IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
平成25年(行ケ)10032号 「GRAM」事件
名称:「GRAM」事件
商標登録取消審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 25 年(行ケ)10032 号 判決日:平成 25 年 7 月 10 日
判決:請求認容
商標法第50条1項
キーワード:商標の使用
[概要]
商標の不使用を理由に商標登録の取消審決を受けた原告がその取消を求めたのに対し、請
求認容判決がなされた事案。
[本件商標]
[裁判所の判断]
1 証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告は,東麗商事(平成9年3月設立)に対し,本件商
標の使用を許諾していたものと認められる。
したがって,東麗商事は,本件商標の通常使用権者であると認められる。
2 証拠及び弁論の全趣旨によれば,東麗商事は,平成22年6月18日頃,サン・メンズウ
ェアとの間で本件商品に関わる売買契約を締結し,ODM型生産により本件商品を生産し,
同年10月から同年11月にかけて,これに本件使用商標が付された本件下げ札を付して日
本国内所在のサン・メンズウェアにこれを譲渡したこと,同月頃,サン・メンズウェアが本
件商品をマックハウスに販売したことが認められる。そして,本件商品は,「被服」に属する
ものである。したがって,東麗商事は,日本法人であるサン・メンズウェアに対し,本件使
用商標を付した本件商品を譲渡し,その後日本国内において,本件商品を流通させたものと
認められる。
なお,東麗商事は,原告の子会社の傘下にある中国法人であり,サン・メンズウェアから
の発注を受け,ODM型生産により本件商品を中国において生産したものの,日本法人であ
るサン・メンズウェアにこれを譲渡したのであり,本件商品は,その後サン・メンズウェア
からマックハウスに譲渡されて,日本国内において転々流通したものである。商標権者等が
商品に付した商標は,その商品が転々流通した後においても,当該商標に手が加えられない
限り,社会通念上は,当初,商品に商標を付した者による商標の使用であると解されるので,
上記認定事実に照らすと,東麗商事は,日本国内において本件商標を使用したものというこ
とができる。
3(1) 被告は,本件指示書のみでは,実際に本件下げ札が本件商品に付されたことが証明され
たとはいえないし,原告と取引関係にあり原告と関係が深い者である A の陳述書等をもって,
本件下げ札が本件商品に付された事実があったとはいえない,などと主張する。
しかしながら、本件指示書は,サン・メンズウェアが,東麗商事に対し,平成22年7月
14日付けで,本件商品に本件下げ札を付するよう指示をしたことを示すものであること,
東麗商事は,これに基づき本件商品に本件下げ札を付したことが認められるのであり,これ
をサン・メンズウェアに譲渡したものである。
また,原告の主張が変遷している点についても,そもそも,東麗商事が製造した本件商品
を購入する立場のサン・メンズウェアが,小売店に対して本件下げ札を付すように依頼する
とは考え難く,本件指示書についてサン・メンズウェアから小売店に対して送られたもので
ある旨の原告の主張は,むしろ錯誤等によりなされた事実に反するものであり,それが判明
したために原告が主張を変更したものとみるのが自然である。
さらに,A の陳述は,前記認定の本件指示書の記載事項とも符合するものであり,原告と
サン・メンズウェアとの間に取引関係があることのみをもって,上記陳述の信用性が失われ
るものということはできない。
(2) 被告は,本件商品にマックハウス商標が付されていることなどから,東麗商事,サン・
メンズウェア及びマックハウスの間の取引について,内部的な下請け又は製造委託に基づく
行為であって,通常の譲渡には該当しない旨主張する。
しかし,本件商品はODM型生産という,委託者のブランド名での販売を前提に,受託先
である東麗商事が商品企画から生産,その後の流通まで行い,委託先であるサン・メンズウ
ェア,更にはマックハウスに商品(完成品)を提供するという形態で取引がなされているも
のと認められるのであり,また,本件商品には,東麗商事により,本件使用商標(本件下げ
札)も付されているのであるから,本件商品にマックハウス商標が付されていることをもっ
て,東麗商事,サン・メンズウェア及びマックハウスの間の取引について,商標法2条3項
2号にいう「譲渡」に該当しないということはできず,被告の上記主張を採用することはで
きない。
(3) 被告は,本件商品に付された本件商標は,被服ではなく本件商品に使用された素材を示
すために用いられており,本件商標が被服に使用されたとはいえない旨主張する。
確かに,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件商品がマックハウスの「navy natu
ral」ブランドの製品であること,また,東レ(原告)の繊維である特殊な素材を使用す
ることにより本件商品が上記の特徴を有することが認識され得るものといえる。
しかし,他方で,本件商品は,東麗商事によりODM型生産され,サン・メンズウェアに
譲渡されたものであり,本件下げ札は,その際に本件商品に付されたものである上,東麗商
事がODM型生産をした本件商品に使用した東レの素材が非常に軽いため,ダウンジャケッ
トである本件商品が,機能性,快適性に優れるものであることを示すものであるとも解する
ことができ,本件商品が東レの素材を使用した,「Gram」ブランドの衣類であるなどとい
うように,被服である本件商品の出所及び品質等を示すものとして用いられているものとも
理解し得るものである。単に,本件商品に使用された素材を示すために,本件使用商標が本
件商品に付されたものとみることは相当ではない。
4 本件使用商標は「Gram」の欧文字を表してなるものであり,本件商標の一部を英語表
記に変更し,又は英語の小文字の表記に変更したものにすぎない。しかも,本件商標及び本
件使用商用のいずれからも,「グラム」の称呼が生じ,「質量の単位であるグラム」の観念が
生じる。
したがって,本件商標と本件使用商標は社会通念上同一の商標であるものと認められる。
5 以上によれば,本件商標の通常使用権者である東麗商事は,本件審判請求登録前3年以内
である平成22年10月から同年11月に,本件商標と社会通念上同一の商標である本件使
用商標を表示した本件下げ札を付した本件商品を日本国内所在のサン・メンズウェアに譲渡
し,さらに同月頃,サン・メンズウェアが本件商品をマックハウスに販売したもので,本件
商標の指定商品中「被服」に本件商標を使用したものと認められる。
[コメント]
被告の「本件商品に付された本件商標は,被服ではなく本件商品に使用された素材を示す
ために用いられており,本件商標が被服に使用されたとはいえない」との主張に対し、判決
において『本件商品が東レの素材を使用した,「Gram」ブランドの衣類であるなどという
ように,被服である本件商品の出所及び品質等を示すものとして用いられているものとも理
解し得る』としている点で注目される。素材の特徴の記載とともに商標が付されている場合
であっても、商品との関係でその商品の出所及び品質を示すものと認められる場合には、指
定商品についての使用と判断され得る。
なお、本事案の争点にはなっていないが、原告の子会社の中国法人による商標使用行為(譲
渡)でも「日本国内における使用」にあたるところが興味深い。ただし、判決文からは、単
に中国法人から日本法人への譲渡行為のみで「日本国内での使用」にあたるのか、中国法人
がODM型生産というビジネス形態により完成品を提供している点に重きを置いてそのよう
な判断としているのかは分からないため、注意が必要である。
平成25年(行ケ)10032号 「GRAM」事件
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