IP case studies判例研究
審決取消訴訟等
平成 26 年(行ケ)10114 号名称:「投影光学系、露光装置、露光方法、デバイス製造方法、および屈折光学素子」事件
名称:「投影光学系、露光装置、露光方法、デバイス製造方法、および屈折光学素子」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 26 年(行ケ)10114 号 判決日:平成 27 年 1 月 28 日
判決:請求認容(審決取消)
特許法36条6項1号
キーワード:出願時の技術常識
[概要]
本件は、原告が、発明の名称を「投影光学系、露光装置、露光方法、デバイス製造方法、
および屈折光学素子」とする特許出願(特願 2011-148301 号)に対する拒絶査定不服審判(不
服 213-21075 号)請求不成立審決の取消しを求めた事案である。
[補正発明(補正後の請求項1)]
・・・(略)・・・
前記第2面に投影される前記パターンの像の投影領域の中心は,前記光軸と直交する第1
方向に関して前記光軸から離れており、
前記最終レンズは、前記液体と接する面であって前記照明光が通過する射出領域を一部に
含む射出面と、当該最終レンズの射出側の一部に、前記射出面が他の部分に対して突出して
形成される突出部を有し、
前記第1方向の幅に基づいて規定される、前記突出部の中心は、前記第1方向に関して前
記光軸から離れており、前記光軸に対して前記投影領域の中心と同じ側にあることを特徴と
する投影光学系。
[審決(特許庁の判断)]
補正発明は「当該最終レンズの射出側の一部に、前記射出面が他の部分に対して突出して
形成される突出部を有し」という事項(以下「特定事項」という。)を含んでいる。
・・・(略)・・・本願の発明の詳細な説明に記載された発明は、射出面を形成する突出部
を「実効露光領域ER(投影光学系PLの有効投影領域)の形状に応じた」「互いに直交する
2つの軸線方向(XY方向)での射出面Lpbの長さが異なるように形成されている」とい
う事項をその解決手段とするものである。
よって、補正発明は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段
が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することと
なる。
・・・(略)・・・よって、補正発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満
たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
[裁判所の判断]
補正発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるか否かを判断するに当たっては、突
出部の構成要件が全体として特定する上記の一つの事項が発明の詳細な説明に記載されてい
るかどうかを検討すべきである。
これに対して、審決は、前記のとおり、突出部の構成要件の一部のみ取り出して特定事項
とし、当該特定事項を含む補正発明が発明の詳細な説明に記載された事項の範囲内にあるか
を検討している。したがって、その判断手法には誤りがあるといわざるを得ない。
・・・(略)・・・特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号の規定に適合するか否
かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載
された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業
者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や
示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識でき
る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
・・・(略)・・・本願明細書の【発明の効果】の項には、本願に係る発明における投影光
学系では、当該射出面が有効投影領域の形状に応じて光軸に関して回転非対称な形状を有す
ること・・・の形状を採用した結果、像空間において液体(浸液)が介在する範囲を小さく
抑えることができるという効果を奏することが記載されている・・・(略)・・・。
ここに、「回転非対称な形状」とは、「無限回回転対称な形状以外の形状」とされている(【0
009】)ところ、・・・(略)・・・光軸に関して無限回回転対称な形状とは、光軸のまわり
の任意の角の回転に関して不変な形状、すなわち、光軸を中心とする円を指すこととなる。
したがって、光軸に関して「無限回回転対称な形状以外の形状」とは、光軸を中心とする円
を除く任意の形状を指すこととなる。
そして、光軸を中心とする円とは、「光軸を中心とする」という条件(以下「条件1」とい
う。)と、「円である」という条件(以下「条件2」という。)を同時に満たす形状であるから、
これらの2つの条件の少なくとも一方を満たさない形状が、光軸を中心とする円を除く任意
の形状に当たることとなる・・・(略)・・・。
そして、【発明の効果】には、条件1及び2の双方を満たさない形状が開示され、【発明
を実施するための形態】には、境界レンズLbに適用可能なものとして、これと同様の形状
が、第2及び第3変形例として開示されている一方、第1変形例として、条件2のみを満た
さない形状が開示されている。
・・・(略)・・・ところで、本願に係る発明は、射出面を光軸に関して回転対称な形状
(すなわち、光軸を中心とする円)にすると、投影光学系の像空間において液体が介在する
範囲が大きくなるという課題を解決するために、射出面を光軸に関して回転非対称な形状に
したというものである。・・・(略)・・・当業者において、射出面の中心軸線を有効投影
領域の中心に向かって光軸から離すとの形状のみを採用した場合であっても、それに伴い、
射出面を光軸に関して回転対称とした場合に比べて射出面の大きさを小さくすることができ、
上記の課題を解決することができることを当然に認識できるというべきである。
以上によれば、発明の詳細な説明には、発明の課題を解決するための手段としての射出面
(すなわち、最終レンズの突出部)の形状として、条件2を満たさない形状並びに条件1及
び2の双方を満たさない形状が開示されているだけでなく、条件1のみを満たさない形状、
すなわち、射出面が「光軸を中心とする」ものではなく、射出面の中心が光軸から投影領域
の中心に向かって離れているとの形状も、同様に開示されているということができる。
そうすると、発明の詳細な説明には、補正発明の突出部の構成要件に示された形状が開示
されており、補正発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるということができる。
したがって、これとは異なり、補正発明が発明の詳細な説明に記載された事項を超えた事項
を含むとした審決の判断には誤りがある。かかる誤りは、審決の結論に影響するものである
から、審決は取消しを免れないといわざるを得ない。
・・・(略)・・・被告は、補正発明における突出部の構成は、射出面(突出部)が大きさ
を変えない構成も含み得るから、射出面の中心を偏心させるだけで射出面が小さくなるもの
ではないと主張する・・・(略)・・・。
しかしながら、本願に係る発明の効果は、射出面を光軸に関して回転非対称な形状にする
ことにより、射出面を光軸に関して回転対称な形状とした場合に比べて射出面の大きさを小
さくすることができるという点にとどまり、射出面が必然的にある特定の大きさや形状に縮
小されることを発明の効果に含むものではなく、突出部の構成要件も、突出部の大きさや形
状そのものを構成に含むものではない(突出部の具体的な大きさや形状の決定は、本願に係
る発明の実施者に委ねられているというべきである。)。そうである以上、射出面の大きさや
形状に変化がないものが補正発明に含まれるかどうかは、本願に係る発明の上記効果を否定
する根拠となるものではない。
[コメント]
出願当初から補正発明(条件1のみ満たさない形態)を含めることが明らかであるならば、
条件2のみ満たさない形態、条件1及び2の双方を満さない形態だけではなく、条件1のみ
満たさない形態も、明記すべきであった。
特に、否定的な文言(本願の出願当初の請求項1における「回転非対称」等)で発明を特
定する場合、実施形態に限定されないように、多くの変更例等を記載すべきである。
これは、特許となったときに、特許発明の技術的範囲が狭く解釈されないようにするため
にも必要である。
余談ではあるが、補正発明は、「『突出部の中心』は、前記第1方向に関して前記光軸から
離れており」と特定しているのに対して、判決においては、「『射出面の中心軸線』は、前記
第1方向に関して前記光軸から離れており」について判断している。
突出部の中心が射出面の中心軸線と必ず一致するのであれば問題ないが、明細書に「突出
部」という用語が記載されていないことを鑑みると、疑問が残る。
平成 26 年(行ケ)10114 号名称:「投影光学系、露光装置、露光方法、デバイス製造方法、および屈折光学素子」事件
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