出し、以下のように、判断した。
『引用発明1は,・・・スパイク付き運動靴が,接地の際に急速に停止する機能を有してい
ることを前提として,その機能に起因する課題を解決し,靴底の上部辺が幾分揺れるように
して徐々に停止するという作用効果を有するものであるに対し,本願発明は,・・・既存の運
動靴の表底が接地の際に弾性を備えていることを前提として,その機能に起因する課題を解
決し,表底をそれ以上変形しない状態にして摩擦結合等を生じさせ,運動靴が接地した地点
に堅固に安定させるという作用効果を有するものである。このように,引用発明1は,運動
靴の接地に伴う急速な安定性を解消して弾性をもたらそうとするものであるのに対し,本願
発明は,運動靴の接地に伴う弾性を解消して安定性をもたそうとするものであって,その解
決課題及び作用効果が相反している。したがって,引用例1には,本願発明の本件相違点に
係る構成を採用することについての示唆も動機付けもない。』
3.小括
『引用例1に接した当業者は、これに引用発明2を適用して本願発明の本件相違点に係る
構成を容易に想到することができたということはできない。以上の次第であるから,原告主
張の取消事由には理由があるから,本件審決は取り消されるべきものである。』
[コメント]
本件においては、明細書の記載に基づいて、クレームの用語の意義を解釈したところが参
考となる。
好ましいケースとは言えないが、クレーム上で一義的に明らかと言えない用語で且つ進歩
性に影響する用語については、意見書等で、明細書の記載に基づいた解釈の主張をしておく
ことも、有効となり得る。

平成24年(行ケ)10166号「運動靴用表底」事件

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