IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
平成25年(行ケ)10154号「車両用指針装置」事件
名称:「車両用指針装置」事件 審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第2部:平成 25 年(行ケ)10154 号 判決日:平成 25 年 12 月 10 日
判決:請求容認(審決取消)
特許法第29条第2項
キーワード:進歩性 技術的意義 周知技術 阻害要因
[概要]
特許維持とされた特許無効審判の審決に対する審決取消訴訟において、特許維持となった
審決が取り消された事例。
[本件発明1:請求項1] ※下線は相違点
目盛り板(20)と,この目盛り板上にて指示表示する指針(30)と,前記目盛り板を
光により照射する照射手段(50)とを備えた車両用指針装置において,車両のキースイッ
チのオフに伴い前記目盛り板照射手段の照射光の輝度を徐々に低下させるように制御する制
御手段を備えることを特徴とする車両用指針装置。
[本件発明2:請求項2]
目盛り板(20)と,この目盛り板上に指示表示する発光指針(30)と,前記目盛り板
を光により照射する目盛り板照射手段(50)と,前記発光指針を光により照射して発光さ
せる指針照射手段(31)とを備えた車両用指針装置において,車両のキースイッチのオフ
に伴い前記目盛り板照射手段及び指針照射手段の各照射光の輝度を徐々に低下させるように
制御する制御手段を備えることを特徴とする車両用指針装置
「本件発明3:請求項3」
前記制御手段が,その制御を,前記目盛り板照射手段及び指針照射手段の各照射光の輝度
低下度合を相互に異ならしめるように行うことを特徴とする請求項2に記載の車両用指針装
置。」
[審判での判断]
・引用発明:イグニッションキー10のオフに伴い前記目盛板照明装置3及び指針照明装置
5を消灯させるように制御する。
・周知技術1:車両に関する照明である室内灯,キーシリンダ照明灯,足下照明灯,ヘッド
ライトや住宅用照明灯を消灯する際に,照射光の輝度を徐々に低下させるように制御するこ
とは,一般にフェードアウトと呼ばれる周知技術であり,フェードアウトにより何らかの心
理的効果がもたらされることも周知。
・本件発明と周知技術1とは、照射光の輝度を徐々に低下させるように制御する点で共通す
る。しかし、周知技術1は、周囲の雰囲気全体の明るさを徐々に低下させることで、その人
に対するフェードアウトという心理的効果を狙ったもので、視覚対象が特定されていない。
これに対し、本件発明1は、視覚対象が運転中に注目する必要のある指針装置の目盛り板に
特定されており、照射光の輝度を徐々に低下させるように制御することの技術的意義が異な
る。すると、消灯させるように制御するのに留まる引用文献に、フェードアウト減光に係る
周知技術を適用することはできない。
・引用発明は、ブラックアウト効果(車両用計器全面が暗黒となる効果)を保つことを意図
しているもので、イグニッションキーのオフ後は直ちに消灯されることを要請するものであ
るから、阻害要因がある。
・公知技術1:ヘッドライトを消灯したときに、照明灯が通常よりも減光した状態で一定時
間だけ継続点灯され、その後消灯する。消灯することの契機が、イグニッションキーのオフ
とヘッドライトの消灯とで互いに異なるので、契機が異なる公知技術1を適用することに阻
害要因がある。
・公知技術2:指針照明の消灯と、計器板の消灯とのタイミングをずらすようにした照明装
置の開示に留まる。
[裁判所の判断]
(1)本件発明の技術的意義
本件発明は,乗員が座席に着席している場合にのみ自発光指針及び目盛り板の発光輝度の
低下処理を行い,乗員が離席している際には「瞬時に暗く」するという第3の実施例の存在
や斬新な「視認性」を目指すものであることに照らすと,乗員に対して視覚に訴えることに
より効果を与えるものではある。一方,キースイッチのオフを契機として制御を開始するも
のであり,指針や目盛り板を注視する必要がなく、目盛り板や指針を注視する必要性がなく
なった段階で作用するものであって,乗員が必ずしも指針や目盛り板自体に注目している場
合を前提とするものではない。そして、指針や目盛り板は,その存在あるいは光が視界に入
る状況下で,キースイッチのオフに伴って,指針や目盛り板が瞬時に暗くなるという唐突感
を生じさせず,違和感なくスムーズに減光することで,乗員に良好な心理的効果を与えるも
のと解される。
そうすると,本件発明と周知技術1とは,安全性の観点から視認性を確保するため,ある
いは,光の変化に目を慣らすための減光などの実際的な必要性とは異なり,フェードアウト
による「何らかの良好な心理的効果」を得ようとする点で,同一の技術的意義を有する。
(2)引用発明への周知技術1の適用について
引用発明は,イグニッションキーが投入されていないときに車両用計器の全面が暗黒とな
るブラックアウト型において,指針のみが観視されることを防止してブラックアウト効果が
保たれるようにし,観者に対する違和感を防止するという効果を狙ったものである。そして,
フェードアウトによる何らかの良好な心理的効果を得ようとすることは,照明技術における
一般的な課題であり,また,フェードアウトが種々の照明に適用されていることを踏まえる
と,観者に対する違和感の払拭という心理的効果を目指した引用発明において,目盛り板(又
は指針)照明装置の制御手段として良好な心理的効果を目指した周知技術1を適用して,照
射光の輝度を徐々に低下させるように制御することは,当業者にとって容易に着想し得るこ
とである。
(3)本件発明3の容易想到性について
「指針の照明の消灯と計器板の照明の消灯とのタイミングをずらすようにした車両用計器
類照明装置」との公知技術2を踏まえると,引用発明において,「指針照明装置」の消灯と「目
盛板照明装置」の消灯とのタイミングとをずらすようにすることは,当業者が容易に想到し
得ることである。そして,本件発明2の相違点2に係る構成である,照射光の輝度を徐々に
低下させるように制御することと公知技術2を併せて構成した場合には,「目盛板照明装置」
及び「指針照明装置」の各照射光の輝度低下度合いが相互に異なるものとなるところ,照明
灯の照射光の輝度を徐々に低下させるように制御するフェードアウトは周知であることに加
え,照明装置を用いた意匠演出において,複数の照明灯についてタイミングをずらして消点
灯ないし減増光して一定の演出効果が得られることはありふれたことであることを考慮すれ
ば,このような構成を合わせて採用することも,当業者にとって容易に想到できることであ
る。
[コメント]
本事案では、審決にて技術的意義が異なるとした理由に対して切り返す形で技術的意義が
同一であるとし、引用文献及び周知技術の双方が”心理的効果を目指す”点で共通すること
を理由に、周知技術の適用を認めている。技術的意義の同一性と技術が目指す方向性を意識
して、進歩性を論ずることが実務の一つの有効な手段として確認できる。
平成25年(行ケ)10154号「車両用指針装置」事件
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