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平成25年(行ケ)10239号「スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法」事件

名称:「スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法」事件
無効不成立審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 25 年(行ケ)10239 号 判決日:平成 26 年 7 月 9 日
判決 : 請求認容
特許法29条2項
キーワード:進歩性
[概要]
進歩性ありとの審決に対して、取消しを求めた事案である。
[主な争点]
進歩性判断の誤り
[特許請求の範囲(請求項1)]
【請求項1】
電析した二酸化マンガンをナトリウム化合物もしくはカリウム化合物で中和し,pHを2
以上とする共にナトリウムもしくはカリウムの含有量を0.12~2.20重量%とした電解
二酸化マンガンに,リチウム原料と,上記マンガンの0.5~15モル%がアルミニウム,マ
グネシウム,カルシウム,チタン,バナジウム,クロム,鉄,コバルト,ニッケル,銅,亜
鉛から選ばれる少なくとも1種以上の元素で置換されるように当該元素を含む化合物とを加
えて混合し,750℃以上の温度で焼成する
ことを特徴とするスピネル型マンガン酸リチウムの製造方法。
・本件発明1と甲1発明との相違点(P.4~5)
電解二酸化マンガンに関し,本件発明1は,「電析した二酸化マンガンをナトリウム化合物
もしくはカリウム化合物で中和し,pHを2以上とすると共にナトリウムもしくはカリウム
の含有量を0.12~2.20重量%とした」ものであるのに対し,甲1発明はかかる事項を
発明特定事項として有していない点(相違点1)。
[裁判所の判断]
取消事由2(進歩性判断の誤り)について
(1) 本件発明1につき
ア 課題
本件明細書の記載によれば,本件発明1は,非水電解質二次電池の正極材料として用いら
れるスピネル型マンガン酸リチウムであるLiMn 2 O 4 は,高温においてマンガンが溶出す
るため,・・・高温での電池特性に劣ることを技術課題とし,充電時のマンガン溶出量を抑制
し,高温保存性,高温サイクル特性等の高温での電池特性を向上させたスピネル型マンガン
酸リチウムの製造方法を提供することを目的とするものである。
しかるところ,非水電解質二次電池の正極材料としてスピネル型マンガン酸リチウムである
LiMn 2 O 4 を用いた場合に,充電した電池の高温環境下での保存や充放電の繰返しによる
電池容量の低下が,マンガンの溶出により生じることは,本件特許出願前の各刊行物の記載
からみて,本件特許出願時の技術常識であると認められる。したがって,マンガンの溶出を
抑制することにより,高温保存性やサイクル特性(高温での充放電の繰り返しに限るもので
はない。)を向上させることは,当業者にとって周知の課題であったと認められる。
そして,甲1発明は,LiMn 1.85 Li 0.1 Al 0.05 O 4 で表される非水電解液二次電池用
正極材料の製造方法に関するものであり,LiMn 2 O 4 におけるマンガンの一部をリチウム
及びアルミニウムで置換したスピネル型マンガン酸リチウムの一種であることは,その組成
からも明らかであるから,このような甲1発明においても,マンガンの溶出量を抑制するこ
とにより高温保存性やサイクル特性を向上させるとの課題が存在することは,当業者にとっ
て明らかであるといえる。
イ 解決手段
甲8にはリチウム二次電池の正極活物質として用いられるLiMn 2 O 4 を作製する際に,
原料物質を混合する段階で,ナトリウムの水酸化物,炭酸塩,硫酸塩などの添加剤を加えて
焼成を行うことで,LiMn 2 O 4 の結晶構造中にナトリウムが取り込まれ,それによりマン
ガンの溶出が抑制されること,この場合,LiMn 2 O 4 に第3の元素を添加して,LiMn
2-y X y O 4 (ただし,xは遷移金属元素又はB,Mg,Al,Si,Pのいずれかを表し,
yは0≦y≦1.0を満たす実数である。)としても良いことが記載されている。
また,リチウムマンガン複合酸化物は,通常,マンガン化合物,リチウム化合物などの原料
を混合し,所定の温度で焼成することにより作製されるものであるところ(例えば,甲1の
【0008】,甲6の【0032】【0039】),甲5には,従来技術として,酸性溶液中で
生成した電解二酸化マンガンを水酸化ナトリウムで中和することにより得られた二酸化マン
ガンは,ナトリウムを含有すること,このような二酸化マンガンを原料にしてリチウムマン
ガン複合酸化物を作製すると,二酸化マンガン中のナトリウムは,リチウムマンガン複合酸
化物中のリチウムイオンの吸蔵放出サイトに取り込まれることが記載されている。
ウ 容易想到性
上記ア,イのとおり,マンガンの溶出を抑制することによって高温保存性やサイクル特性
を向上させるという周知の課題について,スピネル型マンガン酸リチウム又はこのマンガン
を第3元素で置換した複合酸化物の結晶構造中に,ナトリウムが取り込まれることによって
マンガンの溶出を抑制することができる,という手段が知られており(甲8),さらに,水酸
化ナトリウムで中和した電解二酸化マンガンにはナトリウムが含有されており,このような
電解二酸化マンガンをリチウムマンガン複合酸化物の原料として用いた場合(甲5)に,こ
の電解二酸化マンガンに含有されていたナトリウムがリチウムマンガン複合酸化物の結晶構
造中に取り込まれることも,広く知られていたといえる。
そうすると,スピネル型マンガン酸リチウムであって,その原料として電解二酸化マンガン
を用いる甲1発明において,高温保存性やサイクル特性を向上させるために,ナトリウムを
取り込むという広く知られた手段を用いることとし,その際,水酸化ナトリウムで中和する
ことによってナトリウムを含有することが広く知られている電解二酸化マンガンを原料とし
て利用すること(甲5)に着目し,これを原料として使用することでLiMn 1.85 Li 0.1
Al 0.05 O 4 の結晶構造中にナトリウムを取り込み,それによりマンガンの溶出を抑制するこ
とは,当業者が容易に想到することであると認められる。
また,電解二酸化マンガンについて,中和によりどの程度のpHとするか,また,ナトリウ
ムの含有量をどの程度とするかは,ナトリウムの単なる量的条件の決定にすぎず,上記解決
手段を具現化する中で適宜選択される最適条件にすぎないから,pHを2以上とするととも
に,ナトリウムの含有量を0.12~2.20重量%とすることも,当業者が容易に想到する
ことであるといえる。

平成25年(行ケ)10239号「スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法」事件

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