IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
平成25年(行ケ)第10242号 「照明装置」事件
名称:「照明装置」事件
平成25年(行ケ)第10242号 審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第1部
判決日:平成26年7月17日
判決:審決取消
関連条文:特許法第29条第2項
キーワード:進歩性、阻害要因、一般的な課題
[概要]
進歩性を否定した特許庁の無効審判における審決が取り消された事案。
[本件発明]
【請求項1】
所定方向に並設された複数のLEDと,各LEDの並設方向に延びるように設けられた集光レンズと
を備え,各LEDの光が集光レンズを通過して集光レンズから所定の距離だけ離れた位置であって前
記LEDの並設方向に撮像範囲の長手を有するように配置されたラインセンサカメラの撮像位置に線
状に集光し,これにより前記撮像位置を照明しこれをラインセンサカメラで撮像するように構成され
たラインセンサカメラ撮像位置照明用の照明装置において,
この照明装置は,前記各LEDから前記集光位置までの光の経路中に光を主に各LEDの並設方向に
拡散させる拡散レンズを備えると共に,前記集光レンズの各LED側の面によって受光レンズ部が形
成され,
受光レンズ部を,各LED側に凸面状に形成するとともに各LEDの並設方向に延びるように形成し,
各LEDにおいて他の照射角度範囲よりも光の照射量を多くした所定の照射角度範囲から照射される
光を受光可能に配置し,
前記拡散レンズを,前記光の経路と交差する所定の面上に延びるように設けられた透明な基板と,該
透明な基板の厚さ方向一方の面上に並ぶように設けられた複数の凸レンズ部から形成し,各凸レンズ
部を,各LEDの並設方向への曲率半径が各LEDの並設方向と直交する方向への曲率半径よりも小
さい曲面状に形成し,
前記各凸レンズ部を,互いに近傍に配置された凸レンズ部同士で各LEDの並設方向への曲率半径が
異なるように形成し,これにより,光を前記複数の凸レンズ部のそれぞれの曲率に応じてLEDの並
設方向に屈折させて前記拡散を行うことを特徴とするラインセンサカメラ撮像位置照明用の照明装置。
[審決の内容]
本件発明1は,特開平1-144771号公報(甲16公報)に記載された発明及び特開200
0-280267号公報(甲17公報)に記載の事項並びに技術常識に基づいて当業者が容易に
発明をすることができたものである。
(相違点1)
「拡散手段」について,本件発明1では「光を主に各LEDの並設方向に拡散させる拡散レンズ」
であって「光の経路と交差する所定の面上に延びるように設けられた透明な基板と,該透明な基
板の厚さ方向一方の面上に並ぶように設けられた複数の凸レンズ部から形成し,各凸レンズ部を,
各LEDの並設方向への曲率半径が各LEDの並設方向と直交する方向への曲率半径よりも小さ
い曲面状に形成し,前記各凸レンズ部を,互いに近傍に配置された凸レンズ部同士で各LEDの
並設方向への曲率半径が異なるように形成し,これにより,光を前記複数の凸レンズ部のそれぞ
れの曲率に応じてLEDの並設方向に屈折させて前記拡散を行う」のに対し,甲16発明では「記
各LED12から照射面3までの光の経路中に光を拡散させる散乱シート2」であり,「ポリエ
ステルフィルム上に微粉末からなる光拡散層を積層することにより形成する」点。
[裁判所の判断]
2 取消事由1(相違点1についての容易想到性判断の誤り)について
(2) 相違点1に係る構成の容易想到性について
・・・そうすると,甲16発明は,主としてLEDアレイの並設方向に光を集中的に拡散させる
ことを課題とするものではなく,かえって,これと直交する方向にも光を拡散させることを課題
とするものであるから,光を特定の1つの方向にのみ集中的に拡散させるという機能を有する光
拡散体である甲17発明を,甲16発明に組み合わせることは,その動機付けを欠くものであり,
当業者が容易に想到することができるものとは認められないというべきである。・・・
また,甲16発明と本件発明1との関係をみても,甲16発明と本件発明1とは,照射面にお
ける光のむらを解消することを課題の一部とする点では共通するが,甲16発明は,照度のユラ
ギを改善して照射面全体における照度を均一とすることを目的とし,これに加えて,有効照射巾
の拡大のため,縦方向にも光を散乱させることを課題とするものであり,かつ,その結果として,
照射面における一定程度の照度の低下はやむを得ないことを前提とし(【実施例】),これを防
止することは解決課題とはしていないのに対し,本件発明1は,各LEDの並設方向と直交する
方向への光の拡散は課題としておらず,かえって,同方向へはほとんど拡散させずに,光を無用
に減衰させることなく主に各LEDの並設方向に集光させ,かつ,照度の低下を防止することを
必須の課題とするものであるから,両発明の解決課題は全体として異なるものである。それだけ
ではなく,本件発明1は,各LEDの並設方向と直交する方向への光の拡散はほとんどさせない
ことにより,光を無用に減衰させることなく集光することを解決手段の1つとするものであるか
ら,これとは逆に,同方向への光の拡散を課題の一部とする甲16発明には,本件発明1を想到
することについての阻害要因が存するというべきである。
エ 被告の主張について
・・・また,審決は,照明の分野において,「光のむらを解消しつつ,光量の確保をする」こと
は一般的課題であると認定して,甲16発明においても同課題に基づいて甲17発明を適用する
ことは容易であると判断する。しかし,仮に上記課題が一般的な課題であるとしても,甲16発
明が,照射面の縦方向と横方向の双方向へ光を拡散することを具体的な解決課題としている以上,
甲16発明に,照射面のいずれか一方の方向へ主に光を拡散するものである甲17発明を適用す
ることが容易とはいえないことは,上記判示のとおりである。さらに,審決は,甲16公報の【実
施例】に,「ポリエステルフィルム表面をヘアラインの凹凸化加工によって光を散乱させ」るもの
が記載されていることをもって,甲16発明において同方性の散乱シートの代わりに異方性の散
乱シートを選択することも当業者において一般的になされているといえるとも認定するが,同記
載からは,ヘアラインの凹凸化加工によって甲16発明の上記解決課題をどのように解決するの
かという具体的な実施態様が不明であるから,同記載を根拠として,当業者が甲17発明を甲1
6発明の散乱シートの代わりに適用することが容易であるということもできない。
[コメント]
審決においては、主引例発明において一般的な課題解決のために、主引例の構成の一部(散乱
シート)を副引例の構成(光拡散体)に置き換えることは、何ら困難性なく、十分動機付けが存
在し、当業者が容易に想到し得る、と判断した。しかしながら、裁判所が判断したように、主引
用発明と本件発明の構成は類似しているものの、これらの発明の技術的思想は異なるものであり、
仮に本件発明の課題が一般的課題であったとしても、このような主引例発明から進歩性を否定さ
れるべきものではないと考える。実際の拒絶理由通知においては、主引例において一般的な課題
を解消するために副引例の構成を採用して進歩性が否定されるケースも散見されるため、そのよ
うな場合の進歩性の主張の際に参考にしたい。
平成25年(行ケ)第10242号 「照明装置」事件
Contactお問合せ
メールでのお問合せ
お電話でのお問合せ