IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
平成26年(行ケ)10052号「一種、またはそれ以上の有効成分を含んでなるアミン反応化合物」事件
名称:「一種、またはそれ以上の有効成分を含んでなるアミン反応化合物」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第3部:平成 26 年(行ケ)10052 号 判決日:平成 26 年 11 月 4 日
判決:請求棄却(審決認容)
条文:特許法36条6項1号
キーワード:サポート要件
[概要]
発明の名称を「一種、またはそれ以上の有効成分を含んでなるアミン反応化合物」とする発明
の拒絶査定不服審判審決について、特許法36条6項1号(サポート要件)の判断に誤りがない
として、審決が認容された事例。
[請求項1]
1重量%~80重量%の柔軟化化合物ならびに,第一及び/又は第二アミン化合物と,香料ケ
トン,香料アルデヒド,及びそれらの混合物から選ばれる有効成分との間の反応生成物,を含ん
でなる柔軟化組成物であって,
前記組成物は少なくとも50重量%の水からなる液体キャリアをさらに含み,
前記アミン化合物の臭気度が,ジプロピレングリコールに溶かしたアントラニル酸メチルの
1%溶液のそれよりも低く,かつ,前記アミン化合物が,ポリエチレンイミン・・(略)・・及びそ
れらの混合物であるポリアミンから選ばれたものであり,
該組成物はpH2.0~5を有し,さらに,前記反応生成物は,該組成物に配合する前に予め
生成させておくことを特徴とする,柔軟化組成物。
[事案の争点となった審決の理由④]
④ 本願請求項1及びその従属項に記載された事項により特定される「アミン化合物」の全てが,
発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもので
あるとは認められず,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該
発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないから,本願請求項1な
いし9の記載は,特許法36条6項1号に適合せず,・・(略)・・特許法36条4項の要件を満た
さない。
[裁判所の判断]
<取消事由4(サポート要件違反及び実施可能要件違反の判断の誤り)について>
(1)前提となる本願請求項1記載の発明の要旨認定について
取消事由4について判断する前提として,原告と被告との間において,以下のとおり,本願請
求項1記載の発明の要旨認定について争いがあるので検討する。
すなわち,原告は,本願請求項1の「前記アミン化合物の臭気度が,ジプロピレングリコール
に溶かしたアントラニル酸メチルの1%溶液のそれよりも低く」との発明特定事項と,「前記アミ
ン化合物が,ポリエチレンイミン,・・・及びそれらの混合物であるポリアミンから選ばれたもの
であ」るとの発明特定事項とは,それぞれ並列の関係にある別個の発明特定要素であり,したが
って,各々のアミン化合物の全てが「臭気度が,ジプロピレングリコールに溶かしたアントラニ
ル酸メチルの1%溶液のそれよりも低」いという要件を充足しなければならないものではなく,
香料ケトンや香料アルデヒドの香りを打ち消す蓋然性があるアミン化合物は本願発明の対象とは
ならない旨主張する(前記第3の4,2)。これに対し,被告は,上記の臭気度に係る発明特定事
項とアミン化合物の選択肢に係る発明特定事項とは並列で別個の発明特定事項であるとはいえな
い旨主張する(前記第4の4,2)。
そこで検討すると,本願請求項1の文言上,上記の臭気度に係る発明特定事項とアミン化合物
の選択肢に係る発明特定事項は「かつ」の語により結び付けられている。そうすると,本願請求
項1の文言において,上記二つの発明特定事項は並列の関係にある別個の発明特定事項であると
いうべきであり,同項の規定するアミン化合物は,上記二つの発明特定事項の両方を満たすもの
に限定されることは明らかであって,このことが一義的に明確に理解できる。
したがって,被告の上記主張は採用することができず,以下,上記の認定を前提に検討する。
(3)検討
そして,前記第2の2のとおり,本願請求項1には,上記反応生成物に関し,「第一及び/又は
第二アミン化合物と,香料ケトン,香料アルデヒド,及びそれらの混合物から選ばれる有効成分
との間の反応生成物」と特定され,さらに上記アミン化合物についてその種類が列挙されて特定
され,かつ,上記アミン化合物のうち,その臭気度が,ジプロピレングリコールに溶かしたアン
トラニル酸メチルの1%溶液のそれよりも低いものに限定されている(前記)。他方,香料ケトン
及び香料アルデヒドの種類については何ら特定されていない。
一般に,化合物の分解速度は,化合物が置かれた温度,湿度等の環境条件のみならず,化合物
自体の構造や電子状態等に複合的に依存して,化合物ごとに,分解を受ける部位や分解の機序に
応じて異なるものであるから,通常,当業者といえども,実際に実験をしない限り予測し得るも
のではない。このことは,本願請求項1の反応生成物からの香料成分の放出についても同様であ
ると解され,本願請求項1のアミン化合物が様々なものを包含するものである以上,一定の環境
下であっても,本願請求項1に列挙されたアミン化合物を用いて生成されるイミン化合物につき,
その一般式においてR,R’,及びR’’がどのような基であるかに応じてC=N結合が分解を受
けて香料成分を放出する速度はそれぞれ異なるし,本願請求項1に列挙されたアミン化合物を用
いて生成されるβアミノケトン化合物についても,・・(略)・・異なるものと解される。
しかし,本願明細書の【発明の詳細な説明】には,前記エのとおり,本願発明によるとされる
布地柔軟化組成物等の具体的な配合例の記載はあるものの,成分の記載があるにとどまり,これ
らの組成物等の香料成分の遅延放出の程度や香りの残留性の程度等,本願発明の課題の解決に必
要な程度に望ましい香料成分の遅延放出をもたらすことや,布地における清々しい香りの残留性
を改良できることを示す具体的な記載はされていない。
また,前記ウのとおり,本願明細書【0125】ないし【0130】には,香料成分の基となる
イミン等の生成過程,及び,それが分解して芳香物質を生成するまでの反応の一般的な説明は記
載されている。しかし,上記の一般的な説明のほかには,本願明細書の【発明の詳細な説明】に
は,本願請求項1の発明特定事項である列挙された特定のアミン化合物で,かつ,その臭気度が,
ジプロピレングリコールに溶かしたアントラニル酸メチルの1%溶液のそれよりも低いものにつ
き,任意の香料ケトン又は香料アルデヒドと反応させて得たイミン化合物又はβアミノケトン化
合物であれば,望ましく遅延した速度で香料を放出し,清々しい香りの残留性を改良するという
本願発明の上記課題を解決できることについては何ら理論的な説明はされていない。
以上によれば,当業者といえども,本願明細書の発明の詳細な説明の記載から,本願請求項1
において規定された反応生成物の全てが,望ましく遅延した速度で香料を放出し,清々しい香り
の残留性を改良するという本願発明の課題を解決できるものであると認識することはできないも
のというべきである。
[コメント]
特許庁では、「アミン化合物」の構成要件が、特許法36条6項1号に適合しないと判断された
のに対して、裁判所では、上記判断となる発明の要旨認定に誤りがあるとしたが、特定のアミン
と任意のケトン及びアルデヒド化合物を用いて生成される「イミン化合物(=反応生成物)」の構
成要件に着目し、審決のサポート要件違反の判断を認容した。
平成26年(行ケ)10052号「一種、またはそれ以上の有効成分を含んでなるアミン反応化合物」事件
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