IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
平成24年(行ケ)10419号「カルベジロール」事件
名称:「カルベジロール」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成24年(行ケ)10419号 判決日:平成25年10月16日
判決:請求認容(審決取消)
特許法第29条第2項、行政事件訴訟法33条1項
キーワード:進歩性、判決の拘束力
[概要]
無効審判請求が成り立たないとした審決取消訴訟において、本件発明の顕著な効果を認め
てなされた特許権維持の審決に対して、そのような顕著な効果は認められず、無効不成立審
決が誤りである、として取消された事例
[請求項の記載]
(ⅰ)利尿薬、アンギオテンシン変換酵素阻害剤および/またはジゴキシンでのバックグラ
ウンド療法を受けている哺乳類における虚血性のうっ血性心不全に起因する死亡率を
(ⅱ)クラスⅡからⅣの症状において同様に実質的に減少させる薬剤であって、
(ⅲ)低用量カルベジロールのチャレンジ期間を置いて6ヶ月以上投与される薬剤の製造の
ための
(ⅳ)単独でのまたは1もしくは複数の別の治療薬と組み合わせたβ−アドレナリン受容体ア
ンタゴニストとα1−アドレナリン受容体アンタゴニストの両方である下記構造
を有するカルベジロールの使用であって、
(ⅴ)前記治療薬がアンギオテンシン変換酵素阻害剤、利尿薬および強心配糖体からなる群
より選ばれる、カルベジロールの使用。
[争点]
1) 本件発明は、カルベジロールの投与期間において異なる甲1発明に基づいて、構成上の
相違点の容易想到性がないとした審決の判断に誤りがあるか。
2) 本件発明は、虚血性のうっ血性心不全に起因する死亡率を減少させる薬剤であるのに対
し、引用発明では心不全の治療の為の薬剤、としている相違点についての構成に到達す
ることの容易想到性の判断に誤りがあるか。
3) 審決が認めた本願発明の顕著な作用効果について、判断に誤りがあるか否か。
4) 本件と同一対象の特許権に関する訂正審判の審決取消訴訟(平成23年(行ケ)100
18号)においては、特許法第29条第2項の規定による進歩性が欠如する為に訂正不
成立とした審決が覆されたが、本件に対して、当該別件判決の拘束力があるか否か。
[裁判所の判断]
上記1)および2)について
本件発明と甲1発明の相違点のうち、カルベジロールの投与期間の点については、甲1 発
明に甲4、甲5、及び甲10並びに周知技術を勘案することにより(生命予後の改善という
治療目的)当業者が容易に想到可能な事項である。
上記3)について
明細書では、死亡率を67~68%低下させたとある。しかし、根拠とした米国の臨床試
験は、その後の文献の記載により、短期的な期間の効果であり、信頼性が低いものであり、
実際の効果は、35%程度であることが認められる。これは、同様のβ遮断薬である、ビソ
プロロールの効果34%変わりなく、顕著な効果があるとは認められない。
4)について
さらに、別件の訂正審決取消判決で拘束力を受けるのは特許庁であって、原告ではない。
[コメント]
本願発明の顕著な効果を認めて、容易想到性を否定した、同一発明の別件判決と異なる結
論である。すなわち、顕著な効果とされた明細書の記載が、出願後に発表された同データの
検証記事から誇張されているものである、とされ、結論が逆になっている。
特許権者からすれば、判決と審決における進歩性の判断がそれぞれ二転三転しており、法
的安定性を欠き、取消判決の拘束力がどこまで及ぶのかの見極めが難しいと考えられる。
平成24年(行ケ)10419号「カルベジロール」事件
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