IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
平成25年(行ケ)10090号「デーロス」事件
名称:「デーロス」事件 審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第2部:平成 25 年(行ケ)10090 号 判決日:平成 26 年 1 月 29 日
判決:請求容認(審決取消)
商標法第50条 キーワード:不使用取消審判、社会通年上の同一性
[概要]
登録商標を取り消す審決について、原告(審判被氷請求人;商標権者;(株)ビルドランド)
が原告(審判請求人;(株)デーロス)に対して行った審決取消訴訟において、使用商標「D
EROS JAPAN」、「デーロス・ジャパン」と登録商標「デーロス」(標準文字)の間に
社会通念上の同一性を認め、審決が取り消された事例。
[審判での判断]
①被告は本件商標権の通常使用権者であるとはいえない、
②原告及び本件商標権の通常使用権者であると認められる(デーロス・ジャパン)のいずれ
もが建築工事の役務に本件商標を使用していたとは認められない、
として本件商標登録を取り消すとの審決をした。
※筆者注:審決では、役務と対応する形で使用商標が認定できる証拠が出されずに、不使
用と認定されたようで、社会通年上の同一性に関する判断はない。
[裁判所の判断]
<登録商標と使用商標との社会通年上の同一性について(判決 P24~26)>
(1)使用商標「デーロス・ジャパン」について
使用商標「デーロス・ジャパン」は,全体が普通に用いられる字体で表示されているもの
であり,「デーロス」と「ジャパン」とが「・」により明確に区切られているところ,前半か
らは「デ ー ロ ス」の称呼が生じ(観念は不明である。),後半からは「ジ ャ パ ン」の称
呼と「日本」との観念が生じる。①後半部分は,我が国の国名であるから,国際的観点から
すれば,商品・役務の販売・提供範囲の地理的限定又は法人の活動範囲の限定をするものと
理解されるものの,結局,商標権の効力の及ぶ我が国の全域を指し示しているものであって,
特段の限定を付したものと解することはできないから,「デーロス」と「デーロス・ジャパン」
とが取引者・需要者に別異の観念を抱かせるものではないと認められる。
したがって,「デーロス・ジャパン」と本件商標(デーロス)とは社会通念上の同一性を有
するものと認めるのが相当である。
(2)使用商標「DEROS JAPAN」について
使用商標「DEROS JAPAN」は,全体が普通に用いられる字体で表示されているも
のであり,「DEROS」と「JAPAN」との大きさが異なる態様で使用されているほか(甲
12の1,13の1),両者の間に空白がある態様で使用されており(甲12の1,13の1,
24,25,28の1~3,29,32~34,35の1,36,37),また,「JAPA
N」が我が国に広く了解されている英単語であり,個別の語として容易に理解されることか
ら,「DEROS JAPAN」が,常に一連一体のものとして称呼・観念されるものとはい
えない。ところで,前半の「DEROS」は,「デロウズ〔dérouz〕 帰還予定日(和)」に対
応する英単語であるが,我が国において一般に馴染みのある単語ではなく,一方で,「DER
OS」をローマ字読みした「デ ロ ス」は,我が国において一般に馴染みのあるギリシャ共
和国のデロス島の和名(デロス島の正しい綴りは「DELOS」である。)と音を共通にし,
そのように読まれることが多いものと理解される。したがって,「DEROS」は,ローマ字
表記に準じるものとして「デロス」との称呼が生じ(観念は不明である。),後半からは「ジ ャ
パ ン」の称呼と「日本」との観念が生じる。
しかるところ,②商標において片仮名とローマ字とを相互に変更する場合は,社会通念上
の同一性を失わないものと解されるから(商標法50条1項かっこ書き),本件商標の使用の
有無の検討に当たって比較対象すべき点は,「デロス ジャパン」(「DEROS JAPAN」)
と「デーロス」(本件商標)との社会通念上の同一性の有無になるところ,上記(1)の①に
説示したとおり,「ジャパン」を付加することによって取引者・需要者に別異の観念を抱かせ
るものでなく,また,長音化したもの(デーロス)とそうでないもの(デロス)とは,外観
上の差異がわずかである上,いずれもが特定の観念を抱かせないものであるから,その称呼
の差異によって別個の観念は生じないものと解される。
以上からすると,「DEROS JAPAN」と本件商標(デーロス)とは,社会通念上の
同一性を有するものと認めるのが相当である。
被告は,デーロス・ジャパンと被告との間をめぐる取引の実情を加味して社会通念上の同
一性を判断すべき趣旨を主張する。そして,上記の認定によれば,原告又はAは,「デーロス」
と「デーロス・ジャパン」とに同一性がないと考えたことにより,「デーロス」の商号の使用
禁止約定に応じて,Aが代表者を務める株式会社デーロスの商号を「株式会社デーロス・ジ
ャパン」に変更したものと推測される。
しかしながら,商標の使用の有無の判断に際しての,当該登録商標と使用商標との社会通
念上の同一性の検討においては,両商標の有する客観的要素が重視されるべきであり(例え
ば,商標法50条1項かっこ書き所定の変更事由について,当事者が同一性を欠くものと認
識したとしても,その認識により判断が左右されるものではない。),本件においても,被告
が指摘する当事者間の極めて特殊な個別事情やその主観的認識状況のみでは,上記の認定判
断を左右するものとはいえず,被告の上記主張は採用することができない。
[コメント]
本件では、「デーロス」と「ジャパン」の文字の大きさが異なる使用態様、両者の間にスペ
ースがある使用態様が証拠として挙げられたようで、両者が一連一体ではなく、分離認定さ
れ、登録商標と社会通念上の同一性が認定されたようである。直近で審決が取り消された判
決(平成 25 年行ケ 10164 号)では、登録商標「PERAL/パール」(二段書き)に対し、
使用商標「パールフィルター」、「PERAL FILTER」が二次的なブランドと認定さ
れ、一連一体と認識されるとして、登録商標と社会通念上の同一性が否定された。
使用態様に応じて判断が変わるので、画一的な判断基準が難しく、同一性を判断するにあ
たり、注意が必要かもしれない。
平成25年(行ケ)10090号「デーロス」事件
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