IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
名称:「発光装置、バックライトユニット、液晶表示装置及び照明装置」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 25 年(行ケ)10292 号 判決日:平成 26 年 4 月 23 日
判決 : 請求棄却
特許法 17 条の 2 第 5 項第 2 号
キーワード:限定的減縮、発明を特定するための事項、限定
[概要]
審判請求と同時にした補正(請求項1において、補正前の請求項26と似た特徴を追加す
る補正)が、『発明を特定するために必要な事項を限定するものではない』と判断された事案。
[特許請求の範囲]
(補正発明) 下線部が補正箇所。
一の方向に隣接して配置された複数の発光装置を有する光源であって、
前記複数の発光装置の各々は、
前記一の方向に長尺状をなす基板と、
前記基板上に当該基板の長手方向に沿って一直線状に配列された複数の半導体発光素子と、
光波長変換体を含み、前記複数の半導体発光素子を封止する封止部材と、を備え、
前記封止部材は、前記複数の半導体発光素子を一括封止するとともに、前記複数の半導体
発光素子の配列方向に沿って直線状に前記基板の長手方向の両端縁まで形成され、
前記封止部材を平面視した場合、前記封止部材の端部の輪郭線は曲率を有する光源。
(補正前発明)
長尺状の基板と、
前記基板上に当該基板の長手方向に沿って一直線状に配列された複数の半導体発光素子と、
光波長変換体を含み、前記複数の半導体発光素子を封止する封止部材と、を備え、
前記封止部材は、前記複数の半導体発光素子を一括封止するとともに、前記複数の半導体
発光素子の配列方向に沿って直線状に前記基板の長手方向の両端縁まで形成され、
前記封止部材を平面視した場合、前記封止部材の端部の輪郭線は曲率を有する発光装置。
[審決の理由の要点]
本件補正は、補正前の請求項1の「発光装置」を「一の方向に隣接して配置された複数の
発光装置を有する光源」と補正して、補正後の請求項1とする補正事項(以下「本件補正事
項」という。)を含むものである。
本件補正事項は、請求項1に係る発明を、「発光装置」から、「一の方向に隣接して配置さ
れた複数の発光装置」を有する「光源」に補正するものであって、補正前の請求項1におけ
る、発明を特定するために必要な事項を限定するものではなく、本件補正事項を含む本件補
正は、特許法17条の2第5項に定める、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂
正、明瞭でない記載の釈明のいずれにも該当しない。
[裁判所の判断]
(1)補正前発明における「発光装置」は、本願明細書に示されるように、長尺状の基板と、
前記基板上に当該基板の長手方向に沿って一直線状に配列された複数の半導体発光素子と、
光波長変換体を含み、前記複数の半導体発光素子を封止する封止部材と、を備え、前記封止
部材は、前記複数の半導体発光素子を一括封止するとともに、前記複数の半導体発光素子の
配列方向に沿って直線状に前記基板の長手方向の両端縁まで形成され、前記封止部材を平面
視した場合、前記封止部材の端部の輪郭線は曲率を有するものである。そして、実施例にお
いて、発光装置100につき、図1が示され、さらに、「本発明1の第1の実施形態に係る発
光装置を複数個並べる場合」(段落【0095】)として、「発光装置100A」と「発光装置
100B」を隣接配置する、図6が示されている。
これに対して、補正後の請求項1の「光源」は、「一の方向に隣接して配置された複数の発
光装置を有する光源」であり、補正前発明の「発光装置」を一の方向に隣接して複数配置す
るものである。
そうすると、補正前の請求項1の「発光装置」を補正後の請求項1の「一の方向に隣接し
て配置された複数の発光装置を有する光源」とすることは、特許請求の範囲を減縮すること
にはなるものの、補正前の「発光装置」を、より下位の発明の構成に限定するものではない
から、本件補正は、補正前の請求項1における、発明を特定するために必要な事項を限定す
るものであるということはできない。
よって、本件補正に係る請求項1の補正事項は、特許法17条の2第5項2号にいう、特
許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものとはいえない。
(2) ア 原告は、特許法17条の2第5項2号は「特許請求の範囲の減縮」と定め、「請求項
の減縮」とは定めていないのであるから、同号の規定は、特許請求の範囲を補正するに際し、
特許請求の範囲全体をとらまえようとするものであり、特許請求の範囲における個別具体的
な請求項の補正が補正前の他の請求項との関係で補正を行うことを何ら排除するものではな
いとし、補正前の請求項26には「前記発光装置を複数備え、複数の前記発光装置は、当該
発光装置の基板同士を接触させて配置される請求項25に記載の照明装置。」との、本件補正
の補正後の請求項1における「一の方向に隣接して配置された複数の発光装置」の記載と酷
似する内容が記載されているから、本件補正は限定的減縮に当たると主張する。
しかし、特許法17条の2第5項2号は、「特許請求の範囲の減縮(第三十六条第五項の規
定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その
補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上
の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」と規定されており、補正
前と補正後の「当該請求項」を比較することを前提としているのであって、発明特定事項の
「限定」、あるいは、産業上の利用分野及び解決課題の「同一」性は、特許請求の範囲に記載
された当該請求項について、その補正の前後を比較して判断すべきものといえる。
そして、補正発明は、補正前の請求項26を補正するものでない以上、補正前の請求項2
6の記載事項は、補正の限定的減縮の判断に当たって比較すべき対象ではないことが明らか
である。
よって、原告の上記主張は採用できない。
イ 原告は、「複数の発光装置」を有する物が同じ名称の「発光装置」としたのでは紛らわ
しいと考え、「複数の発光装置」を有する物として、単に表現形式を変更する趣旨で、当初明
細書の記載を用いて、「光源」という名称を用いたものにすぎないから、限定的減縮に当たる
と主張する。
しかし、本件補正は、単に補正前の請求項1末尾の「発光装置」を、補正後の請求項1末
尾の「光源」と補正するにとどまるものではなく、補正前の「発光装置」を「一の方向に隣
接して配置された複数の発光装置を有する光源」に補正するものであるから、1つの「発光
装置」から複数の「発光装置」を備えるものに構成が変更されており、単に表現形式を変更
したものにすぎないとはいえない。 したがって、原告の上記主張は採用できない。
[コメント]
原告は条文の趣旨から補正は認められるべきと主張した。裁判所はこの主張を採用せず、
『補正発明は、補正前の請求項26を補正するものでない以上、補正前の請求項26の記載
事項は、補正の限定的減縮の判断に当たって比較すべき対象ではない』と判断した点が印象
的である。
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