IP case studies判例研究

平成24年(行ケ)10412号「化粧用チップ」事件

名称:「化粧用チップ」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 24 年(行ケ)10412 号 判決日:平成 25 年 8 月 9 日
判決:請求認容(審決取消)
特許法第29条第2項
キーワード:進歩性、認定の誤り
[概要]
原告は、発明の名称を「化粧用チップ」とする特許出願の拒絶査定に対して審判を請求を
したところ、特許庁が請求不成立の審決をしたことから、その取消しを求めた。
[審決が認定した本願補正発明と引用発明の一致点]
塗布部先端の端縁部を線状又は面状にしてなる化粧用チップであって、支持具の一端に繊
維束ではない多孔性の基材が設けられた化粧用チップ。
[審決が認定した本願補正発明と引用発明の相違点]
(相違点1)本願補正発明の化粧用チップが「塗布部先端の端縁部を直線状又は平面状に
してなる」のに対し、引用発明の化粧用チップの塗布部先端の端縁部は、略直線状又は略平
面状ではあるものの、直線状又は平面状であるのか否か不明な点。
(相違点2)支持具の一端に基材を設けるに当たり、本願補正発明では、「接着又はアウト
サート成形されることにより設けられ」ているのに対し、引用発明では、「接着又はアウトサ
ート成形されることにより設けられ」ているのか否か不明な点。
[裁判所の判断]
本願補正発明の「化粧用チップ」と引用発明の「アイライナーの芯2」とは、化粧料を化
粧部位に塗布する化粧用具の先端部という点では共通するものの、本願補正発明の「化粧用
チップ」は、まぶたや二重の幅にアイシャドー等を付するために、化粧料を面状に付着させ
たり、塗布したり塗り拡げたり、ぼかしてグラデーションを作るなどするための化粧用具の
先端部であると共に、これを目の際に使用して線状のアイラインを描くためにも用いること
ができるものであるのに対し、引用発明の「アイライナーの芯2」は、まぶたの生え際(目
の際)に線状のアイラインを描くためにのみ使用する化粧用具の先端部であり、本願補正発
明の「化粧用チップ」のように、化粧料をまぶたや二重の幅に面状に塗布したり塗り拡げた
りして、アイシャドー等を付するとの機能を備えた用具の先端部ではない点で異なるもので
ある(化粧用チップは、面状のアイシャドー等及び線状のアイライン形成のいずれのために
も使用することができるのに対し、アイライナーの芯2は線状のアイライン形成のためにの
み使用することができるものであり、面状のアイシャドー等を形成するために使用されるも
のではない。)。したがって、化粧用チップとアイライナーの芯2とは、一部において用途が
共通するとしても、その主たる用途は異なるものであり、これを化粧用具の先端部として同
一のものとみることはできない。
してみると、審決が、引用発明の「アイラインを描くためのアイライナーの芯2」又は「芯
2」が、文言の意味、形状又は機能からみて本願補正発明の「化粧用チップ」に相当すると
判断し、これを本願補正発明と引用発明との相違点として認定せずに、両者は、「塗布部先端
の端縁部を線状又は面状にしてなる化粧用チップ」である点で共通すると認定したことは誤
りである。そして、審決は、本願補正発明と引用発明との上記相違点を看過した上で、その
一致点及び相違点1及び2を認定し、相違点1については、引用発明のアイライナーの「芯
2」の先端部の「略直線状又は略平面状」の形状を化粧用チップの「直線状又は平面状」の
形状とすることは「当業者であれば適宜なし得た」と判断したものである。
しかし、引用発明の「アイライナーの芯2」は、化粧用チップと異なり、まぶたや二重の
幅に化粧料を面状に塗布したり、これを塗り広げるなどしてアイシャドー等を施すとの機能
を奏さず、線状にアイラインを描くとの機能のみを奏するものであるから、そのような「ア
イライナーの芯2」の塗布部先端の形状を、まぶたや二重の幅に化粧料を面状に塗布したり、
これを塗り拡げるなどしてアイシャドー等を施すとの機能を奏する化粧用チップの塗布部先
端の形状として転用し得るものか否かは直ちには明らかではなく、本来であるならば、審決
は、このような相違点も踏まえて容易想到性についての判断をすることを要するのに、これ
をせずに、アイライナーの芯と化粧用チップとの上記相違点を看過して容易想到性の判断を
したものである。よって、審決の上記相違点の看過は、審決の容易想到性の判断に実質的な
影響を与える誤りであるといわざるを得ず、審決は取消しを免れない。
被告は、「化粧用チップ」は、英語の「tip」や日本語の「チップ」の語義に照らして、
「化粧料の塗布用の先端部材」と解されること、本願の特許請求の範囲に「化粧用チップ」
の具体的用途や使用方法について何らの特定のないこと、本願明細書の記載によれば、本願
補正発明の「化粧用チップ」はアイラインを引くことにも使用されると理解されること、化
粧用具に関する技術分野においては、化粧料を化粧部位に塗るために使用されるチップが、
化粧料を含浸させるチップを排除するものではないことに照らせば、引用発明の「アイライ
ナーの芯2」が本願補正発明の「化粧用チップ」に相当するとの審決の認定に誤りはないと
主張する。
しかし、本願補正発明の「化粧用チップ」は、その特許請求の範囲に具体的な用途や使用
方法についての特定がないとしても、まぶたや二重の幅に化粧料を付着させ、これを塗布し
たり塗り拡げたりする化粧用具の先端部であり、またアイラインを引くことにも使用され得
るものであることが、本願明細書の記載から優に認められるものであることは、前記のとお
りである。また、本願補正発明の「化粧用チップ」が化粧料を含浸させるタイプのものも排
除するものではないことも前記認定のとおりであるものの、引用発明の「アイライナーの芯
2」が、まぶたや二重の幅に化粧料を付着させ、これを面状に塗布したり塗り拡げたりする
アイシャドー等用の化粧用具のための先端部ではないことも刊行物1の前記記載から明らか
である以上、本願補正発明の「化粧用チップ」と引用発明の「アイライナーの芯2」は、化
粧用具の先端部として同一のものであるとはいえず、被告の上記主張を斟酌しても、引用発
明の「アイライナーの芯2」を本願補正発明の「化粧用チップ」とみることができないこと
も前記認定判断のとおりである。被告の上記主張は採用することができない。
[コメント]
一見すると「化粧用チップ」に相当するように見受けられる「アイライナーの芯」である
が、裁判所は、主たる用途が異なるものとして、それらを同一視した審決の認定を誤りであ
ると判断した。これらの用途は一部で共通しているものの、「アイライナーの芯」は、面状の
アイシャドー等を形成するために使用されるものではなく、その点が評価されたものである。
認定の誤りを主張したい場面において、参考にできる事例である。

平成24年(行ケ)10412号「化粧用チップ」事件

PDFは
こちら

Contactお問合せ

メールでのお問合せ

お電話でのお問合せ