IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
平成25年(行ケ)第10125号 「分岐グルカンの製造方法」事件
名称:「分岐グルカンの製造方法」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第2部:
判決: 請求棄却
特許法第 29 条の 2
キーワード:先願発明との同一性
[概要]
シクロデキストリン生成酵素と特定の微生物(アスペルギルス・ニガー、またはアクレオニウ
ム)由来の糖転移作用を有する酵素をデンプン原料に作用させる工程を含む、分岐グルカンの製
造方法に係る本願発明と、別の微生物由来の糖転移作用酵素を用いることを具体的構成とした分
岐グルカンの製造方法を開示する先願とは、実質同一であるとは言えないとした審決の判断が維
持された事例
[請求項4](訂正後)
シクロデキストリン生成酵素と糖転移作用を有する酵素とを、デンプン原料に作用させる工程を
含んでなる、α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカ
ンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度11〜35のグルカンま
たはその還元物であって、分岐構造が α-1,4-結合以外の結合様式により直鎖状グルカンの
非還元末端に結合した1個以上のグルコース残基であるグルカンまたはその還元物を含有する液
糖または粉糖の製造法であって、糖転移作用を有する酵素がアスペルギルス・ニガーまたはアク
レモニウム・エスピー由来の α-グルコシダーゼである、製造法。
[主な争点]
1. 相違点3の認定の誤り:すなわち、審決では、糖転移作用を有する酵素として、先願発
明では特定菌株由来(バチルスサーキュランスPP710またはアルスロバクター・グロビ
ホルミスPP349)由来α-グルコシル転移酵素を指すものとされたが、一定の酵素作用
を有するα-グルコシダーゼ一般が開示されているとすべきであり、相違点の認定に誤りが
あるか。
2. 相違点3の判断の誤り:すなわち、由来の異なる酵素の置き換えが単なる周知技術の付
加、削除、転換等であるとは言えないとした審決の判断に誤りがあるか。
[審決]
相違点3について、α-グルカンに特定の分岐が導入される点が、先願明細書に記載された「水
溶性植物繊維として有用なグルカンとその製造方法」を提供するという課題を解決するために必
要であり、使用した特定微生物由来酵素に代えて、別の酵素を用いるといった技術的思想を先願
明細書の記載から読み取ることはできない。
酵素を置き換えることは、先願発明の特徴部分または課題解決のために必要な部分を除くもの
であって、単なる周知技術の付加、削除、転換等であるとはいえず、また、そのことによって新
たな効果を奏するものでないともいえないから、本件訂正発明と先願発明が実質同一であるとは
いえない。
[裁判所の判断]
(1)先願明細書には、水溶性食物として有用なグルカンを提供することを課題とした記載、新
規微生物由来酵素を見出したことの記載があり、特定微生物由来のα-グルコシル転移酵素以外
についての記載は一切ない。先願明細書から、特定由来の酵素を離れて、一定の酵素作用を持つ
α-グルコシル転移酵素一般についての開示があると認めることはできない。
(2)本件発明で用いる糖転移作用を有する酵素の選択の1つはアスペルギルス・ニガー由来の
α-グルコシダーゼである(α-1,6結合形成を触媒し、α-1,3結合やα-1,2結合の
形成をも触媒するとして知られていた)。もうひとつはアクレモニウム・エスピー由来のα-グル
コシダーゼ(α-1,3結合形成を触媒するとして知られていた)である。先願明細書に開示さ
れているα-グルコシル糖転移酵素は、これらの従来から広く知られていた酵素とは一線を画す
ものである。相違点3は実質的な相違点であるとした審決の判断に誤りはない。
[コメント]
本件発明の訂正後の内容に対して、先願明細書の開示を基にした原告の主張には、進歩性の判
断において有効な内容であるが、29条の2での実質同一とする点には無理があった。本件の場
合、先願明細書自体から知ることができる具体的内容は、本件発明と実質同一ではなく、そこに
公知事実を参酌する余地はないということになる。
平成25年(行ケ)第10125号 「分岐グルカンの製造方法」事件
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