IP case studies判例研究

平成24年(行ケ)10221号「洗浄剤組成物」事件

名称:「洗浄剤組成物」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第1部:平成 24 年(行ケ)10221 号 判決日:平成 25 年 2 月 27 日
判決:請求容認(審決取消)
条文:特許法29条2項
キーワード:進歩性、動機づけ、主成分と不要な成分(不純物)
[概要]
特許発明「洗浄剤組成物」が、引用発明との相違点に到るのは容易であり、格別顕著な効果が
あるとは認められないとして、無効審判請求を不成立とした審決が取り消された事例。
[特許請求の範囲](囲み枠は下記の相違点)
【請求項1】
A)アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類、
B)グリコール酸塩、及び
C)陰イオン界面活性剤及び/又は非イオン界面活性剤を主成分とし、
C)陰イオン界面活性剤及び/又は非イオン界面活性剤1重量部に対してアスパラギン酸二酢酸
塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類が0.01~1重量部、かつ
アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類1重量部に対してグリコール酸
塩が0.01~0.5重量部含有され、
pHが10~13であることを特徴とする洗浄剤組成物。
[相違点]
(相違点1)本件発明1は,洗浄剤組成物の成分「A)」ないし「C)」を「主成分とし」たもので
あることを規定するのに対し,引用発明1は,洗浄剤混合物の上記成分に相当する成分について
これを主成分とは規定していない点。
(相違点2)本件発明1は,洗浄剤組成物の「pHが10~13」であることを規定するのに対
し,引用発明1は,洗浄剤混合物のpHを規定していない点。
[裁判所の判断]
<取消事由1(無効理由5に係る容易想到性の判断の誤り)について>
(3)相違点1の容易想到性について
ア 相違点1の具体的な内容
本件発明1及び引用発明1は,いずれも,生分解性に優れた洗浄剤(金属イオン封鎖剤)の開
発を解決課題の一つとする,組成物の発明である。本件発明1の洗浄剤組成物はグリコール酸塩
を含有しており,引用発明1の洗浄剤混合物に含まれる金属イオン封鎖剤組成物も,グリコール
酸塩の1種であるグリコール酸ナトリウムを含有している。
他方,グリコール酸塩が含有される意義については,本件発明1の洗浄剤組成物では,アスパ
ラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,陰イオン界面活性剤及び/又は非イオ
ン界面活性剤と共に,主成分である3成分の一つであるのに対し,引用発明1における金属イオ
ン封鎖剤組成物では,グリコール酸ナトリウムは,グルタミン酸二酢酸を得る際に,二次的反応
によって生成される不純物であって,金属イオン封鎖剤の効果を奏する上では不要な成分である
とされている点において相違する。なお,甲1文献の前記記載によると,グリコール酸ナトリウ
ムは不純物ではあるが,これを取り除くことなく,反応生成物(グリコール酸ナトリウム)を含
有する溶液をそのまま金属イオン封鎖剤組成物として使用することが可能である(下線は筆者)。
ウ 相違点1の容易想到性の有無について--小括
(ア)以上を総合して判断する。
引用発明1の洗浄剤混合物は,グルタミン酸二酢酸塩類,グリコール酸塩,陰イオン界面活性
剤及び非イオン界面活性剤を含んでおり,本件発明1の洗浄剤組成物と組成において一致し,か
つ,各成分量は,本件発明1において規定された範囲内である。
このように,引用発明1の洗浄剤混合物は,本件発明1の規定する3つの成分をいずれも含み,
かつ,その成分量も本件発明1の規定する範囲内であることに照らすと,単に,グリコール酸ナ
トリウムが主成分の一つであると規定したことをもって,容易想到でなかったということはでき
ない。
この点,被告は,甲1文献では,グリコール酸ナトリウムは,洗浄剤の有効成分と認識されず,
精製して除去されるべき不純物として記載されているのであるから,本件発明1の相違点1に係
る構成は,容易想到ではないと主張する。
確かに,仮に,本件発明1の洗浄剤組成物が引用発明1と対比して異なる成分から構成される
ような場合であれば,両発明に共通する成分である「グリコール酸ナトリウム」が,単なる不純
物にすぎないか否かは,発明の課題解決の上で,重要な技術的な意義を有し,容易想到性の判断
に影響を与える余地があるといえる。しかし,本件においては,前記のとおり,本件発明1と引
用発明1とは,その要素たる3成分が全く共通するものであるから,「グリコール酸ナトリウム」
が単なる不純物ではないとの知見が,直ちに進歩性を基礎づける根拠となるものではないといえ
る(下線は筆者)。
<取消事由2(無効理由5に係る容易想到性の判断の誤り―格別な効果-)について>
前記のとおり,本件明細書の表1ないし表5によると,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/又は
グルタミン酸二酢酸塩類,陰イオン界面活性剤及び/又は非イオン界面活性剤にグリコール酸塩
を加えることにより,pH11において,洗浄能力が高まることが認められ,表1によると,上
記3成分を含む洗浄剤組成物は,pH10~13において,従来品であるEDTA4ソーダと同
程度の洗浄効果を奏することが認められる。
しかし,前記のとおり,引用発明1の洗浄剤混合物は本件発明1の洗浄剤組成物と,グリコー
ル酸塩を含む上記3成分を含有する点で一致する。また,甲1文献の実施例5自体にはpH値は
明らかにされていないが,実施例5の処方4及び5を追試した本件実験報告書の結果によると,
実施例5の処方4及び5の洗浄剤混合物は,pHが10.2~10.3又はこれらに近い数値で
ある場合があり得ると認めることができる。
以上によると,引用発明1の洗浄剤混合物は,本件発明1の洗浄剤組成物と成分を同じくし,
さらに,引用発明1には,pH値が本件発明1で規定する10~13の範囲内か,少なくともこ
れに近い数値が開示されているから,同開示を前提とすれば,引用発明1は本件発明1と同等か,
少なくともこれに近い効果を奏する。したがって,本件特許出願前に公知であった引用発明1に
比べ,本件発明1に格別の効果があるということはできない。
[コメント]
裁判所では、本発明と引用発明1とは、構成成分が全て共通するものであるから、「単に,グリ
コール酸ナトリウムが主成分の一つであると規定したことをもって,容易想到でなかったという
ことはできない。」と判示している。これに対して、洗浄剤組成物事件[平成 24 年(行ケ)10177 号]
では、本事件と異なり、一部の構成成分が異なる事案であり、裁判所は、「グリコール酸ナトリウ
ムは、・・・(略)・・・不純物であると認識されていたことに対して,本件発明1では,逆に,グ
リコール酸ナトリウムを組み合わせることが,洗浄効果を上げるに当たって有益である旨を確認
して,必須の構成としたものであり,その点は,本件発明1の進歩性を認める上で,参酌される
べき一つの要素となり得るといえる。」と判示している。

平成24年(行ケ)10221号「洗浄剤組成物」事件

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