IP case studies判例研究

平成26年(行ケ)第10045号「ゾレドロネートの使用」事件

名称:「ゾレドロネートの使用」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 26 年(行ケ)第 10045 号 判決日:平成 26 年 12 月 24 日
判決:認容判決(審決取消)
特許法第 29 条第 2 項
キーワード:容易想到性、動機づけ、用法用量、
[概要]
本事案は,原告が,「骨代謝疾患の処置のための医薬の製造のための,ゾレドロネートの
使用」に関する発明につき,特許出願をしたところ,拒絶査定(29条2項)を受け,これ
に対して不服審判を請求したが,不成立審決(拒絶審決)を受けたため,これに不服のある
原告が,審決の取り消しを求め、審決が取り消された事案である。
[本願発明(補正後の本願請求項1)]
2-(イミダゾル-1-イル)-1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(ゾレドロン
酸)又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む処置剤であって,
ビスホスホネート処置を必要とする患者に4mgのゾレドロン酸を15分間かけて静脈内
投与することを特徴とする処置剤。
[審決が認定した引用発明]
ゾレドロン酸を有効成分として含む薬剤であって,乳癌又は多発性骨髄腫のような溶骨性
疾患の患者に4mgのゾレドロン酸を5分間かけて点滴することを特徴とする薬剤。
[審決が認定した一致点]
2-(イミダゾル-1-イル)-1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(ゾレドロン
酸)又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む処置剤であって,ビスホスホネー
ト処置を必要とする患者に4mgのゾレドロン酸を分単位の一定時間をかけて静脈内投与す
ることを特徴とする処置剤。
[審決が認定した相違点]
分単位の一定時間が,引用発明では「5分間」であるのに対し,本願発明では「15分間」
である点。
[争点]
相違点に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由1)
[裁判所の判断]
<取消事由1について>
・・・引用例1及び2に開示されたゾレドロン酸の第Ⅰ相及び第Ⅱ相臨床試験の結果によ
れば,ゾレドロン酸は,4mgという低用量で従来用いられていたパミドロン酸90mgに
匹敵する薬効を奏し,5分間の短時間の静脈点滴で安全性が確保できるものであると理解で
きる。そうすると,このようⅢ相試験で,当該用法用量による安全性について違った結果が
生じて用法用量をより安全性の高いものに変更する可能性があることを考慮しても,第Ⅰ相
及び第Ⅱ相臨床試験の段階では,安全性に疑問を呈するような結果は全く出ていないのであ
るから,患者の利便性や負担軽減の観点からも,引用例1及び2の記載からは,4mgのゾ
レドロン酸を5分間かけて点滴するとの引用発明の投与時間を更に延長する動機付けを見出
すことは困難であるというべきである。
・・・引用例3の記載について・・・エチドロネート及びクロドロネートは,初期の臨床
試験に用いられていた第一世代のビスホスホネートであり,至適投与方法が確立されていな
かった初期の頃に,エチドロネートの短時間投与で腎障害による死亡例が報告されたことが
発端となって,その後開発された種々のビスホスホネートに関しても緩徐な投与が推奨され
ることとなったものであるが,エチドロネートの100倍ないし1000倍の骨吸収抑制作
用の薬効を有するパミドロン酸,インカドロン酸及びアレンドロン酸といった第二世代,第
三世代のビスホスホネートは使用量が少量で足りることもあり,患者の利便性との兼ね合い
で急速投与が検討され,パミドロン酸は1~1.5mg/分,インカドロン酸及びアレンド
ロン酸は10mg/30分の急速投与で安全性が確認されただけでなく,これら3つの製剤
については逆に腎機能障害の改善効果の報告もあることが認められる。
このような本願優先日当時の第二世代及び第三世代のビスホスホネートの開発の経緯及び
急速投与の実績からすれば,当業者としても,引用例3に記載された第一世代のビスホスホ
ネートの急速投与による腎臓への有害事象に関する知見は,第三世代のビスホスホネートで
あるゾレドロン酸に直ちに当てはまるものではないと理解されるものと認められる。
そうすると・・・ゾレドロン酸はパミドロン酸よりも100ないし850倍も活性が高い
ビスホスホネートであって,インカドロン酸及びアレンドロン酸よりもさらに骨吸収抑制作
用が高く少量投与で足りることも考慮すれば,患者の利便性や負担軽減の観点からも,引用
例1及び2において安全性が確認されたゾレドロン酸4mgの5分間投与という投与時間を,
更に延長する動機付けがあると認めることは困難である。
以上のとおり,ゾレドロン酸の急速投与については,腎臓に対する安全性が課題の一つと
され,引用例2の第Ⅰ相臨床試験でも,その点の確認が行われ,第Ⅱ相試験(引用例1)を
経た上で,さらにはそれに引き続く第Ⅲ相臨床試験において,腎臓に対する安全性の関係で
異なる結果が生じることも可能性としては存在したが,引用例1及び2の第Ⅰ相臨床試験,
第Ⅱ相臨床試験では,4mg5分間投与で腎臓に対する安全性に疑問を呈する結果は確認さ
れていないこと,引用例3の記載も本願優先日当時,第三世代のビスホスホネートであるゾ
レドロン酸に直ちに当てはまるものではないと理解されることからすると,引用例1及び2
において安全性が一応確認されたゾレドロン酸4mgの5分間投与という投与時間を更に延
長し,これを15分間とする動機付けがあると認めることはできない。
したがって,本願発明は,引用発明に基づき,引用例2及び3を適用して容易に発明する
ことができたとは認められないから,原告主張の取消事由1は理由がある

平成26年(行ケ)第10045号「ゾレドロネートの使用」事件

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