IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
平成24年(行ケ)第10454号「KUmA」事件
名称:「KUmA」事件
平成24年(行ケ)第10454号 審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第2部
判決日:平成25年6月27日
判決:請求棄却
関連条文:商標法4条1項7号、15号
キーワード:公序良俗違反、混同を生ずるおそれ
判決全文:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130701091823.pdf
[概要]
本件商標は商標法4条1項7号、15号に該当するため、商標登録を無効とする、とした特許庁
の審決の取消を求めた事案。
[裁判所の判断]
1.取消事由2(商標法4条1項15号該当の判断の誤り)について
(本件商標と引用商標との類似性)
本件商標と引用商標とを対比すると,両者は,4個の欧文字が横書きで大きく顕著に表されて
いる点,その右肩上方に,熊とピューマとで動物の種類は異なるものの,四足動物が前肢を左方
に突き出し該欧文字部分に向かっている様子を側面からシルエット風に描かれた図形を配した点
において共通する。両者の4個の欧文字部分は,第1文字が「K」と「P」と相違するのみで,
他の文字の配列構成を共通にする。しかも,各文字が縦線を太く,横線を細く,各文字の線を垂
直に表すようにし,そして,角部分に丸みを持たせた部分を多く持つ縦長の書体で表されている
ことから,文字の特徴が酷似し,かつ,文字全体が略横長の長方形を構成するようにロゴ化して
表した点で共通の印象を与える。文字の上面が動物の後大腿部の高さに一致する位置関係が共通
しており,足や尾の方向にも対応関係を看取することができる。…以上,共通する構成から生じ
る共通の印象から,本件商標と引用商標とは,全体として離隔的に観察した場合には,看者に外
観上酷似した印象を与えるものといえる。
(取引の実情)
本件商標の指定商品は,引用商標が長年使用されてきた商品等とは同一であるか又は用途・目
的・品質・販売場所等を同じくし,関連性の程度が極めて高く,商標やブランドについて詳細な
知識を持たず,商品の選択・購入に際して払う注意力が高いとはいえない一般消費者を需要者と
する点でも共通する。…衣類や靴等では,商標をワンポイントマークとして小さく表示する場合
も少なくなく,その場合,商標の微細な点まで表されず,需要者が商標の全体的な印象に圧倒さ
れ,些細な相違点に気付かないことも多い。…原告は,原告製品は観光土産品として,観光土産
品の販売場所で販売されていると主張するけれども,観光土産品は,土産物店のみならずデパー
ト・商店街等でも販売され,同一施設内で観光土産品用でない被服も販売されていることが認め
られるから,販売場所も共通にするといえる。
上記事情を総合すると,本件商標をその指定商品について使用する場合には,これに接する取
引者,需要者は,顕著に表された独特な欧文字4字と熊のシルエット風図形との組合せ部分に着
目し,周知著名となっている引用商標を連想,想起して,当該商品が被告又は被告と経済的,組
織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,その出所について混同を生
ずるおそれがあるといえる。したがって,本件商標は15号に該当するとした審決の判断に誤り
はなく,取消事由2に理由はない。
2.取消事由1(商標法4条1項7号該当の判断の誤り)について
被告がスポーツシューズ,被服,バッグ等を世界的に製造販売している多国籍企業として著名
であり,引用商標が被告の業務に係る商品を表示する独創的な商標として取引者,需要者の間に
広く認識され,本件商標の指定商品には引用商標が使用されている商品が含まれていること,本
件商標を使用した商品を販売するウェブサイト中に,「北海道限定人気パロディ・クーマ」,「『ク
ーマ』『KUMA』のTシャツ赤フロントプリントプーマPUMAではありません」等と記載さ
れていること,原告は日本観光商事社のライセンス管理会社であるが,日本観光商事社は,本件
商標以外にも,欧文字4つのロゴにピューマの代わりに馬や豚を用いた商標や,他の著名商標の
基本的な構成を保持しながら変更を加えた商標を多数登録出願し,商品販売について著作権侵害
の警告を受けたこともあることが認められる。
これらの事実を総合考慮すると,日本観光商事社は引用商標の著名であることを知り,意図的
に引用商標と略同様の態様による4個の欧文字を用い,引用商標のピューマの図形を熊の図形に
置き換え,全体として引用商標に酷似した構成態様に仕上げることにより,本件商標に接する取
引者,需要者に引用商標を連想,想起させ,引用商標に化体した信用,名声及び顧客吸引力にた
だ乗り(フリーライド)する不正な目的で採択・出願し登録を受け,原告は上記の事情を知りな
がら本件商標の登録を譲り受けたものと認めることができる。
そして,本件商標をその指定商品に使用する場合には,引用商標の出所表示機能が希釈化(ダ
イリューション)され,引用商標に化体した信用,名声及び顧客吸引力,ひいては被告の業務上
の信用を毀損させるおそれがあるということができる。
そうすると,本件商標は,引用商標に化体した信用,名声及び顧客吸引力に便乗して不当な利
益を得る等の目的をもって引用商標の特徴を模倣して出願し登録を受けたもので,商標を保護す
ることにより,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護するという
商標法の目的(商標法1条)に反するものであり,公正な取引秩序を乱し,商道徳に反するもの
というべきである。したがって,本件商標は7号に該当するとの審決の判断に誤りはなく,取消
事由1は理由がない。
[コメント]
プーマのパロディ商標である下記「SHI-SA」商標は、特許庁の取消決定が知財高裁で2
回も取消され商標登録が維持されている事案である(平成20年(行ケ)第10311号、平成
21年(行ケ)第10404号)。「SHI-SA」商標事件では、『パロディ』なる法概念は
なく、商標がそもそも類似しないので、4条1項11号にも15号にも該当しないと判断されて
いた。「SHI-SA」商標が類似しないのであれば、本件商標も類似しないのでは、と「SH
I-SA」商標事件との関係で疑問が残るところはあるが、本来ブランド権利者が守られるべき
であり、妥当な判断ではないかと思う。
平成24年(行ケ)第10454号「KUmA」事件
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